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耽美奇譚

発作

作者: 秋暁秋季

注意事項1

起承転結はありません。

短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。


注意事項2

耽美奇譚です。

禁忌として目を瞑り続けても、度々発作のように浮かぶんですよ。

最近は専ら遠ざかってしまったが、いや、遠ざかってしまったからこそ、発作という物は起こるのである。昔浴びていた高揚感をまた味わいたい。そう思うのは珍しい事では無い。


三が日の最終日、私は彼と二人で純喫茶に訪れていた。薄暗い地下は正方形。四方を囲むは塗り壁で、昭和の文豪が愛した世界観が広がっている。そこで私達は珈琲とチーズケーキを嗜む。

「君が書かなくなって、どれ程の月日が経っただろうか」

「失礼な。書いているよ」

私のモットーは多少駄作だと感じても何かしら投稿を続ける事。其れはあの場所に戻ってから、一種の錨の様に私を繋ぎ止めるものだ。

しかし彼は鷹揚に笑って、口を開いた。真っ赤な蜥蜴の口腔が扇情的に私を誘う。

「そうでは無いよ。私が指しているのは生々しい話。人の胸をゾクゾクさせる話」

彼が言っている事が分からない。彼の言う『人の胸をゾクゾクさせる話』というのは、人の頭を抱えさせる様な純文学では無いのか。人の心臓を抉るような生々しい描写ではないのか。

そう視線を逸らして考える私を他所に、彼は手短のチーズケーキの先端を掬い取り、私の前まで差し出した。

「お食べ」

「自分のがあるよ」

「まだ理解して居ないようだから。口に入れて、舌で舐めとって、絡み付いて、拭い去って、吟味して、其れからもう一度、僕が言ったことを考えて」

彼は端正な顔を歪めたまま、それ以降は何も答えなかった。ただチーズケーキの乗ったフォークだけを私の口元付近に押し付けてくる。私は口を開けて彼の行為を受け入れた。

言われた通り、口に入れて、チーズの部分を舌先で舐めとって、舌で潰して、口腔で混ぜて、吟味した後に飲み込んだ。そうすると、彼の言っていた意味が分かるようになる。

今まで不要であると捨ててきた物。耽美で、淫らで、人の欲を掻き乱すもの。そんな欲に跪く訳には行かないと目を瞑り続けてきたもの。それらがぐつぐつの腹の中に沸いた気がした。

夜毎の事。漆黒の髪が胸元に埋まった事。血赤のような舌で口腔を詰られた事。白魚の手で無花果の身を抉り取られた事。

「どう? 人から施しを受けるのは? 自分の意思で其れを容認するのは?」

そう言いながら、何も乗ってないフォークを口の中に入れた。カチカチと要らない音が立つのは、彼がその何も無いフォークを舌先で舐っているからだろう。先程私がした様に。夢夢、忘れさせはしないと示す様に。

「いやらしい夢魔め」

「でも君は自分の意思で夢魔の誘いを受け入れた。済ました顔していても、誘って欲しい気持ちは此方には空けすけなんだよ」

発作ってあるじゃないですか。発作。

ある日突然、その身に降り掛かって、自分の意思ではどうにもならず、ただ過ぎ去るのを待つだけっていうあれ。

だから発作持ちの自覚のある方って、常にその発作と戦いながら生きていると思うんですよ。


ちなみに私は珈琲と耽美描写。

他にもあると思いますが、今はこれです。

普段は何ともないんです。

多少見せつけられても『其れが何か?』程度で済むものなんです。


でもある日突然、魔が差した様に、暗雲が立ち込める様に、其れに狂うんです。

それが無いと生きていけない。書かなきゃいけない。

そうしないと自分が自分じゃなくなる。つまり、

カップに噛み付いてそのまま食べようとしたり、自らの服を毟りとって引き裂いたりしたくなるほど、おかしくなるんです。


この小説、露骨ではありません。その逆、婉曲(えんきょく)なんです。


魔を差し込むのが胡蝶。其れに抗い続けるのが彼女。

『人から施しを受ける』『其れを自分で容認する』って言ってますけど、その『人』というのは果たして『他人』なのか。『容認する』のは『どの自分』なのか。


その曖昧な部分が、発作を起こした時の心情と似ているから、このタイトル。

発作を起こした時、戦わなければならないのは自分自身ですよね。

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