永遠の孤独
私は豪奢なベッドに仰向けに寝かされた女性に声をかけた
「どうあっても、私を愛してはいただけませんか?」
いかれ女!狂っている!
彼女は怒りに目を吊り上げ、数え切れないほどの言葉で私を罵倒した
飛び散った唾がベッドの横に立つ私さえ濡らしそうな有り様だった
一言一言のたびに私に殴りかからんばかりの態度だったが、四肢を鎖でベッドに拘束されていたためそうはならなかった
これは彼女の安全のためであり、私の安全のためでもあった
彼女は過去に何度か私を殺害して逃走しようとしていたし、そのうち何回かは本当に私を殺す直前まで迫っていた
そうなれば、手荒な事をせずに取り押さえるのは不可能だ
本当ならば望みのままにされるべきなのかも知れないが、例え倫理としてそうであろうと、まだ私は死にたく無かった
私は彼女を心から愛している
これだけ拒絶されてもなお、まだ何か愛される方法があるのではないかといつも考えていた
「何でも構いません、私にあなたを喜ばせる事は出来ませんか?」
答えの明白な問いかけ
何度となく繰り返された会話
「早くここから出して、家に帰らせて」
そう言うと彼女は大きな声で赤子のように泣き始めた
言葉の最後のあたりは、もはや慟哭に近い声となっていた
「それは出来ません」
私はそう告げたが、視線は床の周辺を彷徨った
「私を、愛してください」
動悸が激しくなる
どんな答えが待っているか知っているのに、私はそう言わずにはいられなかった
「殺してやる」
彼女が飛び出さんばかりに目を剥いて私を見る
こんな筈ではない
このままでは彼女は狂ってしまう
私のせいで
私の愛が彼女を傷付ける
それでも、私は命ある限りこうしてしまうのだ
抑える事の出来ない怪物が私の中にいる
心臓が早鐘を打つ
あるいは、私は既に完全なる怪物なのかも知れなかった
「心を落ち着けて下さい、いま貴方は危険な精神状態にあります」
何の意味もない言葉だった
私が彼女を傷付けている事は何よりも明らかだった
彼女は見開いた眼で、絶え間なく殺してやると叫び続けていた
手足を拘束する鎖を引っ張りながら暴れる姿は「蜘蛛に囚われた蝶」と例えるにはあまりに無惨で、目を覆いたくなるような光景だった
もはや彼女の美の面影は完全に損なわれ尽くしていた
心が痛んだ
私にも心が存在するのだろうか
どうすれば良いのだろう
私は混乱のままに彼女の手を握った
「心を落ち着けて下さい」
暴力的な狂気の眼が私を視る
しかし、次の瞬間にはそれは烈しい嫌悪の色に染まった
私が彼女の躰に触れるのは生まれて初めての事だった
自分がどう思われているかを私は最初から知っていた
そのため、彼女の肌に触れる事など未来永劫有り得ないと私は思っていた
本当はずっと、こうしたかった
触れた手の柔らかさに、匂いに、暖かさに、私は自分を抑える事が不可能になった
そして激情のままに彼女の上半身を固く抱き締めていた
永遠にも近い時間が流れたように思えた
しかしその刹那、抱き締めていた躰から温度が急速に失われていくのを私は感じた
私は弾かれるように、抱き締める腕を緩め彼女を見た
紅い糸のような血が幾筋も彼女の口から流れ出していた
私の愛した女性は、既に自らの舌を噛み切って自死していた
彼女は本来こんな死に方をして良い命ではなかった
しかし死に様は例えようもなく美しかった




