第一話 最弱の少年
「おはよう、カシュ」
「……ん」
いつもの聞き慣れた声を聞き混濁としていた意識が覚醒する。まだ重い瞼をゆっくり開け声の主である黒猫に向かって挨拶を返す。
「……はよ、クロ」
「昨日も見事に死にかけたね、カシュ。これでもう一ヶ月連続じゃん。いい加減あいつに挑むの諦めたら?」
「……ほっとけ」
俺は目の前にいる黒猫のクロにぼやきつつ、昨日の記憶を辿る。――ああ、またやられたのか。と、昨日の出来事を徐々に思い出す。すると突然、思い出したかのように身体中が痛み出してきた。
「……っつ!」
「大丈夫? 身体中凄い傷だよ。昨日はいつもよりこっぴどくやられたね」
と笑いながら言ってくるクロを横目に、横になっていた身体を起こし自分の状態を確認する。身体中は全身切り傷だらけで所々肉がえぐれている。極め付けは、脇腹に風穴が空いていた。
うん。これでよく生きてると思う。
「しっかし、吸血鬼の生命力って凄いよね。本来なら即死しててもおかしくない傷なのに。しかも、"盟約"で能力が制限されてるくせにさ」
「そ、そんな事より、か、回復魔法かけてくれよ……」
やばい……意識が朦朧としてきた。身体もなんか寒くなってきたし……。本当に死ぬ……
「あーごめん、ごめん。すぐかけるよ。回復魔法 祈り猫」
クロが魔法を唱えた瞬間俺の体が光に包まれる。光が傷口に染み渡るように広がっていきあっという間に塞がってしまった。
「はい、これで大丈夫」
「ありがと、クロ」
本当に毎度、毎度申し訳ない。クロがいなかったらとっくに死んでると思う。クロ様様だ。
「で、今日も戦うの?」
と呆れた顔で聞いてくるクロ。まあ、毎日死にかけてるからな。当然の反応か。
「もちろん戦う。ばあちゃんとの約束だからな。今日こそあいつを、ラムダを倒す。そんでこの森から出る」
――ラムダ この森、クルマリの森のボス的存在。魔竜だ。
漆黒の体躯で体長は二十mを超え魔法を使える。その体は鋼鉄のように硬くどんな物理攻撃も通さない。そして、全てを殲滅出来るほどの攻撃魔法を使う。
正直、今の俺に勝てる相手じゃない。けど何としても倒さないといけない。ばあちゃんとの約束を果たす為に。
「クアイツェとの約束ね……。それって吸血鬼にされてる盟約を破棄させる事だっけ?」
「ああ。盟約を破棄させて吸血鬼本来の力を取り戻す」
盟約とはこの世界の頂点である種族"人間"がそれ以外の種族にかけた呪いのようなものだ。俺も詳しくは知らないがこの盟約のせいで人間以外の種族は戦う力を奪われているらしい。
「ふーん。でもそれだけじゃないでしょ?」
とクロは口角を上げてニヤニヤした顔で聞いてくる。
「……う。まあ、後はこの森を出て外の世界を見て見たいのもある」
「そっちが本当の目的のくせに〜」
「どっちも大切な事だよ。だから一刻も早くこの森を出なくちゃいけない。その為にもラムダを倒さなきゃな」
「なるほどね。ならとっととあの魔竜を倒さないとね。あいつを倒さない限り、この森から出られないんだから」
そうなのだ。この森を出る為には俺一人の力でラムダを倒さないといけない。それがばあちゃんとのもう一つの約束だからだ。
俺は"盟約"のせいで本来の力は使えないから今のまま外に出ていっても生き残れ無いとばあちゃんは言っていた。だからラムダを倒せる位に力を付けろという事らしい。
「とりあえず、朝飯食って少し休むよ。クロー、ご飯ちょーだい」
はいはい、と慣れた様子で近くにある果物を持ってくるクロ。それを貰い食べようとした瞬間、遠くから衝撃音が聞こえた。
ドガァァァ!!
そして、衝撃音のすぐ後に何かの断末魔にも似た叫び声が辺り一面に響いた。
ギィィャァァァ!!
「な、なんだよこの声! な、何が起こった! 」
「落ち着けカシュ! 今、かくに……」
「どうした? なにか分かったのか、クロ?」
少しの沈黙の後、クロはゆっくり口を開いた。
「ラムダの魔力が消滅した」
閲覧ありがとうございます。
初めて小説を書いてみました。拙い文章ではありますが温かい目で見てもらえたら幸いです。
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