3話
「なんで俺はこの世界に転生させられたんだろうな? 冷静に考えてみれば謎だらけだ。あの神様が俺を選んだって言うの意味わからんし、能力もゴミカスみたいな能力よこされてなにをしろって言うんだよ」
座っていると頭も働くというもんだ。
しかも、走って体を使った分先ほどよりも頭が働いている気がする。
一度冷静になることもできたし、今ならいい考えも浮かびそうだ。この状況を打破するいい案を考えつけ俺。それくらいできるはずだ。
「無理だよ。だって、俺の能力終わってるじゃんか。手品みたいな能力で何ができるんだよ」
そうだよ、冷静になったところで俺が持ってる手札は何一つ変わらないんだ。
これでどうにかしようってほうが無理な話だ。俺は俺が持っている力でどうにかするしかないんだよ。
もうあれこれ考えるのはやめよう。
神様だって広すぎる草原に転生させて餓死させるつもりじゃないはずだ。
深く考えたところで意味なんてないんだ。あの神様を信じて、とりあえず歩いてみるのが一番だ。そう遠くない場所に町があるに決まってる。そうじゃないとダメだろ。それはあまりにも無能すぎるだろ。
「もう急いでも体力を無駄にするだけだ。ゆっくりと歩いて向かおうじゃないか。もう少し休憩してこう」
無駄に走った分の体力をしっかりと回復させておこう。
それと、今後の人生設計についても少し考えておく必要があるな。
俺は異世界で何をしたいんだ? もちろん最優先なのは楽しい人生を送ることだが、そこにまずはどう持っていくかだよな。
俺が自分でできることなんて足してないんだよな。っていうか何もない。こんな状態で何を考えるって言うんだよ、俺はあほか。くっそぉ、意味のないことに時間を使ってしまったじゃないか。最悪だよ。
「ひとまず、体力も回復してきたことだし歩こうか。どこか一方向へ向かって歩いてればいつかは草原も終わって何かが見えてくるはずだ」
俺は出発した。
何の意味もないんだろうが、この左手と右手を3秒間入れ替える能力をスムーズに使えるように練習したりもした。
これによって、最初は1秒程度発動までかかっていたものが、一瞬で発動できるまでになった。まずまずの練習成果だろう。いついかなる時にこの能力の出番がやってくるかわからないからなぁ。すぐに発動できるようにしておくことに越したことはないだろう。
「はぁ、何やってんだか。こんな能力いつ使うって言うんだよ。でもそれくらいただ歩くのって暇なんだよなぁ。なんかこう退屈を紛らわせるものとかないのか?」
きょろきょろしながら歩いてみるが、景色は変わる気配はない。
どうしてこんな広大な草原に転生させてんだよ、あの神様は。ふざけてる。
俺の輝かしい異世界生活が幕を開けるのはまだ少し先のことになりそうだな。これじゃあ、学校の通学路を歩いているのと大した差なんてねぇよ。目的地がないってのが、ワクワク感があるのか? そんなことよりも、本当に町にたどり着けるのかって言う不安のほうが確実に大きい。それでも、通学路を歩くことに比べたら百倍楽しいじゃないか。どうして、俺はこれが退屈なんて判断を下したんだ? 未知なことだらけだ。
「気持ちが乗ってきたぜ。これなら、どこまでも歩けそうだ。そうだよ、どこまでも歩いて行こうじゃないか。町につくのはいつになるかわからない。そもそも、こっちに進んで町があるのかすらも怪しい。そんな中での冒険だからこそ楽しいんだよ。行き先がはっきりしてる冒険なんてつまらないじゃないか」
自分を鼓舞しつつ、楽しいことを見つけた俺はウキウキしてスキップなんかもしてしまった。
この年になってスキップしながら進んでいる様はなかなかに恥ずかしいな。俺以外に誰もいないからいいものを、これを誰かに見られたら草原でスキップしてる変人扱いだな。
でも、この草原ってなんの動物もいないんだよなぁ。こういうところってサバンナみたいな感じで、肉食動物や草食動物が大量に生息していてもおかしくない場所だろ? どうして、こう何もいないんだよ。
ライオンに襲われたら俺はなすすべもなく死ぬだけだからそういう意味では助かっていると言わざる負えないが、もう少し何か居てもいいと思うんだよな。つまらねぇ。
スキップって以外につかれるんだな。
とりあえず、スキップは現時点を持って封印しよう。いつまでもスキップしてたんじゃ俺の体力が終わる。まさか、見られたら恥ずかしいだけじゃなく、こんな落とし穴まであるとは。とんでもない技だよ。
「未知の場所を探すとは言いつつも、漠然とそれだけを求めてるんじゃやる気が継続していかないよな。何かそこらへんに面白そうなことがころがってりゃいいんだけどな。何かないかぁ?」
いつまでも変わり映えのない景色の中歩いているのはモチベーションを保つうえでかなりきつい。
これじゃあ、俺のやる気だって長続きしないんだよな。もっと、何か起きてこないと、暇になっちまう。かといって、危険なものは俺が死んじまうからお断りってのも都合のいい話か。動物に襲われても撃退できるような能力だったら俺だってもう少しどっしり構えられてたんだけどなぁ。ほんと、どういう意図でこの能力を選んだんだか。