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2話

 俺に目に飛び込んできたのは途方もなく続く草原だった。


「……俺、本当に異世界に転生させられちまったんだな。しかも、こんな草原に……これからどうすればいいんだよ。でも、これこそが退屈な日々から抜け出すという俺の願いが叶えられた結果じゃないのか?」


 あまりにも唐突すぎる展開についていけない頭で考えてみる。

 そうだよ、俺は毎日同じ日々を過ごすだけの退屈な時間を抜け出したいって思ってたじゃないか。今、この状況に退屈なんて思いは1ミリも湧いてこない。すげぇ、マジで願いが叶っちまったよ。


「うおっしゃぁぁ!! そうなれば、俺は無敵だぜ。どんどん新しいことしてこの世界を生きてこうじゃねぇか」


 まずは、この草原を大いに楽しもう。


「そうだ!! 異世界の草ってのはどんな味がするんだ? うぉぉぉーー!! 気になるぜぇぇ!! まっずぅぅぅ」


 あたりに生えている草を毟って口に放り込む。

 当然、美味いなんてことはなかった。でも、これも食べてみないとわからないことなんだ。俺が今、体を張って試したからわかったことなんだよ。こうやって、一つずつわからないことを解明していくのが楽しすぎる。


「ぺっぺっ、くそっ、まだ口に残ってやがる。俺は何て馬鹿な真似をしたんだ……俺はこんなことじゃへこたれねぇぞ」


 次だ次だ。俺を止める者はこの草原に存在しない。


「待てよ、転生する間際に神様が俺に能力をくれてたよな。ちょっと試してみるか」


 草原のインパクトが強すぎていままで忘れていたが、俺は凄い能力を授かったはずだ。

 記憶を掘り起こしてみる。時間にしてみれば、つい数分前のことだ。思い出せるだろう。


「あれ? 俺の記憶が正しいと右手と左手を3秒だけ入れ替えるだったような……なんだ、この3流手品師でも使わないようなゴミみたいな能力は……割と終わってないか。いやいや、まだ判断するのは早いよな。これによってすさまじい恩恵があるっていう可能性もあるんだ。なんてったって、神様がくれたんだぞ。そんな、ふざけたもんよこすかよ」


 俺は頭の中で能力の使用してみた。


「い、入れ替わってる!! 親指が内側にあるぞぉぉ!! あ、戻った……なんこれ?」


 あまりにもしょうもない一発芸を目の当たりにした時のような感覚に襲われる。

 俺は何て恥ずかしい真似を馬鹿みたいに高いテンションでしてしまったんだ……この能力終わってるって。


 神様から貰った能力がまるで使えないことに絶望してしまう。

 流石の俺もこれは擁護できない。一生一発芸以外で使うことはないだろうと確信してしまった。この能力を活かす方法があるんだったら先に教えてくれよ。ないって言うんだったら、こんなゴミみたいな能力よこすなよ!!


「あの神様マジでふざけてる。これで、ふざけてないって言うんなら頭がいかれてる。俺の純粋な気持ちを返せ!! 何か起こるかと思って意気揚々と使った俺の期待を返せ!!」


 どうしようもないぜ、まったく。つまり、これで俺はこの世界を何も持たずに生きていくことが確定したわけだ。

 何もわからないところで何をすればいいんだ? 俺がこの世界に来てからしたことなんて雑草を食ったことだけだぞ。そもそも、この草原から出るまでに野垂れ死にする気しかしないって。


「諦めるのは俺らしくない。俺はあの退屈な日々を途中まで生き抜いてきた実績があるんだ。この程度の困難、困難のうちにも入らねぇよ。よっしゃぁ、まずは水の確保だ」


 俺は駆け出した。

 水を探しさえすればそこを拠点に数日は生活できるはず。いざとなったら草を食べよう。ミクロ位は栄養の補給にもなるだろう。俺がライオンのように狩りでもできれば、肉にありつけるんだが……それでも調理できねぇから生肉食って死ぬか。そもそも、見渡す限り動物の姿なんて一度も見ていない。つまり、肉を食うのは無理……草しかないのかよ。まずかったってぇ。


「俺の勘がこっちだと言っている!!」


 完全に勘を頼りに、突き進む。正直、こっちになかったら次走る力は残されていないかもしれない。一回限りの火事場の馬鹿力だ。


「何だあれは!? なんであそこだけ木が生えてるんだ?」


 ぽつんと一本だけ木が生えている。

 なぜ、あそこにぽつんと生えているのか見当もつかないが、俺の足はそこに引き込まれるように進んでいった。


「ふぅ、ついたか……うん、ただの木だな。まじで何の変哲もない」


 強いて言えば木が陰になっていてここで休憩すれば気持ちいいんだろうなぁってことくらいだ。いや、どうでもよすぎる。俺はここに、水があってそのおかげで木が生えてるという予想をしていたというのに……。

 ほんとにただ木が生えているだけ、俺はそんなところに迷わず走りこんだとんだ馬鹿野郎だよ。

 自分を情けないと思った瞬間、走っていた疲労が一気に体に降りかかってきた。


「一回、ここで休もうか。疲れたし、休憩はこまめに取らないと熱中症になっちまうからな」


 水はないが、座って休憩するだけでも走り続けるよりは相当マシだろう。

 さぁて、休憩が終わったらどうしようかな。


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