1話
今日もまた一日が始まる。
憂鬱だ、何ひとつ面白いこともない日を過ごさなけらばならないのか……。
「はぁぁ、ものすげぇめんどくせぇ。最悪だ、これからまた学校に行かないといけないのか? 終わってるわ世の中」
俺はこの世の終わりを悟った。
なぜ俺たちは毎日毎日学校などというよくわからない場所に通わないといけないのか?
それが国民の義務だから? 俺の意見なんて何一つ反映されていないものに従わなくちゃいけない理由がまったくわからない。学校なんてくそくらえだ。俺は学校をやめるぞ!!
「まぁ、そんな大それたことをする勇気なんざないから今日もおとなしく学校に向かうんだけどな。あーあ、なんか腰を抜かすようなことが起きねぇかな」
退屈な日々を彩ってくれる何かを求め続ける人生。
俺にはそれが何かわからずに人生の幕を引く未来しか思い浮かばない。果たして死ぬまでに俺は見つけることができるのだろうか?
「え? 母さん。朝飯パンなのかよ。俺は朝はゴハン派だっていつも言ってんじゃんか」
「あんたの意見で全部決まると思ったら大間違いよ。私はご飯よりもパンを食べたいの。作る私の意見が最優先されるのは何もおかしなことじゃないでしょう? そんなにご飯が食べたいのなら、自分で準備しなさい」
「不条理だ、この世の不条理だよ」
「わけわかんないこと言ってないで、学校行く用意をしなさい。遅刻するわよ」
気は進まないが、用意されたパンにかぶりつき、俺は制服に着替える。
食べながら着替えるのが行儀が悪いことくらいわかっているが、そんなことは百も承知だ。俺はそんな小さなことに囚われたりしないんだよ。もっと大きな目ですべてを見ているんだ。ここにいるのは母さんだけ、つまり、母さん以外に俺のこの姿を見られることはない。もちろん、学校ではこんなことしないさ。時と場所は大事だからな。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。テストで赤点取るんじゃないわよ」
耳の痛い母さんの言葉を華麗にスルーして俺は学校への道を急ぐ。
健康のために歩いて通っているという体にしているが、自転車に乗れないから自転車通学ができないという単純な理由で俺は徒歩。急がないと、遅刻してしまうのはいつものことなのであまり焦ってはいないが、それにしても、なんで俺は自転車に乗れないんだよ。ここで、自転車に乗れれば睡眠時間をもう少し増やすことができるんじゃないか? この考えに至るまで何日無駄に徒歩で通ったんだろう。俺は答えへとたどり着いたぞ。明日からは放課後自転車に乗る練習をしよう。
「いつもと変わらない通学路。俺はあと何回この通学路を往復すればいいんだろうな。いい加減飽きるってもんだよ」
何一つ変わらない日常に辟易しながら歩いているが、困ったことに横腹が痛くなってきた。
「何だ? パンを食べた直後に早歩きをしたから、腹が悲鳴を上げてるのか? ちっ、最悪だ。俺の家からだと早歩きじゃないと始業に間に合わないんだぞ」
最初こそ腹痛に耐えながら早歩きを強行していたが、徐々に痛みが強くなり、俺は歩く足を止めてしまった。
「終わった。もう終わりだよ。俺にこれ以上歩く力なんて残されてねぇ。こんな腹痛なんて反則だ。だから、この遅刻も俺のせいじゃない。そう、誰のせいでもないんだ。誰かに責任を押し付けるのは良くないことだ。先生にもこう言い訳しよう」
腹に響かない程度に、ゆっくりと歩きながら学校を目指す。
もうどうせなら、休んでしまえとささやく脳内の悪魔に抗いながら歩くこと数分。俺は抗うことをやめた。
「そうだよ、人生で一度くらい学校をずる休みしたっていいじゃないか。原因を作ったのは俺じゃないんだし、俺が責められることなんて一つもないんだ。何を悩む必要があったんだ。俺はこの大空へ羽ばたこう。いつもは見えない景色が見えるかもしれないもんな。そりゃぁ!!」
俺は腹の痛みすら忘れて走り出した。
ドゴォォン!!
すさまじい音と共に、俺の視界が宙を舞った。
すげぇ、俺マジで飛んでる!! 何が起きたんだ!!
すぐに俺の意識は消えて行ってしまった。
「思い出したかの? 今の一連の記憶がおぬしが死ぬまでに体験した記憶じゃ。ひどいもんじゃろう?」
「本当にすいません。俺が今世紀最大の馬鹿野郎です。どうか、転生させてください」
「わしはもとよりそのつもりでおぬしを呼び出したんじゃ、おぬしがどうしても自分が死んだという現実を受け止めきれんというから記憶を追体験させてやったまで、おぬしを転生させることは既に決まっておるんじゃぞ」
「ありがとうございます。今度こそ、俺は異世界で羽ばたいて見せます!!」
「あんまり張り切りすぎて二の舞にならんよう気を付けるのじゃぞ。それでは、おぬしに授ける能力をここに発表しよう。その名も、3秒間だけ左腕と右腕を入れ替えることができる能力じゃ。おぬしはこの能力を生かして異世界でも生き抜いていくんじゃぞ。頑張るのじゃ!!」
「え? ちょっと待って……」