【やり直し軍師SS-94】2人の軍師①
活動報告に今後の更新ペースについて掲載したしました!
宜しければご一読くださいませ〜
その話はルルリアの手紙から始まった。
「ちょっとお願い事があるので、ルデクトラドに向かいます。ゼウラシア王にも打診しているわ。正式な使者として伺うので宜しくね」
と言った内容。
最近はルルリアが王都にやってくるのはそれほど珍しくない。帝国の巨大港ドラーゲンと、ゲードランドを繋ぐ主要航路の折衝のためだ。
今までも知らせを受ければ、僕らも日程を調整して、王都に滞在しているようにしていた。
けれど、今回の手紙の内容はなんだか少し、様子が違っているような気がする。
ラピリアやウィックハルトと、なんだろうねなどと話をしながら、ルルリア到着の当日を迎えた。
「ゼウラシア王様、そしてゼランド王子様。お時間をいただき感謝いたします」
僕らも並ぶ謁見の間で、恭しく挨拶に臨むルルリア。
「ああ。貴女も変わりないようで何よりだ」
「ありがたきお言葉にて」
それからしばらくは、ドラーゲンの状況など、世間話が続く。そうして一息ついたところで、王の方から「では、此度の用件を聞こう」と切り出した。
「実は……我が祖国のために軍船を出していただけないかと思い、相談に伺いました」
僕はルルリアの言葉を聞いて、ああ、と思い当たる。
彼女の祖国、フェザリスでは少し前にちょっとした戦いに勝利を収めたばかりだ。僕の知る英雄、ドランの名が大陸に轟いた一戦でもある。
そのフェザリスを中心に、今、南の大陸は少々きな臭いことになっていた。
元々不安定な小国で、各国から狙われていたこの国は、帝国とルデクという2つの大国の後ろ盾を得て、周辺国を牽制することに成功した。
しかしこれは結果的に負の面も生み出す。北の大陸とはあまり縁のない国々が、この一件を快く思わず、密かに反フェザリスでまとまり始めたのだ。
もちろん表立って北の大陸に喧嘩を売るような真似はしない。しかし潜在的に、僕らと親交を深めたい親フェザリス派と、反フェザリス派に分かれつつあった。
この辺りのことはすでに、フェザリスの外交官であるダスさんから聞いている。
ちなみに先だっての戦いは、反フェザリス派の中でも、以前からフェザリスにちょっかいをかけてきていた国が攻め込んできたことに対する防衛戦である。
「だが、フェザリスは内陸部にある。大陸内部まで援軍を出せと?」
ゼウラシア王が顔を顰める。それはそうだろう。フェザリスは南の大陸の国の中でも、かなり友好的な付き合いをしている相手だけど、海を渡って兵を出すのは大事だ。金もかかるし、貿易国家であるルデクとしては、後々面倒なことになるかもしれない。
しかし、ルルリアの答えは違った。
「いいえ。その必要はございません。我が祖国はグリードルとルデクの両国が軍船を出したという事実のみが欲しいのです」
ルルリアの説明はこうだ。
南の大陸の海沿いにアーセルという国がある。
この国にはフェザリス王の姉、すなわちルルリアの伯母が嫁いでいる。そのため昔からフェザリスの友好国であったのだけど、アーセル王が崩御したことで雲行きが怪しくなった。
アーセルの後継者は、ルルリアの伯母の実子だったけれど、その妻が反フェザリス派の国の出身なのだ。
反フェザリス派はこの縁をうまく利用して、アーセルを自分達の陣営に取り込もうと動き始めた。
特に、反フェザリス派は戦いに敗れたばかり。ここでなんとか巻き返しを図ろうと、活発に暗躍しているらしい。
新しいアーセル王、モーメント王は少し気の弱い御仁で、実母と妻の間に板挟みになり、どうにも頼りない。
そこでルルリアの伯母は祖国に相談を持ちかけ、フェザリスの軍師ドランが提案した策が、「海上威嚇」であったというわけだ。
「フェザリスにせよ、アーセルにせよ。戦いを望んではおりません。できれば穏便に済ませたいと考えています。ゆえに両国から軍船を出し、可能であればアーセル王と会談していただきたいのです。両国はあくまで友好の使者という体であれば、後々ご迷惑をおかけすることもないかと」
……なるほど。それがうまく行けば、アーセル王の心も定まるだろうし、実際に北から兵が来るというのは、暗黙の脅しにも使える。
ルルリアの言う通り、実際に干戈を交えなければ、南の国とルデクが揉める可能性は少ないな。
さすがフェザリスの名将ドラン。悪くないと思う。
「一つ伺っても宜しいか?」
「もちろんです。ゼランド様。なんでもお聞きください」
「帝国ではどのような話になっているのだ? こちらの返答待ちか?」
「いえ。陛下は既に派兵を許可されておられます。ゆえに、ルデクが派兵に至らぬ場合は、貴国の海域をグリードルの軍船が通過する許可をいただきたく、併せてお願いに参りました」
ルルリアが帝国の陣容を説明する。かなりの数を送り出すようだ。この感じだと、皇帝も何かしら思惑を乗せて動いているな。
「ロア、どう思うか」
王が僕を指名。僕は一歩出て、ルルリアを見る。
「予算に関してはフェザリスが負担、と言うことで良いのですか?」
「もちろんです」
「なれば、北の大陸の強国として武威を示すのは、悪くないと思います。また、アーセルにもこちらの影響を残せる。懸念としては反フェザリスの出方ですが……」
「そこは動かないかと。なぜなら、彼らとて北の覇権を握る2国は恐ろしく思っているのです。彼らは彼らで、あくまで南の大陸内でのやり合いとしたい。ゆえに今、わざわざ怒りを買うような真似はしないでしょう。これはフェザリスの軍師ドランと、外交官ダスの共通見解です」
「ドラン殿とダスさんが保証するなら、確かに大きな動きは見せないと思います」
僕の言葉を受けて、王は決断。
こうしてルデクはおそらく史上初めて、南の大陸へ一軍を差し向けることとなるのだった。




