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【やり直し軍師SS-87】第二皇子の乱11

「第四皇子は籠るようですな」


 こちらの兵数が想定以上であったのだろう。側近の言葉の通り、城門前に展開していたツェツェドラ達守備兵は丘の向こうへと退いてゆく。


 選択としては無難であろう。圧倒的兵数差を前にしては、ここは帝都に立て籠もり援軍を待つしかない。


 しかし残念ながらツェツェドラはやはり素人だ。帝都になど籠ったところでなんの役にも立たぬ。


 本来この都市は、防衛についてはあまり重要視されていない。皇帝ドラクが”戦いの先”を見越して設計しているのだ。


 拡張とともに増やした城壁も、まだ4周目は未完成。さらに巨大すぎる街の規模に対して、たった3千の兵では満足な抵抗は不可能だ。


 強いて可能性があるとすれば、一番内側、王宮での立て籠もり。というかおそらく、それ以外を選択できぬはず。


 フィレマスにとっても王宮での立て籠もりは理想的な展開となる。帝都はいずれ自分のものになる。市民感情も含め、いたずらに破壊したくはない。


 もしもツェツェドラが生き残りをかけて戦うのであったのなら、一度帝都を諦め、近隣の砦に移り抵抗を続けた方が良い。こちらは帝都を優先する。故にこそ万に一つ、活路が見出せたかも知れない。


 だが、帝都に下がった以上、機を逸した。運よく生きて捕縛されるようなことがあれば、一度だけ機会を与えてやろう。フィレマスの下につくか、否か。


 そのように考えている間にも、帝都は目前に迫ってきている。


 しかしそこで、フィレマスは帝都の異変に気づいた。


「煙? 誰に向けた合図だ?」


 帝都からはいく筋もの煙が立ち上り、同時に帝都の象徴である大鐘が繰り返し鳴らされる。


「……何かの罠でしょうか?」


 急に不安そうな顔をみせる側近達。入れ替えた側近は前線経験に乏しい者が多い。


 皇帝の信頼厚い将を遠ざけ、後々フィレマスの命令を聞きそうなものをより集めたので、仕方のないことだが、この程度で動じるとは情けない。


 そのような側近の中でも、数少ない実戦経験豊富な将ボラブが、弱気になった側近を煩そうに叱責する。


「何をしてこようと、所詮3千。こちらが恐れるものは何もない。弱音を吐いている暇があったら、兵達の尻でも叩け」


 言われた方は一瞬不満を顔に出すが、ボラブに睨まれると黙って目を逸らした。


 帝都を手に入れて落ち着いたら、人員は改めて考えねばならんな。フィレマスは周りに気づかれぬように嘆息する。


 しかし、フィレマスが重臣を選ぶ時間は、訪れることはない。


 順調に進んでいた部隊が急に停止した。突然の動きに驚き立ち上がった軍馬から、振り落とされるものが出るほどである。


「誰が止まれと言った!」


 苛立ちながら怒鳴るフィレマス。だが、その理由はすぐに分かる。


 敵が現れた。


 それも一方ではない。フィレマスの軍を包み込むように、四方から敵兵が次々と湧き上がってくる。こちらよりも遥かに多い数だ。


 兵士達はその者達が掲げている旗を見て足を止めたのだ。


 そこにあるのは、帝国皇帝しか持つことを許されぬ黒焔の旗。


 皇帝が、この場にいることの証明に他ならなかった。



「っ………ドラクうううううううう!!」



 フィレマスの叫びが皇帝に届くことは、もう、ない。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「なんだつまらん。これでは戦いにならぬではないか」


 ドラクの直属軍が姿を現すと、フィレマス軍はそれだけで恐慌状態に陥った。


「逆賊フィレマスに加担したものは、家族もろとも根絶やしにするぞ!」


 直属軍の将がそのように大声を上げただけで、武器を捨てて命乞いをする兵士たち。


「しかしながら、被害は少ない方が良いのではないですか?」


 隣で冷めた表情を崩さぬリヴォーテが答える。


「それはそうだが、帝国兵としては少々不安を覚えるな。一度鍛え直すか」


「はっ」


「しかし、フィレマスは逃すにせよ、加担したものを全員見逃してやる必要はないな。リヴォーテ、一部隊を率いて、適当に間引きしてこい」


「はっ」


「ガフォルが背後から攻め立てていよう。合流するか?」


 皇帝の言葉にリヴォーテは不敵に笑う。


「不要でございましょう。ガフォルとどちらが大物を狩れるか、少々遊んで参ります」


「……狩りすぎるなよ?」


「陛下に弓引く者どもなぞ、全て根絶やしでも良いかと思いますが、陛下がそのように仰られるならば、お心のままに」


 リヴォーテが突撃したことで、大勢は完全に決した。


 こうして、一歩間違えれば帝国史上最大の危機となりえた反乱の火種は、第四皇子の素早い対応によって未然に防がれた。


 予定通りフィレマスは逃亡し、ツェツェドラはグリードルの中でも大きな存在感を示す。


 同時に皇帝は、ルルリアという娘の存在を認識。


 この一件によってツェツェドラとルルリアが親ルデク派として発言力を強めたことが、のちの運命に大きな影響を及ぼしてゆくこととなるのである。





いつも読んでいただきありがとうございます。

このお話は書き始めたら長くなるだろうなと思っておりましたが、案の定の長さとなりました。

SSとは? という感じですが、書いている方は楽しく書けたので、お楽しみいただければ嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
ルル様、お素敵です!
感想欄が最後にちょろっと出ただけのリヴォ太郎に染まってて草www いや、自分も「誰だ貴様は!」ってなったけどさw
貴様!何者だ‼︎リヴォ太郎をどこにやった?! え?逆?こっちがもと?…別人格かな? なんてこと思ってたら、感想欄が完全にリヴォ太郎⁈してて笑いました 一個一個の番外編が3桁いってなければショートです…
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