表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/541

【やり直し軍師SS-80】第二皇子の乱④


 ラボカ灯台を調べるための人を派遣して、少しの時が経ったある日。ガフォルがブリジットを引き連れ、深刻な顔でツェツェドラの元にやってきた。


「人はらいを」


 その一言で、フィレマス兄上の件と分かる。


「では、ルルリアも呼ぼう」


「はい」


 ルルリアが入室するのを待ち、ガフォルが口を開いた。


「結論から申し上げれば、灯台付近で大量の武器の搬入などは確認できませんでした」


 その報告に、ツェツェドラは密かにホッとする。兄上が反乱など企んでいなかったのであれば、ロアの手紙の意図がなんであれ、最悪のケースは免れることができる。


「ですが」


 しかし、ツェツェドラが安堵したのは一瞬のこと。ガフォルの口からは不穏な言葉が続く。


「ラボカ灯台の付近は、軍事的にも、政治的にも大した意味のない場所です。にも関わらず、我が手の者が向かったところ、フィレマス様の配下の兵士が周辺を警護しておりました」


「警護?」


「はい。灯台までは一本の細道しかありませんが、その道を封鎖するように。表向きは「古い灯台が倒壊する恐れがあり、民が間違って入り込まぬための対処」と言っているようですが、街道以外にもちらほらと兵士の姿が確認されていることから、些か不自然かと」


「……今のガフォル将軍のお話ですと、倒壊しそうな灯台に、新しく灯台守が配属されたと言うのも矛盾しますね」


 ルルリアの疑問にガフォルも肯首。


「姫の仰る通りですな。それと、この辺りには不釣り合いな大型船が一艘、灯台より少し北に停泊しており、監視している間ずっとその場所から動かなかったと。また、北の方から何度か船がやってきたのは確認しております。それらは灯台あたりで停泊後、再び北へと帰っていった模様」


 ツェツェドラの胃の腑が重くなる。


 それではまるでーーーー


「これらの動きが、反乱であるかはともかく、フィレマス様が密やかに何かをなさっているのは間違いないようです」


 ガフォルの言葉。ツェツェドラは頭で分かっていながらも、本能的に反乱でない別の理由を探そうとしてしまう。


「しかし、北、ですか……」


 ガフォルの報告を黙って聞いていたブリジットは、腕を組んで首を傾げる。


 確かになぜ北なのだろう。ロアの手紙では南のゲードランドから武器を仕入れているような書き様であったが? 北、帝国の先にはツァナデフォル。その船は一体どこからやってきているのだろう。


「それともう一つ気になることがございます」


 ガフォルの言葉に、ツェツェドラも渋い顔を隠せない。


「まだ何かあるのか?」


「はい。これはあくまで報告を上げた本人の所感としての話ですが、灯台のあたりで動きが出始めたのは割と最近ではないかと。我が配下の中でも経験豊富で、信頼できる者の言葉です。それを踏まえて考えると、ロアと言う男の手紙は情報が早すぎる気が致します。その者は一体何者ですか?」


 皆の視線が自然とルルリアに向かった。


 ルルリアは小さく首を傾げてから、


「本人からではありませんが、ロアの側近のウィックハルトと言う方の話では、レイズ=シュタインが後継を考えるほどの方らしいですよ」


「お待ちいただきたい、ウィックハルトとは、先日貴方様を送り届けた際に同行していた、あのウィックハルトですか」


 ガフォルの確認に、ルルリアはこくりと頷いた。


「どの、かは存じ上げませんが、そのウィックハルトで間違いありません」


「いや、それは……失礼ながら勘違いではありませんかな? あの男は蒼弓ウィックハルト本人に他なりませぬ。大陸十弓に数えられる達人です。……その、あのような地味な男の側近というのは……」


「ですが、ご本人がロアに弓を捧げた身だと話しておりました。そのようなお話、私に虚言を吐く意味はないように思います」


 ガフォルも驚いているが、ツェツェドラも密かに驚いていた。ウィックハルトの名前くらいはツェツェドラも知っている。その人物が弓を捧げるような相手……果たして、ロアとはどのような人物であるのか。


「……もしも、本当にウィックハルトがその者に忠誠を誓っているのであれば、レイズの後継者という話も真実味を帯びますね」


 ブリジットの言葉に、ルルリアは少し口を尖らせて抗議。


「私、嘘は吐いておりませんよ」


「ああ、失礼。ルルリア様を疑っているわけではないのですよ。しかし、我々が信じられない気持ちになるほどの相手だということはご理解いただきたいです」


「そうなのですね。理解いたしました」


「……或いは、レイズがロアを使って知らせてきた……?」


 ガフォルが呟く。しかしすぐに頭を振る。


「いや、レイズがそのようなことをする意味がない。むしろ我が国の混乱は、レイズの望むところのはず」


 ツェツェドラは考えれば考えるほど、意味がわからなくなってゆく。


「ロアの話はひとまず置いておきませんか。それよりもまずは、フィレマス様の件です」


 ルルリアの言葉の通りだ。今重要なのは、フィレマス兄様が何をしようとしているのか。


 ロアについては一旦棚上げとなり、全員が再び難しい顔で頭を悩ませることになるのだった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ミニサリーシャ様というより商才あるサリーシャ様活躍伝
2023/08/11 08:20 退会済み
管理
[良い点] 地味な男と言われる本編主人公。笑 手紙の情報はルルリアのための、ある意味嘘情報でしたね。細部は分からず注意を促しただけ。大筋で結果はわかってるものの今後の展開楽しみです。
[一言] そういえば、あくまで噂という体だったお手紙でしたね。 お手紙の内容とはちょっと違っても、現実におかしなことが起きているのをルルリアたちが把握すればよいわけで。 ルルリアたちがロア君からの手紙…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ