【やり直し軍師SS-79】第二皇子の乱③
ルルリアの見つけ出してきた、ラページなる人物。ツェツェドラは再度記憶を弄ってみたが、やはりその名前には覚えがない。
「それで、そのラページとは何者なのだ、最近兄上の側近にでも取り立てられたのか?」
最近取り立てられたのであれば、ツェツェドラが知らなくても無理はない。そして同時にこのような時期に取り立てられたのであれば、確かに怪しい人物であると言える。
しかしルルリアの返事は少々意外なもの。
「いいえ。灯台守として雇われたようです。ラボカという小さな灯台らしいのですが、ご存知ですか?」
「ラボカ……聞いたことがある気もするが、特段印象にはないな」
「近くに廃村があるだけの辺鄙なところらしいです」
「へえ。……え? それは大して重要な役割ではないように思うが……」
「はい。以前は老夫婦が終の住処として暮らしているような場所だったそうですよ。ところが、ここにきて登用した若い方がそこを任されるようになったと」
「うん。それで?」
「このお話は、ツェツェドラ様の配下の方も、ちょっとした茶飲み話として聞いたそうです。「せっかく仕官できたばかりの若い者が、突然灯台守を任された。あんな辺鄙な場所に……」と、まあ、可哀想だなという話だったらしいです」
「……元々、その老夫婦がそろそろ引退を考えていただけではないのか?」
「そうかもしれませんが、少し怪しいとは思いませんか? 私が皆様から聞いた話では、ラボカという灯台は近くに新しくて大きな灯台ができたので、朽ち果てるばかりということでした。そんな場所に、わざわざ働き盛りの若いかたを入れる意味とは……なんでしょうか?」
……ロアの手紙がなければ、そんな事もあるだろう程度の出来事だ。だが、ルルリアの言う通り、前提にゲードランドから武器を密輸している可能性があるなら、話は大きく変わってくる。
「その辺りに武器を隠している……そのように言いたいのかい?」
「……かもしれない。と言う話です。ですが、あの手紙を真実と前提するのなら、時期的には無視できません。……調べられませんか?」
調べる、か。そうなると流石に我々だけの秘密にしておくわけにはいかない。協力を仰ぐとすれば、やはり、あの2人か。
「ガフォルとブリジットに相談して、協力を仰ごうと思う。どう思う?」
「はい。賛成です」
すぐに呼び出されたガフォルとブリジット。ツェツェドラにとっては武と政の両輪だ。
「突然どうされたのですかな?」
人払いを命じたツェツェドラに対して、怪訝な顔の2人。
「非常に大切な話がある。まだ、お前達にしか話せないことだ」
「さて、随分深刻なようですが……その……ルルリア様もご一緒でよろしいのですか?」
ブリジットは遠慮がちに、そのように口にする。ブリジットの気持ちもわかる。やってきて日の浅いルルリアが”大切な話”に参加することに、少しの抵抗があるのだろう。
ブリジットの疑問に対して、異を唱えたのはガフォルだ。
「いや、こちらにルルリア様がおられると言うことは、先日の通達が何か関係していると言うことですかな。私はてっきり、奥方が配下との顔合わせをしたいのかと思っておりましたが」
「おっしゃる通りでございます。ガフォル様。僭越ではございますが、私もお話に参加させて頂きます。まずは、これを」
ルルリアが差し出した手紙を、ガフォルは丁寧に受け取ると、黙って目を通し始めた。
しばし沈黙がその場を包む。
沈黙を破ったのはガフォルだ。
獣の唸り声のようなものを上げ、手紙から目を離したガフォル。鋭い目つきでツェツェドラを見やると、手紙をブリジットに手渡しつつ「事実ですか」と短く聞いてきた。
「……ルデク側の撹乱の策である可能性も、捨てきれはしない。だが、そうでなかった場合、放置すれば我が国には大変なことが起こる」
「……左様ですな」
そうこうしているうちに、ブリジットも手紙を読み終える。
「……俄かには信じられぬ話ですね」
「私も半信半疑だ。それだけに、兄上が本当にそのような恐ろしいことを考えておられるのか、探りたいと思っている」
「探る? ですか」
「ああ、まずはルルリアが見つけた、ラページと言う人物の話を聞いてほしい」
ツェツェドラが促すと、ルルリアはツェツェドラに説明したのと同じことを2人に伝えた。
「……と言うわけです」
「確かに、あの場所に若い男を送るのは少々違和感があります」
そのように反応したのはブリジット。
「ブリジットはラボカと言う灯台を知っているのか?」
「ええ。あと数年もすれば取り壊すのではないかというような代物です。人を入れる必要性さえ感じません。故に、ルルリア様のご指摘は案外的を射ている可能性はありますね」
「……ガフォルはどのように思う?」
「……調べさせる価値はありそうですな。私の手の者を派遣しましょう」
「頼む」
「お任せください。ではまず、その結果待ちですかな?」
ツェツェドラが頷き、話をまとめようとした時、
「あの、もう一つ宜しいですか」とルルリアが口を挟む。
「まだ何かあるのかい?」
一仕事終えた気持ちのツェツェドラに、ルルリアは再び驚くような話を提案するのだった。




