【やり直し軍師SS-78】第二皇子の乱②
「しかし、私たちで調べると言ってもどうすれば良いのか……」
ツェツェドラの困惑に対して、ルルリアは「任せてください」と胸を張った。
「まずは、フィレマス様やその周りの方々、それにバソルという大臣について教えてください。私、まだどなたの事も存じ上げませんの」
それはそうだろう、ルルリアが帝国にやってきてから僅か数日。ツェツェドラの側近の名前ですら満足に覚えていないのではないか。
「あら、そんな事ありません。ツェツェドラ様の側近の方はすでに、お名前もお顔も把握しています」
「本当か?」
「ええ。ご存知の通りフェザリスは小国。商いでどうにか国を維持しております。ゆえにこそ、商売相手の顔と名前はすぐに覚えるのは大切な能力です」
「……そうか」
多少大袈裟に言っているのかも知れない。それでも大したものだなとは思うが。
「フィレマス兄上のことはよく知るが、その側近となると、どこまで詳しく話せるか。表面上のことばかりになると思うが」
「では、ガフォル将軍やブリジットさんなら如何ですか? それぞれの皇子の側近として、ツェツェドラ様が知らないことも聞いておられることもあるのではないですか?」
「それはあり得るだろうな」
「では、私、皆様に聞いて回っても良いですか?」
目をキラキラと輝かせて、こちらに身を乗り出してくるルルリア。なんというか、最初の淑やかな感じはあまりない。少し驚くツェツェドラに、ルルリアはハッとして身を引いた。
「すみません。つい。……このようなはしたない女はお嫌いですか?」
少し恥ずかしげにツェツェドラを見るルルリア。コロコロと表情を変えながらそんな風に聞いてくるので、ツェツェドラは思わず吹き出してしまった。
「いや、失礼。全く構わないさ。3名いる皇妃の中にも、とても活発なかたがおられるし、私はその方の性格を好ましく思っている。無理に自分を押し殺す必要はない。その代わりと言ってはなんだけど、私もなるべく自然体で接するように約束しよう」
ツェツェドラの言葉を聞いて、パッと笑顔を見せると、またすぐにこちらへ体を寄せてきた。
「では、明日より数日、空き時間は皆様のお話を聞いて回らせていただきますね!」
「それは構わないが、そんなことをして、いったい何が分かるというのだ?」
「……それはまだ、分かりません!」
「え?」
あまりにも堂々と言い放つルルリアに、ツェツェドラは口を開けて固まる。
「何をするにもまずは人です。人を知ることから始めないと、どこが問題で、どこを突くべきなのかも分かりませんから」
「そういうものなのか?」
「ええ。そういうものですよ」
ルルリアの堂々とした物言いに、ツェツェドラはなんとなく納得してしまう。まあ、ぼんやりと手紙を眺めていても仕方ないのは事実だ。
それに、ルルリアがどのような人なのかを見る良い機会かもしれない。それならば、この婚約者に少し任せてみても良いような気もしてきた。
「……分かった、明日一番にガフォルに伝えて、ルルリアの聞き取り? に協力するように通達しよう」
「ありがとうございます。あ、もちろん、婚儀に関する準備もおざなりにはしませんので、ご安心くださいね!」
そんな溌剌なルルリアを見て、ツェツェドラも少し元気をもらった気になった。
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翌日よりルルリアは、宣言通り合間を見ては、ツェツェドラの配下たちに様々な話を聞いて回ってた。
政務の報告にやってきた政務補佐官のブリジットは、「随分と愉快な姫様がお越しになられましたな」と笑う。
ブリジットの知る限り、ルルリアは大きなトラブルを起こす事もなく、巧みに人々の話を集めているらしい。
ブリジットと入れ違いにやってきたガフォルは、「何やら小さなサリーシャ様が領内にいるような心地ですな」などと言う。
言い得て妙だなとは思う。どこでも明るく、それでいて奔放さを発揮し始めたルルリアは、サリーシャ様によく似ていた。
そんな日々が4、5日ほど続き、夜、ツェツェドラの元へとやってきたルルリアが、「糸口をつかめるかもしれません」と進言してきた。
「こんなに早くかい?」
「あくまで最初の一歩。当たっているかは分かりませんが、探りを入れるべき人物を見つけ出しました」
「まずは、その人物の名前を聞こうか」
「ラページ、という方です」
「聞きなれない名前だな」
「ええ。比較的最近、フィレマス様に登用された方のようですね」
ツェツェドラも把握していない兄の配下の名前を聞き出してきたルルリア。それだけでも少し驚きだったのに、そこからルルリアはさらに、聞き捨てならない話をし始めるのであった。




