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【やり直し軍師SS-77】第二皇子の乱①

昨日SQEXノベル大賞の結果が発表され、本作「滅亡国家のやり直し!今日から始める軍師生活。」の本編が大賞を受賞致しました!!

皆様の温かいお言葉あっての受賞だと思っております。この場をお借りして、読んでいただいた全ての皆様に感謝を!

書籍化も決定いたしましたので、良いものになるよう、精進して参ります!


 グリードル帝国の第四王子、ツェツェドラ=デラッサは難しい顔でテーブルに視線を落としていた。隣には婚約者であるルルリアも一緒だ。


 つい先日、対面を果たしたばかりの初々しい二人が、余人を挟まずに私室で顔を突き合わせているというのに、そこには甘い空気はなかった。


 別に2人の関係に大きな問題があるのではない。実際、ソファに並んで腰掛ける程度には仲睦まじい。


 重い空気を漂わせている原因は、二人の目の前に置かれた一通の手紙にあった。


 手紙の差し出し主は、ルデクの第10騎士団に所属するロア。ルルリアが乗った船が漂流し、ルデクに救出されてからグリードルへ至るまで、ルルリアの面倒を見てくれた人物である。


 そのロアが、別れ際にルルリアに渡してきたものが2通の手紙であった。1通はルルリアお気に入りの、ポージュの作り方。これはなんら問題ない。


 そしてもう一通が、現在テーブルにある代物。


 ロアは「できれば2人で読んで欲しい」と言っていた。祝いの類の内容かと、さして構えずに開いてみて驚いた。お祝いどころではない話が淡々と記されていたのだ。


『ゲードランドに出入りする商人から不穏な噂を聞いた。第二皇子のフィレマスと大臣のバソルが反乱を企てている可能性がある。ゲードランドを経由して、2人は密かに武器を集めているようだ。近々良くないことが起こるかもしれない。噂の域を出ないけれど、情報筋は確かだ。この情報をどのように扱うかは、君たち夫婦に任せる。』


 ……ツェツェドラにとっては俄かに信じがたい話である。


 兄のフィレマスはツェツェドラよりもずっと有能で、父上(ドラク)の期待も厚い。ツェツェドラが地方領主に任じられるにとどまっている中、ルデク侵攻の指揮官を任されていることからも、期待度の違いは明らかだ。


 尤も、ツェツェドラは今の自分の立場に不満はない。自分は兄上たちのように、皇帝の責務を継ぐような器はないと思っている。兄上たちの支えになりながら、今のような地方領主を務め上げるのが性に合っていた。


 やはり、信じられない。


 ツェツェドラは何度目かの首を振る。


 そんな様子を見ていたルルリア。ツェツェドラの気持ちを汲んでか、手のひらに自分の手をそっと重ね、優しく語りかけてきた。


「ツェツェドラ様、そのようにお心を乱すお気持ちは分かります。しかしながら、あのロアという人物、かのレイズ=シュタイン様も一目置く存在であるそうです。そのような方が、無意にこのような手紙を置いてゆくとは思えません」


「だが、この手紙そのものが罠である可能性はないか? 私と兄上の関係を引き裂くための」


 ツェツェドラはそのように口にしながらも、可能性は低いような気がした。根拠のある発言ではない。実際に会って話したロアという男の印象と、この手紙の内容が何かそぐわないように感じただけだ。


「……ご懸念は尤もですね。罠である可能性はあり得ます」


 ルルリアの返事に、ツェツェドラは少し意外な気持ちになる。ルルリアはロアに随分と心を許しているように思ったが、本当はそこまで信用していないのだろうか?


 そんなツェツェドラの気持ちを再び汲み取ったのか、ルルリアは続ける。


「もしかするとこの手紙は、ロアが認めたものではないかもしれない、ということです。書いたのはロアでも、内容を決めた者が、別にいる」


「なるほど……」


 例えば、レイズ=シュタインの策。排除できない話だ。しかし、それはそれとして、ツェツェドラは妻になる予定のルルリアの横顔を改めて見た。


 随分と頭の回る人だ。


「どうされました?」


 ルルリアに聞かれて慌てて顔を逸らす。自分の顔が少し熱くなっているのが分かった。


「いや、なんでもない。しかしどうするべきか……やはり、父上にお知らせするのが良いか……」


 最も無難な選択肢だろう。しかし問題もある。父上は現在、ビッテガルド兄上と共に北の最前線にいるはず。この手紙がいつ届くかも分からない上、仮に偽情報だった場合は無用な混乱を生むことになる。


 あとは、帝都にいるサリーシャ様に相談するか……


「あの……ツェツェドラ様、宜しいですか?」


「どうしたのだ?」


 悩むツェツェドラに対して、ルルリアは目を細めると、そっとツェツェドラの耳元に唇を寄せる。


「まずは私たちで調べてみませんか? 対応はそれからでも遅くはないでしょう?」


 ルルリアの言葉に目を丸くするツェツェドラに向かって、少し離れたルルリアは改めて、


「ね、旦那様」


 と悪戯っぽく微笑んだ。



このお話はかなり序盤から書くつもりであったのですが、もう少しルルリアの掘り下げができてからと後回しにしておりました。ようやく公開です!

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― 新着の感想 ―
[一言] おめでとうございます!!! コミカライズだと個人的になぜか敷居が低い(つまり手軽にかっちゃう)ので色々買ってますが、小説本で買ってるのは少ないのですが、この作品だけは未だ何も決まってないウチ…
[一言] 書籍化おめでとう御座います! 絶対買いますよー!
[一言] SQEXノベル大賞受賞 & 書籍化おめでとうございます。 是非このss編も上手いこと組み込んで頂けたらと思います。
2023/08/08 18:27 退会済み
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