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【やり直し軍師SS-76】フレインとリュゼル(下)


 競い馬施設建造の話は、予定通りゼランド王子から王に伝わった。


 実際に成功例を見ているゼランド王子の説明は説得力があり、思いの外あっさりと承認が降りる。


「で、俺もゴルベルの施設の見学に駆り出されるんですけど……。どう言う組み合わせですか? これ」


 造成前にゴルベルの施設を実際に見ておいたほうが良いだろう。そんな王の提案もあり、急遽結成された使節団にサザビーも選ばれたらしい。


 そのサザビーが、僕の執務室にきて愚痴をこぼす。でも人選は僕が決めたわけじゃないからなぁ。


 サザビーと共にゴルベルに出向くのは、双子とフレイン、それに兵器開発部のホーネットと、第六騎士団よりフーマンという若い兵士。さらにリヴォーテ。 


 ……サザビーの言わんとしているところは伝わる、個性的な集まりであることは否定しづらい。


 尤も、これらの選定にはちゃんとした理由がある。


 まず双子は元々競い馬の発端となった二人だ。実際に現地を見て気づくことも多いだろう。当人たちも同行を強く要望した。まあ、ここはいつもの組み合わせだ。


 フレインも順当。リュゼルとどちらが視察に行くのかで少し揉めたけれど、最終的にフレインが権利を勝ち取った。


 フレインは僕と同じくらい多忙を極めていたので、良い気分転換になれば良いなと思う。


 次にホーネットだけど、こちらは何らかの工作物が必要となった時に、やはり実物を知っている人間が開発部にいた方が良いという王子の提案。


 ドリューは現在北ルデクに滞在中なので、代わりにホーネットに白羽の矢が立った。


 フーマンは土木作業を担当する第六騎士団からの派遣。この人も中々の曲者で、戦よりも土木工事が好きという変わり者。フォガードさんの推薦だ。


 リヴォーテに関してはよく分からないけれど、何かしら帝国の利益になると思ったのかもしれない。リヴォーテに関してはルデクが口出しする部分ではない。


「まぁまぁ。後からネルフィアも合流するんでしょ? なら良いんじゃないの」


「まあ、そうなんですけどね」


 ネルフィアの名前でサザビーの機嫌が少し治る。ちなみにネルフィアは例の如く仕事中毒っぷりを発揮していたので、王から強制休暇命令が出た。


 最近は僕の周りにサザビーかネルフィアのどちらかがいたので、2人とも不在というのは少し珍しい。


「私が不在の間、何かあればこのシヴィに申しつけてください」


 そのようにネルフィアから紹介されたシヴィは、明るく話好きなのにどうにも印象に残りづらいという不思議な感じの女性だ。


「なんでもお任せくださいね。ところで、ロア様とラピリア様の馴れ初めなんか聞かせていただけると、嬉しいのですが」と、初っぱなからぐいぐい来る。


「……まあ、こんな感じで少々煩いので、適当にあしらっておいてください」とは、ネルフィアの助言。


 そんなシヴィの前にはウィックハルトが立ちはだかり、「用があればロア殿の代わりに私が受け付けますので」と宣言して、しばしにらみ合いに。


 何やら妙な対立構造を生み出して、互いに不敵に笑っていた。


 ……とりあえず、シヴィの事はウィックハルトに任せよう。


 ともかく、ネルフィアは抱えた仕事が終わり次第、ゴルベルでサザビー達と合流することになっている。


「リヴォーテは双子に任せておけば良いし、フレインもいるから心配いらないんじゃない?」


「ロア殿は簡単に言ってくれますけどね。いっそ一緒に来てもらえませんか?」


「行きたいのは山々だけどね、フレインが長期不在となると、やっぱり僕まで一緒に行くというわけにはいかないからね」


 普段は僕があちこちフラフラしている間、フレインがしっかりと第10騎士団を統率してくれているのだから、たまにはちゃんとしないとだ。


 ひとしきり愚痴を言い終えたサザビーは、ひとまず満足したらしく、数日後には皆と共に王都を出発して行った。



 さて、今回留守番となったリュゼルだけど、こちらはこちらで下準備に忙しい。


 現在、第10騎士団の新兵訓練を一任されているリュゼルは、その役割を活用して、訓練にかこつけた基礎工事に勤しんでいた。


 中々の職権濫用ではあるけれど、王公認の施設だし、そもそも以前に僕自身がトゥトゥで似たようなことをしているので、文句は言えない。


 実際、新兵の訓練はちゃんとしているあたりは、流石リュゼルといったところ。時折僕も王子やルファと連れ立って様子を見に行ったけれど、工事は順調のようだ。


 そうして日々忙しく過ごしているうちに、サザビー達が帰還する頃合いに。


 帰ってきたサザビーが開口一番、


「ロア殿の嘘つき! めちゃくちゃ大変でしたよ!」


 と抗議して来たので、今回も愉快な旅路であったようで何よりだ。


 それぞれの報告を聞く限り、ゴルベルの競技施設はかなりの代物であったらしい。


 確か、ゴルベル王の話だと競い馬に熱心な貴族が私財を投入するほど入れ込んでいるという話だったな。


「ダービー様ですね」


「ああ、そんな名前だったよね」


「ゴルベルでは競い馬の協会を設立して、その初代責任者に就任されるらしいですよ」


「また、随分と本格的だね」


「ええ、俺も驚きました。ですが先々を考えれば、ルデクでもなんらかの管理機関は用意した方が良いかもしれませんね」


「そうだね。それこそ、フレインかリュゼルが中心になってやれば良いんじゃない」


「俺もそう思います」



 こうして始まった競い馬の競技施設の建設。フレインとリュゼルの情熱の結晶は、完成までには1年近い歳月を費やした。


 完成後、フレインはルデク競い馬協会の初代会長に、リュゼルが副会長に就任。


 2人は競い馬の発展の父として、歴史の一頁にその名を刻んだのである。


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― 新着の感想 ―
[一言] フレインとリュゼル、本当にお馬さん愛の塊。競い馬の発展に寄与したのですね。 二人が父なら、双子は競い馬の母ですね! そしてサザビー、お疲れさまー!
[良い点] 馬好きのお二人のこと、後世に残る素晴らしい施設を作り上げたことでしょう。 [一言] SQEXノベ大賞の大賞受賞おめでとうございます。これが言いたくてログインしてきました。書籍の発売楽しみ…
[一言] フレイン杯とか将来は出来たんでしょうか??
2023/08/07 08:09 退会済み
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