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【やり直し軍師SS-75】フレインとリュゼル(上)

 僕らがルデクとゴルベルを繋ぐ街道整備の視察を終え、王都に帰還した後のとある日。


「ロア、重要な話がある」


 僕の執務室にやってきたフレインは、ひどく真剣な顔をしていた。


 僕の不在時は第10騎士団を任せているフレイン。彼の存在は非常に大きい。何か困ったことが起こったのであれば、協力は惜しまないつもりだ。


「……まずは一緒に来て欲しい場所があるんだ。今、時間大丈夫か?」


「構わないけれど、どうしたんだい?」


「ひとまず実際に見てもらってからの方が、話が早い。それと、できれば王子にもご同行を願いたいのですが……」


 ごく当たり前のように僕の部屋でくつろいでいるゼランド王子に視線を向けると、「構わぬ」と気軽に返事する王子。


「もちろん私たちも同行して構わないのよね」


 ラピリアの言葉には、「ああ、特にラピリアには意見を聞きたいからな」と含みのある言葉を放つ。


「私も良いの?」


 ルファが聞いても「もちろんだ。意見は多ければ多い方が良い」との答え。


 表情からして深刻な相談かと思ったけれど、どうやらそうではないらしい。


 状況を理解できぬままに、フレインによって王都から連れ出された僕ら。


 愛馬(アロウ)を走らせることしばし。ルデクトラドから少し離れたある野原まで行くと、人影が見えた。そこにいたのはリュゼルと双子だ。


「おお、ロア、来たか。王子もご一緒でしたか」


 何やら双子と話し込んでいたリュゼルがこちらに気づいて、手を上げてから、改めて王子に一礼。


「遅いぞ」

「時間は金だぞ」


 とりあえず双子は放っておいて、全員が下馬したところで僕は改めて問いかけた。


「一体全体どうしたと言うのさ?」


「どうしたもこうしたもない」とリュゼルが言えば、


「ロア、お前、俺たちに話していないことがあるのではないか?」とフレインも詰め寄ってくる。


 話していないこと? ……全く心当たりがない。重要な話はきちんと2人にも伝えているはずだけど?


 全くピンと来ていない僕に対して、2人はさらに言葉を重ねた。


「ゴルベルでは随分と楽しげな催しを行ったらしいではないか」


「しかも、ゴルベルは専用の競技施設も作ると双子から聞いたぞ」


 そこまで言われて、僕はようやく思い当たる。


「あ、もしかして競い馬のこと?」


「もしかしなくてもそれしかないだろう。そもそも、ゴルベルに親善に向かった時に、競い馬などというものをやったことすら聞いておらんぞ」


 リュゼルは口を尖らせながら僕に抗議してくる。


「あれ、言ってなかったっけ?」


「聞いていないな。双子が何やらゴルベルの兵達と駆けくらべをして勝ったと言う話は耳にしたが……」


 そうか。まあ、あの時期はそれどころではなかったからなぁ。競い馬のことはおまけ程度の認識だったし、簡単にしか話してなかったかも。


 フレインとリュゼルといえば、第10騎士団でも指折りの馬バカだ。競い馬は興味のある出来事であったのだろう。


「……ん? ってことはもしかして……ルデクでも競い馬をやりたいって事?」


「もしかしなくてもそうだ。そしてこの場所、会場として手頃だとは思わんか?」リュゼルの言葉に、フレインも、双子も満足げにこちらを見た。


「ここが手頃って……ここ、多分王家の直轄領でしょ。勝手に造ったら怒られるよ?」


「そうだ。だからロア、王の説得を頼む」


「ええー」


 展開が早すぎる。造るかどうかの話し合いはないの? もはや彼らの中では競い馬会場の設営は決定事項みたいだ。くっ、馬鹿二人が止まらない!


 フレインもリュゼルも、今や相応の立場にある人間だ。この2人がやりたいとなれば、話が大きくなる。


 とりあえず国内の状況は落ち着いているから、王も駄目とは言わないだろうけれど、規模や予算なんかも考えないとだ。さて、どうしようかな……


「私が父上を説得しよう」


 僕が考えを巡らす間に、そんな風に口を挟んだゼランド王子。


「王子、本当ですか? それはありがたく存じます」


 フレインの言葉に王子は鷹揚に返す。


「うむ。その代わり、私が中心となる事業にするが、良いか?」


「無論です」


「ならば問題ない。先生。私にお任せいただけますか?」


「僕は構わないけれど、むしろ良いのかい?」


 なんだかフレインやリュゼルに、うまく使われた気がしなくもない。


 王子はごく当たり前に僕のところに出入りしているから気安いけれど、臣下に気軽に使われるのも如何なものかと気になった。


「ええ。私にも利のある話です。実は父上より王位継承の下準備として、私主導の物事を少しずつ増やすように言われています。この競い馬もその一環として使えればと考えました。ゴルベルでの様子を見れば、王都でも十分に民に喜ばれるはずですから」


 ……なるほど、そういう事なら文句はない。催しが成功すれば市民から王子の印象が一つ上がる。そして既にゴルベルの前例に学んで、失敗する可能性は低いと見込んだ、と。


 その上で自分の功績作りに利用する。うん。王子もなかなか打算的な考えを巡らすようになったなぁ。誰の影響かな。


 ともあれ王子から許可が降りたので、フレイン、リュゼル、双子は気の早いことに、その場で具体的な造成計画を話し始める。


 どうやら、視察の時に双子がゴルベル王から聞いた競い馬の施設を基準に、色々と計画するようだ。


「ゴルベルで作ったコースは平坦ということだったな。ここも平坦にするか?」


 そんなフレインの言葉に、


「しかし、ただ平坦では俺の愛馬、スタンリーの実力が存分に出せん」


 とリュゼルが抗議。


「なら坂を作ろう」

「あとは地面はどうする」


「ゴルベルでは木片を敷き詰めると言っていたのだな。木工が盛んな彼の国だからこその発想か……」


「ルデクではすぐに準備するのは難しいな」


「それなら砂にするか」

「砂ならすぐに用意できる」


「いや、今度は俺のグリエンが不利ではないか?」


「それならこの草原を短く刈って、通常の地面と2種類のコースを造ってはどうだ?」



 4人の熱い議論を少々呆れながら眺める僕の横で、アロウがくああと大きなあくびをするのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 馬(アロウ)まで良い味出し始めた(笑)
[一言] 100年後。 アナウンサー「もっとも格式高いレース第100回ルファ王妃杯まもなく発走です。」 王子がルファの気を引く為に名前を冠したレースを作る所まで見えた(笑)
[一言] 馬といったらこの二人! お馬さん愛に溢れた彼らに競い馬の話がいってなかったとはー。 そりゃあもう……燃えますよね? そして二人して出場ですよね?! 発案者の双子もいるし、実績は十分。王子が…
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