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【やり直し軍師SS-72】ルブラル(上)


「……旅一座か。この審査所を通るのは久しぶりだな」


 ゾディア達は今、ゴルベルとルブラルの国境の小砦に立ち寄っていた。ルブラルには入国審査制度があり、国境近くの砦や町村で入国許可を受けなくてはならない。


 北の大陸でこの制度を導入しているのはルブラルとシューレット、それにツァナデフォルの3国だけだ。


 ツァナデフォルはともかく、ルブラルとシューレットに関しては、かつて両国間で起きた、諜報部同士の暗躍による大きな混乱が要因と聞いたことがある。


「許可はいただけますか?」


 入国に際して幾つかの質問を受け、無難に答えたゾディアは、審査官である老兵に笑顔を見せる。


 老兵は対照的に不機嫌そうな顔で、ゾディアとその後ろにいるル・プ・ゼアの面々を見やった。


「……ああ。構わんさ。今日はこの辺りで何か演るのか?」


「そうですね……私たちもルブラルを訪れるのは久しぶりです。ゆっくりと回ろうとは思っています」


「そうか。それならビリーの町を訪ねてくれんか? あそこには娘夫婦が住んでいる。孫もいるのだ。……どこも1年以上旅一座が訪れていない。みな、喜ぶはずだ」


 老兵の言葉を聞いたゾディアは、背後にいたベルーマンに視線を運び、こくりと頷くのを確認。


 そして再び老兵に向き直い、


「では、折角ですのでそうさせて頂きます。確か、ここから北へ半日ほどでしたか?」


 と答えた。


 ゾディアの返事を聞いた老兵は、そこで初めて顔を綻ばせる。


「ああ。この辺りはまだマシだが、この一年で随分と治安が悪くなった。気をつけて行くといい」


 そんな言葉に送り出されて、ゾディア達は北へと足を踏み出した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 ルブラルに入国してすぐに、ル・プ・ゼアの年少であるデンバーが不満を漏らす。


「ひどい道だなぁ」


 デンバーの言葉に皆が苦笑。言葉に出さないだけで、みな、同じことを思っていた。


 困ったものだとゾディアは苦笑。自分も含め、ルデクの道に随分と慣れてしまった。


 ルデクは目覚ましい速度で街道整備を進めていた。騎士団が手掛ける主要な街道はもちろんのこと、同時進行で田舎道の整備にも着手したのだ。


 各町村に金を出して人手を確保し、周辺道路の整備を命じた。結果、国内各地で随分と歩きやすい道が出来始めている。


 ルデクの影響を受けたゴルベルも同様だ。ルデクの元、技術で稼ぐことを選択したゴルベルも、ロアの説明を受けて街道整備の重要性を認識。


 ルデクほどではないが、主要な道はかなり整い始めているのは、今回通ってきて実感したばかりだ。


 両国とルブラルの街道は、すでに比較するまでもない。以前は当然であった馬車の揺れも、今はかなり気になってしまう。


「……歩くか」


 馬車にいた誰かが言った。みんな無言でゾロゾロと馬車から降りてゆく。この揺れに再び慣れるまでは時間がかかりそうだ。これからしばらくはどこに行っても同じだろう。ゾディアも仲間に続いて馬車を降りる。


「ルデクに長くいた意外な弊害だなぁ……他の一座も大変だろうな……」


 ベルーマンの冗談にゾディアは笑えなかった。


 この影響、意外に大きいかもしれない。旅一座は自由である以上、苦難を伴う選択を選びたがらない者たちもいる。


 そうなれば、ルブラルより以西はまだしばらく旅一座が不足する。娯楽に飢えた民たちの不満、或いはそれは、為政者への不満に繋がるかもしれない。


 しかし、それは仕方のないことだ。そうなって困るのであれば、各国の為政者が旅一座を誘致するために努力をするしかない。どのような方法になるかは、ゾディアには想像がつかないけれど。


 ロア様ならどうするのだろう。


 あの方なら、ゾディアには思いもよらない方法で旅一座を集める策を打ち立てるかもしれない。いずれ、ルデクへ戻った時に聞いてみたいものだ。


「確か、ビリーってあそこに見える町じゃなかったかな。随分前に一度来ただけだから、少し自信はないけれど……」


 ベルーマンの言葉に、ゾディアも記憶を探る。かなり前に一度立ち寄ったことがあった。間違い無いだろう。


 ル・プ・ゼアの馬車が近づいてゆくと、町の郊外で作業に勤しんでいた農夫が、こちらに気づいて大きく手を振ってくれる。


 手を振り返していると、農夫たちが次々に大きな声で歓迎の言葉を投げかけてくる。その声に気づいた町の警備が出てきて、慌てて町の中へと戻っていった。


 そうしてル・プ・ゼアが町に到着するまでのわずかな距離で、町からは多数の人々が飛び出してくると、ゾディアたちが少し面食らうほどの歓迎を受けるのだった。

 


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 ビリーの町の人々が、ゾディアの歌声に酔いしれた夜。


 町長の食事の誘いを受けたル・プ・ゼアは、いつものようにゾディアが代表して招きに預かる。


「いやあ、本当に、本当に久しぶりの旅一座の来訪が、あの有名なル・プ・ゼアの皆様であることは喜ばしい限りです」


 機嫌よくワインを煽る町長に、ゾディアはこの一年の様子を聞いてみた。


 途端に渋い顔をする町長。


「……全く、最悪の一年でしたな。食べるものこそどうにか飢えないだけの分量が支給されましたが、極論で言えばそれだけです。他は何もない。虚無のような一年でした」


 町長はひとしきり不満を漏らすと、「これ以上は酒が不味くなりますから」と言って、逆にルデクの話を聞きたがった。


 聞けそうな話は全て聞いたと判断したゾディアは、問われるままに、答えは選択しながらルデクでの1年を話す。


「……なんと羨ましい話でありますな。対して我が国は、そしてこの町も、元の日常に戻るには今しばらくの時がかかりそうです」


「今年の収穫も芳しくなかったのですか?」


 ゾディアの言葉に、町長は首を振る。


「今年の収穫は問題なく。ですが、問題は人々の心の方ですな。こんな時ほど旅一座の方々の力を借りたいのですが……」



 この町長の言葉は、ビリーの町だけの話ではなかった。



 ゾディアはルブラルの王都につくまで、方々で同じ話を聞きながら進む事になる。




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― 新着の感想 ―
来年も凶作になるんじゃないかという恐怖と戦いながら農作業したんだろうな。外から見たら何もできない国に対して仕方ないって思えるけど苦しんでいる本人たちからするとそら何で何もしてくれないんだってなるわな
[一言] 時系列ではSS−42話の続きになるのかな。 ルデク動乱後の各国の様子は気になります。
[一言] ゾディアの目から見た他の国々のお話。 まずはルブラル! あの大飢饉で生き伸びられたことだけでも儲けものではありますが……人はパンのみにて生くるものにあらず、というやつですね。
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