【やり直し軍師SS-71】ロアと側近
「勘弁してよ。とにかく行かないからね。この話は終わり!」
これ以上は意見を受け付けぬとばかりに、話を断ち切ったロア。しかしなおも、ウィックハルトとラピリアは食い下がる。
「このような劇は滅多に見ることができません。この機会を逃すべきではないと」
「本当はロアだって見てみたいでしょ?」
なんの事かといえば、先日ルルリアより耳にしたロアの劇の一件だ。
ラ・ベルノ・アレが近くにいるうちに是非見たいという側近に対して、恥ずかしいから絶対に嫌だというロアの攻防戦である。
「えー、私も見たいなー。ロアの劇」
ルファも参戦しており、どうにか翻意させようとするがロアの意思は固い。
「そもそもさ、今の状況で僕らがまとまって休むなんて無理な話じゃないか。それにラ・ベルノ・アレがどこに向かっているかも分からないんだろ? 仮に休めたとしても、彼らを探している間に休暇が終わるよ」
ロアの指摘は正しい。ロアとその側近たちはとても忙しいし、ラ・ベルノ・アレは流浪の者たちだ、どこに向かうかは彼らの気分次第である。
「ぶーぶー」
「ぶーぶー」
とりあえず面白そうだから抗議しておこうという双子に対しては、
「……ニーズホックさんの所へのお使い、君たちに頼む?」
と言って黙らせる。
「さ、今度こそ、この話は終わり。みんな仕事して!」
ロアがパンと手を叩き、いよいよ話は終了となる。しかし、国家の滅亡という厄災をロアと共に鋼の意思で乗り越えた側近たちだ。
彼ら、彼女らはこの程度で諦めるわけがなかったのである。
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数日後のこと。
「ロア殿、準備が整いました」
部屋に入ってくるなり、ウィックハルトが力強く宣言した。
「何が?」
ロアにはこれといって心当たりがない。小首を傾げるロアに、ウィックハルトの後ろから入室したネルフィアが説明する。
「ラ・ベルノ・アレの居場所および行き先、第八騎士団の情報網を最大限に使用して、特定いたしました。現在はサザビーが先行して監視に向かっています。状況が変わったらすぐに連絡が届くように手配済みです」
「ん? 今なんて? なんか、権力の濫用のような言葉が聞こえたような……」
ロアの質問には答えず、ネルフィアが後ろに下がると、今度はルファが登場。
「みんなのお休みも取れたよー! ゼランド君が王様を説得してくれたんだ!」
「ルファ!? え!? 王子を利用して何してるのさ!? 流石に怒られるよ!?」
ルファが下がると、今度はラピリアだ。
「大丈夫よ。レーレンス様にフォローをお願いしておいたから」
「ラピリア、君まで……」
絶句するロア。しかしまだ話は終わらない。次に登場したのはフレイン。
「当面の仕事は、リュゼルとシャリスが面倒を見てくれると話はついたぞ。リュゼルはもう劇を見ているからともかく、シャリスには土産を買ってきてやらないとだな」
「………はぁ〜………」
もはや諦め、ただただため息をつくロア。そして最後に双子とディック。
「馬の準備終わったぞ」
「いつでも出発できる」
「スールから弁当を作ってもらってきたぞー」
ここまでお膳立てされては、大軍師ロアとて乾いた笑いで返すしかなかったのである。
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ところで、側近たちが楽しみにした演劇であるが、一部の人間は見て後悔する結果となった。
具体的には、ロアはもちろんのこと、ウィックハルトとラピリアがそれに該当する。
一言で言えば、劇中でロア同様に、まるで神話の神々のように無双の活躍をしたのがこの2人。
なお、双子も同じように活躍したが、彼女達はただただ喜んだだけで、赤面するようなことにはならなかった。
3人は時折呻き声を上げながら、演劇を見た翌日は宿屋の部屋に丸一日引きこもっていた。
しかしそれすらも人々にとっては一つの話題であり、商機に敏い宿の亭主によって、それぞれが瞑想した部屋として特別室扱いにされることとなる。
この3部屋はのちに、「知恵の部屋」「武の部屋」「美の部屋」と呼ばれ、それぞれのご利益を求めて数年先まで予約で一杯になるのだが、それはまた別のお話。




