表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
610/611

【やり直し軍師SS-609】知られざる戦い(9)


 馬車からかなり離れた場所で、ボルドラスは討伐部隊を引き連れ待機していた。


 当然、馬車側の動きは一切確認できない。風に乗った声どころか、馬車の点景すら見当たりはしない。


 隣で馬上にあるのはレイズ。涼しい顔で前を見つめるその姿は、若干の余裕すら漂わせている。


「……レイズ殿の予想通りなら、そろそろですかな?」


「ええ。ですが、まだこのままです」


 レイズからは事前に、計画の内容を知らされていた。


 偽の商隊をでっちあげ、それを問題の野盗に襲わせ、成功させたところで一網打尽。


 そのために事前に偽情報を流し、野盗どもの偽看板にも付き合ってやった。


 馬車と共に行動しているのは、御者も含めて全てが第四騎士団の兵士だ。ただし、あまり玄人感が出ないように多くを新兵で賄っている。


 まさかこのようなところで、新兵の素人さが役に立つとは思わなかった。


『今なら都合よく、選べるだけの素人がいるのですから、厳選してより庶民そうな新兵を』


 というレイズの指示を思い出して、ボルドラスは少々苦笑する。


 ともかく、兵士たちには自分たちの命を優先、なるべく情けなく逃げるように伝えてある。捕縛はここで待つベテラン兵の役割だ。


 ボルドラスも納得ずくの待機ではあるが、流石に待機場所が遠すぎないだろうか?


 相手に警戒させぬためとはいえ、せっかく罠に嵌めても、これだけ距離があっては逃げられやしないかという気持ちは拭えない。


 まあ尤も、仮に賊どもに逃げられたとしても、こちらに大きな損害は出ないが。


 何せ馬車に積んだ箱の中身は全て石。兵士でも二人がかりでやっと持ち上げるような重さだ。もちろん頑丈に鍵をかけ、外見だけは立派な代物である。


 つまり、万が一でも失うのはせいぜい兵を動かした労力と時間、それとわずかばかり馬だけ。


 ならば、ボルドラスも腹を決めて、この若い才能のやりようを見守ろう、そんな心持ちではある。


 そもそもの話、予定通りの場所に賊が現れるかも不確かな話。しかし、さも当然という表情で佇むレイズを見ていると、不思議とそうなるのだろうなという気持ちにさせる。


 打ち合わせの段階でレイズが賊の出現場所として指定したのは、ゼッタ平原の南部にある街道の一つ、やや窪地になっている場所だった。


 ゼッタ平原にはいくつか道があるが、ここは集落をつなぐように石畳が敷かれており、比較的ちゃんとしている。


 そのため、あまり賊が出るとは聞かないのだが……。


『だが、過去に賊に襲われた記録が全くないわけではないでしょう?』


 とレイズ。それはその通り。ゼッタ平原ではどこに賊が出るかわからない。あくまで比較的安全というだけの話。するとレイズは続ける。


『この街道で足の記録が少ないのは、第一に、人目につきやすいため。集落が多く、アクシデントに対応しやすい道では仕事がやりにくい。しかしそれを逆手にとって安全と思わせ、利幅の大きな仕事で利用する。私ならばそうします。それに今は、そもそもの人通りが少ない。盗賊にとってのこの街道の難点が解消された状況にある』


『確かに一理ありますな』


『それともう一つ、アーウィン殿のおかげで見えたことがあります』


 地図上に現れた空白地帯。その地形を、レイズは細かく記載させた。アーウィンが描き込める限りを描いた直後に、襲撃ポイントだと言いきった箇所を指で示す。


『この窪地から少し離れた場所に川がありますな。地形を見る限り、窪地はかつての川跡である可能性が高い。なんなら、未だに川が荒れると窪地に流水が流れ込んでいるかもしれません。つまり、普段は隠された湿地帯ではなかろうかと。事前に水でも撒いてやれば、馬車は足が止まるでしょう』


 アーウィンの絵図だけでそこまで読むか。ボルドラスが密かに心の中で唸っていると、レイズはさらに、


『こういった場所が多くあるとは思えません。ならば、大きな馬車が来た時だけ使う、とっておきの場所にはうってつけ』


『……とんでもない見識ですな』


『いえ。先ほどもお伝えしたように、アーウィン殿の図が正確であったからこそ。私は炙り出された空白地帯の中で、最も可能性の高い場所を指差したに過ぎません』


 そうは言ったが、簡単な話ではない。


 加えてレイズは自ら、実際に第四騎士団を動かすように提案してきた。


 これが意味するのは、相応の責任がレイズに発生するという事実。その意味を理解していないわけではあるまい。


 そうして今、結果を待っている最中である。


 もしもレイズの予想通りに馬車が襲われていれば、こちらに新兵達が逃げてくる。さてはて、どのようになるか……。


 その答えはすぐにやって来た。


 見覚えのある一団がこちらに駆けてくる。


「……貴殿の予測が当たりましたな。では、そろそろ向かいましょうか?」


 ボルドラスが気合を入れると、レイズは対照的に、


「何、まだ今頃は石の詰まった箱に四苦八苦している頃合い。ゆっくりと参りましょう」


 と、落ち着き払った返事を返した来たのである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 なるほど。とりあえず数だけは送ってきた新兵を囮の護衛として使ったか。野盗のこれまでの手並みを見るにそれなりに目端は利きそうなので、熟練兵だとバレかねないしな。
レイズ様、さては一連の盗賊団の行動から頭目が物凄く慎重である事を見抜いているな? そんなロッゴロッゴ様を釣り出す為にゆっくりと行動しているのかな?
『そのために事前に偽情報を流し、野盗どもの偽看板にも付き合ってやった。』 この部分ものすごく気になります。多分このお話の中でざっくり語られていたようにも思うのですが。ぜひ詳細を知りたいです。誰がどんな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ