【やり直し軍師SS-597】遠乗り(4)
ハウワースの牧場に到着してみれば、待ちかねたようにみんなが出迎えてくれた。
久しぶりに見る同僚達を代表して、牧場主のヴィゼルさんが一歩前に出ると、こちらに一礼。
「フレイン様、ようこそいらっしゃいました。そして、トゥリアナ様も」
ほんの少し前までは私の雇い主だった人だ、私は慌てて首を振る。
「ハウワースさん! 私に様なんて!」
そんな私に真面目な顔をするヴィゼルさん。
「トゥリアナ、そうはいかんよ。今やお前は中央貴族のルーベス家のご息女様。そして第10騎士団の副団長様の婚約者でもあるのだ。おろそかに扱えば、それは我らだけではなく、御領主様の顔に泥を塗ることになる」
そのように言われてしまうと、私も言葉がない。
「さ、それよりも皆様お待ちだ。早く顔を見せてあげてくれ」
「皆様?」
私は首を傾げる暇すらなく、皆に引っ張られるようにして懐かしい職場に足を踏み入れる。
「父ちゃ、母ちゃ!? それにみんな!? どうして!?」
ヴィゼルさんの屋敷で待っていたのは、私の両親と弟妹たち。
「フレイン様がお越しになるからと、こちらで待たせてもらえるように手配してくださったのよ」
母が言葉と共に後ろを向けば、そちらに座っていたのは、御領主ホグベック家のセリシアお嬢様。
「セシリア様まで!」
「元気そうね、トゥリアナ。びっくりしたでしょう?」
「はい。驚きました。セシリア様がわざわざご配慮を……」
「ええ。多分あなたの実家の村だと、少し騒ぎになりすぎるから。少々お節介かとは思ったけれど」
全然そんなこと考えてなかった。そうか、そういうのもあるのか。
「お気遣いありがとうございます」
「いえ。それに、多分……今後はなかなか会えなくなるでしょうから、ここでゆっくりと語らっておくといいわ」
そう。養女となった私に、本来、こんな機会を与えられる方が珍しいのだ。まして、形式的には家族ではなくなったみんなに、わざわざ私のことで挨拶されるなど、異例と言える。
それでもフレイン様はそうしたいと仰ってくれた。
「貴殿らがトゥリアナのご両親か、フレイン=デルタという。初めてお目にかかる」
「トゥリアナの父です。此度は私どもの娘を、その……」
父もなるべくちゃんとしようとしているけれど、どこにでもいる寒村に住まう庶民だ。なんと言って良いのか分からず言葉に詰まっている。
「いや、そう畏まらなくてもいい。むしろ畏まらなければならないのは、私の方だな。すでに書面では伝えていたとはいえ、改めて申し上げる。このフレイン、貴殿の娘、トゥリアナを我が妻に貰い受けたい」
「……娘を、どうかよろしくお願い申し上げます」
「ああ」
フレイン様と父のやりとりが終わると、一番末っ子の弟がちょこちょことフレイン様に近づいてくる。
「フレイン様って、すごーく有名なお方なんでしょ? なんでお姉ちゃんなんかと?」
「ちょ! あんたなんてことを言うの!?」
慌てる私が伸ばした手から、するりと逃げて走り始める末弟。
そんな様子を見たフレイン様が笑うと、みんな次々に笑い始めるのだった。
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私たちが到着したその日は、ささやかな宴が開催された。料理はハウワース牧場自慢の乳製品を使った品々と、セシリア様が用意してくださったご馳走である。
普段こんなご馳走を見ることのない弟妹たちは、テーブルにところ狭しとお皿が置かれた光景に大はしゃぎだ。
立食形式で宴が始まり、フレイン様が私の両親に捕まっている間、セシリア様が私に声をかけてきた。
「貴族社会には慣れた?」
「全然です。でも義母様も優しくしてくれますし、ルファ様も気にかけてくださいます。……それに、フレインも」
「あら、ついに呼び捨てになったのね」
ニンマリするセシリア様。
「その、あの……はぃ」
「恥ずかしがらなくてもいいのに」
「いやぁ……てヘヘ。あ、それよりもセシリア様の方はどうなったんですか?」
シャリス様とのことは、ルファ様経由で聞き及んでいる。
いずれシャリス様が第10騎士団を退団して、イグラド家を継ぎ、ホグベック家に替わってこの辺りを治めると。その時はセシリア様がシャリス様の隣で領地経営に励むとも。
すぐの話ではないとはいえ、かなり大掛かりな貴族間の移動になる。ホグベック家は、引き継ぎや中央貴族になるための準備に追われているはず。
「まあ、私の方はそれなりよ。そういえば近々、シャリスがやってくるわ」
「あ、そうなんですか? タイミングが合えば、一緒に来れたのに」
「……流石のシャリスも、二人の邪魔をする気はないわよ」
そんなふうに笑われて、私は少しだけ頬をあからめたのである。




