【やり直し軍師SS-580】遠路訓練(10)
想定よりも長くなってしまったので、今回の更新は一旦ここまで!
次回は2月10日からの再会を予定しています!
私がそれに気づいたのは、ログガッドとの会話の中で出てきた、ふとした一言だ。
『役に立たねば早々に殺して逃げた方がいい。多少は影響があるだろう。ゼクシアの方はまた次の機会にするだけだ』
今回の一件、ゼクシアの命が狙いだとして、目的を考える必要がある。つまり、結果として得られるのは何なのかを。
まずは『王位継承権』に関する陰謀。
継承権第一位を保持するゼクシアが消えて喜ぶとすれば、それは完全な内輪揉め。王家か王家に近しい貴族の派閥が動いている。
でもログガッドは私を殺しても『多少は影響がある』と言った。
私の正体を知らないにも関わらず、だ。
王子に近しい人間の息女と想定した発言だとしても、違和感がある。そんな事で、継承権の変動などありはしない。
ではなぜ、多少の影響があると言ったのか。
彼らの狙いがゼクシア本人ではなく、ルデクそのものにあるからではないか。
ゼクシアが命を落とせば、ルデクに及ぼす影響はかなり大きい。様々な混乱や、思惑が飛び交うことになる。
だからゼクシアを狙った。
でも、ルデクの混乱自体が主目的なら、別にゼクシア以外を狙ってもいいのだ。
だからどこかの要人の娘と思しき私を殺しても、多少の影響があると考えたのなら辻褄が合う。
そしてルデクの混乱を狙っているとすれば、犯人たちは国外の勢力である可能性が跳ね上がる。
とはいえ、今のルデクと各国の関係性を考えると、ルデクに混乱を呼んで喜ぶ国は少ない。
強固な同盟関係にある帝国、ゴルベル、ツァナデフォルは論外。専制十六国もどちらかといえばルデク寄り。
あり得るとすればルブラルとシューレット。特にシューレットはかつて連合軍に蹂躙されて、国家そのものの基盤が不安定。
でも、シューレットの不穏分子が動いている場合、少し疑問が残る。立地関係だ。
シューレットとルデクは国境を接してはいない。シューレットの復権を考えるなら、ゴルベルを煽った方が良い気がする。
とはいえ、ゴルベルの背後にいるルデクを混乱させ、それをきっかけに色々と画策すると言う選択肢もある。
けれど……それよりももっと他に、わかりやすく理解できる存在がいる。
リフレアの残党。
リフレアが滅んでから20年程度。多くの人が北ルデクを受け入れた。でも、逆にいえば一つの国家が滅んでまだ20年しか経過していないのだ。
今でも、心の中に消えた祖国を持つ人々がいる。それが見果てぬ夢であろうと、ルデクを揺るがせ、リフレアの復活を夢見る人間や、その志を受け継ぐ子供達は、確実に、いる。
ログガッドの視線が一段階鋭くなった。
「……なぜ、そんなことを知りたい?」
「伝えた通りよ。事情も知らずに殺されるなんてたまったものじゃないわ」
「……だが、知ればもはや、生き残る道はないが?」
「あら? それじゃあ、聞かなければこのまま家に帰してくれるのかしら?」
再びの睨み合い。
これでいい。時間を少しでも稼ぐ。
そうしてゼクシアの到着を待つ。その時までログガッドと共にいれば、ログガットは私を人質として連れて行くはずだ。
私の姿が見えれば、ネルフィアさん達もやり易くなると思う。
逆にどこかに閉じ込められてしまった場合、まずは私を探す手間がかかるのだから。
ゼクシアが来るなら、人質を探すだけの人員を割くことができるのか不明瞭。
ゼクシアは私の保護を優先するように命じるだろう。そうなると、ゼクシアのリスクが増える。それは何とかして避けたい。
先ほどログガッドには、一刻しないうちに来ると伝えたが、実際にはもっとずっと早いと予測していた。多分、もうすぐだ。それまでこのまま睨み合いでも良いくらい。
張り詰めた空気を破る報告は、すぐそばまで迫ってきていた。
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深くフードを被った一団が、先を急いでいた。
「殿下、見えました」
「あの森の先ですね」
レゼとラゼの言葉にゼクシアは大きく頷く。
ゼクシアのそばにいるのはレゼット、ラゼットの双子に加えて、コナー、セルジュ、オーリン。目視できる範囲にいるのはこれだけだ。
もちろんネルフィアやサザビー達もどこかにいるはずだが、敵からすれば、命じた通りにゼクシアと生徒だけでやってきたように見えるだろう。
「みんな、悪いが止まってくれ」
先を急ぐところではあるが、ゼクシアはあえて一同馬を止める。
「どうしたんだい? やっぱやめとく?」
気軽に言うコナー。
詳しい事情を知らなければ、ゼクシアが『やっぱり戻る』と言ったところで誰一人非難する事はないだろう。むしろ、それこそ王家の正しい選択と思われるだけだ。
だがゼクシアが馬を止めたのは別の理由から。
「そうではない。実は、今のうちに一つ伝えておきたいことがある」
知っていると知らないのでは、おそらく、いろいろな対応が変わるだろうから。
あいつ(ロピア)は怒るだろうが、こればかりは仕方がない。
コナー達も危険を承知で付き合ってくれているのだ。ゼクシアにとって、信用のおける者達であると確信を持って言える。
「誘拐された馬車に乗っていた人物について、大事な話がある」
「何かしら?」
「誘拐された学園の生徒の一人、アヴリと言う娘は、実は―――」
ゼクシアの説明に、仲間達が息をのんだ。
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扉が開き、頬に傷のある男が顔を出した。
「ログガット、来たぞ」
その一言で私も理解する。ゼクシアが到着したのだ。あとはこのまま、ログガットに連れ出されるだけ。
「そうか。じゃあ……ディオウ、こいつを他の奴らと同じところに閉じ込めておけ」
「!?」
想定外の言葉に、私が動揺していると、ログガットがニヤリと口を歪ませる。
「お前、連れて行ってもらえると思ったろ?」
「……何のことかしら?」
「確かに人質を見せつけるのは、敵の動きを縛るのに効果的だが、お前はダメだ。頭が回りすぎる。何を企んでいたか知らんが、賢さが仇になったな。安心しろ、ゼクシアを殺したら、お前達もしっかり後を追わせてやろう。おい、連れて行け」
ログガットの命令で、ディオウと呼ばれた奴が私の手首を掴んだ。
「離して! 離せったら!」
さすがに膂力が違いすぎる。私の抵抗虚しく、無理やり部屋から引きずられてゆくのだった。




