【やり直し軍師SS-571】遠路訓練(1)
更新再開いたします!
今回は久しぶりにこの二人が主人公のお話です〜
お楽しみいただけたら嬉しいです!
書籍版第5巻は今春発売予定っ!
現在鋭意製作中!
月が出たり隠れたりする、そんな夜。
ゼクシアはいつものように、城壁の上で読書に勤しんでいた。
今読んでいる恋愛物語が、いよいよ佳境を迎えるところだ。主役の二人は結ばれるのか、手に汗握りながらページを進める。
そんなゼクシアの隣には娘が一人。
ルデク第一王子であるゼクシアの幼馴染にて、英雄宰相ロア=シュタインと、戦姫ラピリア=シュタインの娘、ロピアである。
彼女は現在、ゼクシアより少し離れた場所で横笛の楽譜を睨んでいた。ロピアの通うルファンレード学園の新しい課題の練習らしい。
課題曲のタイトルは「英雄」。ゾディアさんの所属する一座、ル・プ・ゼアと、話題の戯曲を数多く送り出したヴァ・ヴァンビルが共同で作った、大陸でも有名な一曲。
歌詞をヴァ・ヴァンビルの作家が、曲をル・プ・ゼアが制作し、それをゾディアさんが歌う。
今ではどこの街に行っても、必ず最後は「英雄」を歌ってほしいとせがまれるそうだ。
この英雄という曲は、前奏部分に大きな特徴がある。静寂の中に舞う粉雪を集めるかのように、ゆっくりと幽玄な横笛の音が、徐々に形をなしてゆく。
高く澄んだ音が、心地よく両の耳から流れ込み、これから始まる壮大な歌詞を盛り上げる、至高の出だし。
横笛の音の強弱の技術が詰まった吹き方とされ、ゼクシアも昔、宮廷楽師から学んだことがある。
「プペ〜」
……ゼクシアは本から目を離し、暗闇に目を凝らして密かにロピアの指を盗み見た。
押さえるべき場所は間違っていない。あの場所を押さえておけば、綺麗かどうかは別として、高音が出るはずだ。
「プペ〜」
むしろ逆に、どうやったら今の音が出せるのか、ゼクシアには分からない。あれはもはや一周回って才能ではないだろうか。
と、ロピアが一瞬手を止めた。ゼクシアは慌てて本に視線を戻す。ロピアの楽器の腕にケチをつけるのは、四つ目獅子の尾を踏むよりも恐ろしいことだ。
本に集中するふりをするゼクシアに、ひしひしと伝わってくる強い視線。見ていたことが完全にバレた。
ゼクシアは誤魔化すことを諦め、本を閉じる。良いところだったが、これ以上は頭に入りそうにない。
「……何よ? なんか文句あるの?」
口を尖らせるロピア。
「……いや、なんの文句もないが。ただ、お前の練習が終わったところで声をかけようと思っていた」
「なんで?」
不機嫌な様子を隠そうともしないロピアだが、どうせこの後も機嫌を損ねる話なので気にしなくてもいい。
「トラド学院の課外授業の日程が決まった。半月後だ」
「ふうん。何をするの?」
「端的にいえば行軍の授業だな。王都から遠出して、野宿しながら野営などの基礎を学ぶ。遠路訓練という名がついている」
「そう。頑張ってね。いってらっしゃい」
「いや、行くのは俺だけではない」
「じゃあ誰が行くの?」
「ロピアも行くんだ」
「は? なんで? 私、学園の方が忙しいのだけど?」
ロピアは諸事情あり、国家の最高学府である王立トラド学院を入学初日から休学し、隣接する芸術を学ぶルファンレード学園に名を偽って通っている。
「その学園に通う生徒に対して、後日、数名の参加要請がある。その中に、アヴリの名前も含まれる予定らしい」
アヴリはロピアの偽名。つまりロピアを直接指名した形である。
「誰がそんなこと決めたのよ?」
「ラピリア様だ」
「ママが? ……聞いていないけど?」
ややトーンダウンするロピア。相手が誰であれ強気な娘だが、流石にラピリア殿相手では分が悪い。
「私とて、聞いたのはつい先ほどだ。多分、今日家に帰ったら話があるのではないか?」
「ママ、なんでそんなことを……」
「遠路訓練はそう何回もやる授業ではない。休学中とはいえ、一応参加させたかったのではないか?」
「めちゃくちゃ行きたくないんだけど。そんなの権力の横暴じゃないの?」
「一応、建前としては学園の生徒の知見も広め、感受性を育てるため。学院の方は、擬似的な一般市民をきちんと守りながら、スケジュールを消化できるかを見るとのことだ」
「絶対ママに抗議してやる」
「……やめておけ。不毛だぞ」
いかにロピアといえど、ラピリア殿相手に、決定事項を覆せるとは思えない。
「……ちなみにどこに行くの?」
「王都から西。エングットの森と聞いている」
王都からは片道5日ほど。小さな鉱山の合間にある、ちょっとした森林地帯だ。
「エングット、ねえ……」
「何か知っているのか?」
「全然」
「思わせぶりな言い方をするな」
ゼクシアの言葉に、ロピアは八つ当たりとばかりに、ベエと舌を出した。




