【やり直し軍師SS-570】リヴォーテの日記(31)
今回の更新はここまでです!
次回は1月21日からの更新を予定しております。
SQEXノベル書籍版、
反撃の第五巻は絶賛改稿作業中!
こちらも頑張りますので、またお付き合いくださいませ!
『食の外交官』
我ながら中々の妙案であるように思う。
オゼットと母の関係が家を飛び出すほどに拗れている以上、単なる説得でアルラゼーナが首を縦に振るとは思えない。
オゼットが多少料理の腕前を見せたところで、それは変わらぬ。ならば、オゼットに必要なのは、己の意見を通すだけの説得力、すなわち、付加価値だ。
今回の企み、ちょうど良いタイミングで、ダスをルデク王都に呼び寄せることができた。
南の大陸の客人であれば、正直誰でも良かったが、オゼットに運が味方したと言える。
だが、そう言った運を引き寄せることができるのは、オゼットが諦めず、どうにか運命を切り拓こうとしたからであろう。
俺の言葉の意味を理解しかねたのか、アルラゼーナは口をぽかんと開けたまましばし固まった。
俺がしばらく様子を見ていると、少しして手を口にやってから咳払い。そうして居住まいを立たすと、改めて言葉を紡ぎ始める。
「食の外交官、などという肩書きは聞いたことがございませんが?」
「耳にしたことがなくとも、今実際にご覧になられておられる」
俺がダスに顔を向けると、ダスは改めて大きく頷く。
「確かにこれは、外交に違いありません。南の大陸からやってきた客人を、その大陸の料理で歓待する。相手を尊重した素晴らしい対応でありつつ、このカロは南の大陸では味わうことのできない料理に昇華しております。話題も弾むことでしょうな」
実際のところ、カロの完成度はまだこれからだ。ダスの評価は大袈裟な部分もあるが、事前に事情を伝えてあるので、さりげなく援護をしてくれた。
ダスの賛意を聞いても、まだ納得のいかない表情のアルラゼーナ。しかしその目には確かに迷いの色がある
「……この料理、外交の橋渡しとなるのは何も南の大陸の御仁ばかりではありません。我がグリードル帝国との友好にも大いに貢献するのは想像に難くありませんな」
「帝国との友好?」
「ええ。我が国にも食に対して一言ある要人は少なくない。代表的な人物としては、上皇ドラク陛下。そしてルルリア妃。いずれもカロに強い興味を示すことでしょう。ましてルルリア妃は南の大陸のご出身でもあらせられる」
「それはそうかもしれませんが、ですが、別にその役割はオゼットでなくとも……」
食の外交官の役割については認めたな。よし、では次だ。
「北の大陸において、これほどまでに自在にカロを操ることができるのは、現状オゼット嬢以外にありません。これはこのリヴォーテ=リアンの名にかけても良い」
「でも、あの子の幸せは……」
「……ちなみに説明するまでもありませんが、外交官というのは当然、各国の要人と接する機会が多い。貴族でありながら手ずから見事な料理を提供する若い外交官。……各国の名家の目に留まることでしょうな」
本人がそれを望むかは別だが、俺の最後の提案はかなりアルラゼーナの心を動かした。
今でこそ貴族院に名を連ねているが、それは政変の影響があったからで、パルヴィクス家の家格はルデク指折りというわけではない。
他国の名家と縁ができるのは、パルヴィクス家でなくとも大きな意味を持つ。
「……ですが、あの子がそんな大役を担えるのでしょうか?」
うむ。完全に流れが変わったな。
「少なくとも、オゼット嬢には才能はあります。また、あなた方がしっかりと育てられたが故に、居住まいや所作は問題なく、外交官としても十分な資質を秘めているかと」
「……少し、考えさせてください。あの……ダス様、宴の途中で大変申し訳ございませんが、私、本日は少々疲れてしまいまして……」
「おお、無理は良くありません! 私のことなど気にせずに早めにお休みくださいませ!」
ダスの返答を受けて一度頭を下げ、それから俺にもぺこりと一礼したアルラゼーナは、やや足取り重く、会場を後にしてゆく。
俺がその背中を見送っていると、
「どうでしたか」
と隣に立ったオゼットとルファ。オゼットは随分と不安そうな表情ではあるが、
「手応えはあった。まあ、あとは悠然と構えておくといい」
と、俺は自信を持って口にしたのである。
〜〜〜〜〜〜〜〜
ルファから呼び出されたのは、宴の三日後のことだ。
指定の部屋に向かえばオゼットも一緒だった。オゼットは俺を確認するとすぐに駆け寄ってきて、深々と頭を下げる。
「その様子だと、話はまとまったか」
「はい! お母様より許可が出ました! しばらくはルファ様のおつき、という条件付きですけれど」
「それならむしろ都合がいい。ルファもちょうど、外交経験を重ねている最中だ。支えてやるといいだろう」
やれやれ、これで丸く収まった。さて、今日もカロパンを作ってもらいに……。
「はい! 師匠! 今後ともご指導のほどよろしくお願いいたします!」
「む?」
何か今、妙な呼ばれ方をした気がするが? 首を傾げる俺を見て、離れた場所でルファが笑う。あいつめ。
「リヴォリヴォは食の外交官の師匠だからね! 色々教えてあげてね!」
「何を言っている、俺は別に食の外交官などでは……」
「よろしくお願いいたします!!」
話を聞かずに、俺の手を掴んで今一度頭を下げるオゼットを見下ろしながら、俺は小さくため息を吐く。これはルファの入れ知恵か? あとで少々説教だな。
だが、これで俺が料理しなくとも、うまいカロを作る料理人を確保できた。
「……まあ、普通の外交官としてのノウハウくらいは教えてやろう」
俺の返事に、オゼットはそのままの姿勢で肩を震わせるのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜
なんだか妙なことになったものだ。
だがまあ、俺の意向が通りやすい外交官は多ければ多いほどやりやすいだろうから、前向きに考えることにしよう。
それにしても、せっかく美味いカロを作る料理人が近くにいるのに、カロパンを作るためにわざわざボクシーのパン屋まで鍋を持ってゆくのは手間だな。
どこかに専用のパンがまを準備できないものか。
待てよ、それはルファにやらせよう。あやつも今回の件で、多少は労を負うべきだ。
ああ、それがいい。近々話を持ち込むとするか。
パン窯の方向性も決まったので、今日の日記はここまでとする。
〜〜〜〜〜〜〜〜
のちに、『異色の外交官』としてその名を馳せることになる、オゼット=パルヴィクス。その外交官の第一歩は、こうして始まった。




