【やり直し軍師SS-567】リヴォーテの日記(28)
「フェザリス王国の外交官、ダス様の歓迎会、ですか?」
夫が持ち帰ってきた話に、アルラゼーナはやや困惑しながら、今しがた夫から言われた言葉を繰り返した。
5日後、フェザリス外交官のトップ、ダスが王都にやってくる。
それ自体は珍しい話ではない。フェザリスにとって、ルデクと帝国は最重要友好国だ。フェザリスの使者の来訪はよく耳にしている。
夫の話では、南の大陸への遠征の戦勝祝いとしてやってくるそうだ。……表向きの理由ではあるが。
本当の目的は、ルデクが帰還したのちの南の大陸の情勢についての擦り合わせ。これも理解できる話。
今回、ダスの歓迎会を主催するのはルファ王太子妃。
元々ルファ王太子妃は南の大陸のお方だ。フェザリスとの関係にも一役買っておられるので、それも特に違和感はない。
でも、我がパルヴィクス家が招待される心当たりがなかった。百歩譲って、夫が招かれるのはあり得なくはない。貴族院の代表としてならば。
けれど今回は、『ご夫婦揃って』とのお招きである。
パルヴィクス家とフェザリスには特別な接点はないし、現在の貴族院は、あまり外交に口出しないようにしている。
にもかかわらず招待を受けるとなれば、アルラゼーナがやや身構えるのは当然であった。
懸念を口にすれば、夫はわずかに苦笑。
「私も同じように考えた。実はな、ルファ妃はその歓迎会に、オゼットを参加させるお心づもりのようだ」
「ああ、そういうことでしたか……」
その一言で全て合点がいった。
5日後といえばオゼットが家に帰ると約束した日。つまりルファ様は、その場を私たちとオゼットとのとりなしの機会として、お招きになられたのか。
「……全くあの子は……、ルファ妃様にもご迷惑をおかけして……」
本当に困った娘だ。
元々食べ物への関心が強い娘だったし、ローメート様と仲良くしていただけているのならばと、ある程度は目を瞑っていた。
けれどここのところ、いくらなんでも目に余るほどの熱の入れようであった。
万が一にも、『パルヴィクス家の娘は食い意地が張っている』などという噂がたてば、あの子の縁に悪い影響を及ぼしかねない。
今回の一件もそう。どうして分かってくれないのかと、つい強い口調で責めてしまったが、まさか、家を飛び出してルファ妃様を頼るなんて……。
「なあ」
夫の声に思考から戻ってくると、
「確かに君の気持ちもわかるが、オゼットにもオゼットの考えがある。あの子ももう子供ではいのだから、多少は話を聞いてやってはいいのではないか?」
と遠慮がちに口にした。
「分かってはいます。分かってはいますが、いくらなんでも“料理人になりたい”はないでしょう? パルヴィクス家に対する当てつけです」
「まあ、貴族の在り方としてはあまり考えにくい選択肢ではあるが。どのような考えから出た言葉なのか、もう少し聞いてあげてもいいのではないかな?」
……確かに今回は、少し言い過ぎた部分がある。
「……貴方のお話は理解できますが、あの子がまた、料理人などとという話を蒸し返すようでしたら、早々にどこかの家と縁組を考えます」
そんな言葉に夫は、いつものようにやや困った表情のままの笑みを見せるのだった。
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歓迎の宴は穏やかに始まった。
フェザリスの外交官ダスは、丸々とした体型に人当たりの良さそうな顔立ち。外交官というよりも大店の商人という印象を受ける。
ダスの挨拶を皮切りに、要人たちの歓迎の言葉が終わると、ごく自然な流れで会食と歓談が始まった。
各所で歓談の輪ができる中、アルラゼーナはオゼットの姿を探す。けれどなかなかその存在を確認できない。
そうこうしているうちに、一人の人物がこちらへ近づいてきた。
「これはこれは、貴族院の……」
本日の主役であるダスだ。
夫と簡単な挨拶を交わすと、アルラゼーナにも視線を向けてくる。
「奥方様でいらっしゃいますかな? 初めまして、フェザリス外交大臣のダスと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。アルラゼーナ=パルヴィクスにございます。遠路ようこそいらっしゃいました」
「いえいえ、私は大臣でありながら商人でもございますから、長距離移動は人生そのものです。特にルデクやグリードルはもはや第二の祖国というほど訪れておりますからな」
などと言いながらカラカラと笑う。商人も兼ねているというのは随分と変わっているが、お国柄なのだろう。それならば風貌もしっくりくる。
ダスは商人らしい話題の多さで、しばし場を盛り上げ、ふと、
「それにしても今回の来訪は楽しみでした。随分と面白い催しを準備していただいていると」
などと口にする。
「催し、ですか?」
「ええ。私のため、というわけではなく、たまたまタイミングが良かったらしいのですが。ちょうどゲードランドに到着したところで、そのお話をいただけたのは幸運でした」
なんの話だろうか? アルラゼーナが首を傾げたところで、衆目を集めるように、壇上より王の声が響いた。
「本日は興味深い料理を用意しておる! フェザリスの客人にも喜ばれると思うので、是非に味わっていただきたい!」
その言葉を合図に、扉が開いて料理が持ち込まれてゆく。
「えっ!? どうして……」
アルラゼーナは困惑せざるを得ない。
その視線の先、配膳車を押すその場所に、オゼットの姿があったのだから。




