【やり直し軍師SS-562】リヴォーテの日記(23)
カロをパンで包んで、さらに、揚げる。
あまりに飛躍した発想だ。
しかし。
「……面白い。包むだけではなく“揚げる”というのは。これらの狙いは、もしかして食感だけではなく、カロの最大の特徴である“香り”を最大限に活かすため、では?」
俺の指摘にオゼット嬢は目を輝かせる!
「素晴らしいご指摘です! おっしゃる通り、揚げパンのザクザクした食感と、トゥトゥのほっくりとした食感と対比を生み出し。同時に香りをパンの中に封じ込めます!」
「なるほど……。なるほど……」
考えれば考えるほど興味深い調理法だ。
「……実に素晴らしい着想です。早速試してみたいが……」
今、この場にあるパンでは、多少潰したところでカロを包むめるような代物にはならない。それに、だ。
「……そこまでするならば、小手先で無理に包むよりも、専用のパンを焼いた方が良いように思う。一度、日を改めさせていただくことは可能だろうか?」
俺の提案に対して、ぶんぶんと首を縦に振るオゼット嬢。
「ぜひ! 私も無責任なことを申し上げた手前、どのような味わいになるか、最後まで見届けさせてくださいませ!」
「ええ。……他の者たちはどうだ?」
「それならば、トランザの宿で懇意にしているパン屋さんにお願いしてみましょうか」
と頼もしいことを言うスール。
「オゼット様同様に、私もここまできたら最後まで立ち会いたいと思います」
と力強く宣言したアウリル。
「わ、私も! ……特に何のお役にも立てませんが、参加しても良いのでしょうか?」
やや不安そうなシャーリーには、
「気にするな。意見は多い方がいい」
と伝えると、ホッとした表情を見せる。
そうして話はまとまり、俺たちは日を改めて再び集まることになったのである。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
日を置いて俺たちが集合したのは、スールの知り合いのパン屋の厨房だ。
俺が先んじて仕込んできたカロの鍋を置き、蓋を開けると、すぐに異国の香りが厨房に漂い始める。
「スールちゃんから聞いちゃいたが……これ、本当に包んで焼いて大丈夫かい? 窯に匂いが残ったりしねえかい?」
即座に不安を口にする店主。店主にとってパン窯は生きるための糧だ。台無しにされてはたまらぬという思いは当然の反応であろう。
「安心しろ。万が一、この一件で窯に不具合が生じた場合は、このリヴォーテ=リアンが全ての責任を負う」
「全てって……」
「言葉の通り、全てだ。窯の取り替えは費用もちろん、その間の休業中の保証、それから再開店後はグリードル帝国の大使館のパンを、貴殿の店から定期購入することを約束する」
「ボクシーさん、リヴォーテさんは帝国の偉い人だから、大丈夫だよ」
スールの口添えもあり、ボクシーと呼ばれた店主は、
「まあ、そんなら……」
と渋々ながらも了承。作業に取り掛かる。
「パン生地は準備してある。こいつを包めばいいんだな」
「ああ。頼む」
こちらもパンに包むためにカロにも多少工夫をしてきた。トゥトゥの一部を潰したりして、より、固形に近い感じに整えてある。
店主が次々とカロを包んでゆくさまを、俺たちは固唾を飲んで見守っていると、しばらくして、ボクシーが口を開いた。
「こっからは普通にパンを焼くんでいいんなら、別の部屋で時間を潰しててくれよ。こんなにたくさんの人らから監視されちゃ、やりにくくってしょうがねえ。焼けたら呼ぶからよ」
ボクシーの言葉に、スールが提案。
「それなら、一旦うちの宿に戻りましょうか? ボクシーさん、何に問題があったら知らせてくれる?」
そんな言葉にシャーリーが割って入る。
「あ、待って、スール。それなら私がここで待ってるわ。何かあれば私が知らせに」
「いいの?」
「このくらいはしないとね。ボクシーさん、私だけならいいかな?」
「まあ、一人くれえなら構わんよ」
話がまとまったので俺たちは一旦トランザの宿へ向かうことに。ふと、俺はオゼット嬢へ視線を移した。今日は朝から随分と静かであったので、やや気になったのだ。
見れば両手を胸の前で組んで、祈るような表情のまま歩いている。
「オゼット殿、何がありましたか?」
俺の質問に少しだけ肩を振るわせたオゼット嬢。
「ああ、いえ。今更、急に不安になってしまっただけです」
「不安?」
「先日は好き勝手に申し上げてしまいましたが、果たして本当に美味しくなるのかと。もしかしたら、とんでもない不出来な代物が出来上がってしまうかもしれません」
なんだ、そのようなことで思い詰めていたのか。
俺は彼女の肩をポンと叩き、
「ご安心召されよ、これは間違いなく、美味くなる」
と、確信を以って口にしたのである。




