【やり直し軍師SS-561】リヴォーテの日記(22)
トゥトゥを具材の中心に据え、元のレシピにあった根菜から、トゥトゥと合わぬ物を減らす。同時に細切りにした牛肉も投入した。
こうして完成したカロは、言うなれば北方風カロとでもいうべき代物である。
トゥトゥとカロの相性は想像以上に良く、カロの辛味をトゥトゥがうまく緩和してくれると同時に、食べ応えもあり、立派な主菜と呼べる一品に仕上がった。
「あともう少し辛味の調整をすれば、王都の人々にも好まれる気がします! それに、南の大陸から来たお客様にも一風変わったカロとして評判になるかも!」
商売の算段がついたとばかり鼻息荒いスール。
アウリルも「これならば」という表情で、カロを味わっている。
だが。
俺から言わせれば、まだまだ道半ば。トゥトゥの大きさにも一考の余地があるし、他にも理想的な組み合わせがある可能性は否定できない。
それと何よりも重要なのが、
「あの、リヴォーテ様? お気に召しませんか?」
やや不安そうに気遣ってきたのはオゼット嬢。
「む? いや、そうではありません。かなり北の好みに即した料理になったとは思いますが、これでは少々パンで食べ難い」
トゥトゥを加えたことにより、パンがなくとも十分に一食となる。が、俺はパンに乗せて食べる方法も気に入っているのだ。
しかし、パンに乗せる場合、このトゥトゥがかえって邪魔になる。普通のパンではトゥトゥの重さでへたってしまう。
「……なるほど。確かにそれは少々食べづらそうですね」
「ええ。元々南の大陸で食した際は、やや硬目のパンでしたが、グリードルやルデクではあまり一般的ではありません」
硬いパンもないわけでは無いのだが、遠征食のそれで、南の大陸の硬いパンとはまた違う。端的に表現すればあまり美味くない。
「では、こう、パンで挟んでは?」
オゼット嬢が両手を合わせるような仕草を見せるが、俺は小さく首を振る。
「残念ながらカロの水分で手が汚れ、味に集中できません」
「あ、確かに。すみません、お役に立てずに」
「いえ。様々な提案をしていただけるのは助かります」
しかしどうするか。パンをカロに浸して食べるには問題ない。現状で考えれば、これで満足するべきだ。
だが、折角ここまできたのだ。最後まで妥協せずに味を追い求めたい気持ちもある。
「……リヴォーテ様はすごいお方ですね」
オゼット嬢に唐突に褒められ、カロの改良に集中していた俺は、少々面食らう。
「さて、貴女にお褒めの言葉をいただく覚えはありませんが?」
「とんでもない。先日のローメート様のお誘いでも思いましたが、的確な指摘と妥協しない探究心。私などよりもよほど、柔軟なお考えをお持ちかと」
「いえ。とんでもございません」
「何より……その……」
「何でしょう?」
「いえ、何でもありません」
そこで急に言葉をつぐんでしまうオゼット嬢であったが、無理に聞き出すような話でもなかろう。
部屋に若干微妙な空気が漂ったところで、アウリルが話題を戻す。
「単純にパンを再度焼いて、固くするのではダメですか?」
「む。確かに焼けば強度を確保できるな。よし、やってみよう」
試してみるとまあ、カリカリのパンにカロの組み合わせは、これはこれで悪くない。
「うむ。現時点ではこの辺りで妥協するのが無難か」
さすがにこれ以上は一日では難しいだろう。それでも大きな前進だ。あとはまた、ゆっくりと色々考えるとするか。
俺がそんな思いに至り始めた頃、
「あの、一つ試してみたいことがあるのですが……よろしいでしょうか?」
オゼット嬢がそのように手を挙げる。
その表情には何やら、覚悟を決めたような気配が窺えた。
「聞かせていただこう」
俺の言葉に、オゼット嬢は一度アウリルに視線を移す。少し首を傾げたアウリルに対して、
「アウリル、ほら、いつかのローメート様のお誘いの中で、パンを揚げてお砂糖をまぶしたお菓子が出たことがあったでしょ?」
「……あ、ええ。確かにそんな事ありましたね。美味しいけれど、やや油っぽさが気になるとか、そんなお話をしておられたと記憶しております。……え、まさか?」
「ええ。そのまさかです。カロの強い味わいに対抗するのに、いっそパンも力強い味わいにしてみてはと思いました」
「……それは……味の想像がつきません。揚げたパンにカロを乗せるのですか?」
「いえ、いっそのこと、カロを包んで揚げてしまう……可能ですか?」
オゼット嬢の力強い言葉に、俺は思わずごくりと喉を鳴らしたのである。




