【やり直し軍師SS-560】リヴォーテの日記(21)
これは主菜か汁物か。
オゼット嬢に指摘されて、俺は答えにやや迷った。
いや、主菜であることは間違い無いのだ。南の大陸で食べた際は、そういった扱いであったのだから。
「貴女はどうして、そのような疑問を?」
「あ、申し訳ございません! つい失礼な物言いに!」
「いえ、構いません。それよりも今の言葉、大変興味がある。是非、真意を聞かせていただきたい」
「いえ。その……ルデクにはポージュという料理がございます」
「もちろん存じております」
「ポージュは基本的には主菜です。具材をたっぷり込めて、それだけでも満足できるように仕上げるのが基本です」
「ええ」
厳密には、ポージュにも汁物寄りの料理はある。が、これは身体の弱った者や幼子が摂取しやすくするための工夫で、基本的にはオゼット嬢の説明に齟齬はない。
「それでこのカロ、なのですが。具材はこれで全てなのですか?」
「そうですな」
具材に関してもなるべくあの店に近いものを再現したつもりだ。だが、その一言が、胸の中に妙に引っ掛かった。
「これは勝手な想像ですが、南の大陸の皆さまも、ポージュの具材のように様々な試みをしているのではと思うのですが……」
自信なさげな言葉であったが、俺は頭を殴られた心持ちで、思わず椅子から腰を浮かせた。
そうだ、カロの店主はまさにその通りのことを言っていたのだ。店主の出身地では『それぞれの家庭で自由に』作っている代物だと。
俺はあの時の感動を再現しようとするあまり、具材についてはそこまで気を払っていなかった。
衝撃を受けている俺に、彼女は続ける。
「大変生意気な言い分になってしまうかもしれませんが、ご容赦ください。私はリヴォーテ様の作ったカロは、辛味や香辛料を風味を楽しむために、あえて具材が主張しない組み合わせにしているのではないかと思いました。……そうですね……言うなれば、ポージュを初めて召し上がる方に向けた、土台だけのポージュのような」
的確な指摘に、俺はよろけ、床に膝をつきそうになる。
くっ。何と愚かであったのだ。少し考えれば思い至る。カロの専門店で、品数が一種類ということは考えにくい。
南の大陸の店主に、俺はカロを食べるのは初めてだと伝えた。ゆえに店主は、カロを知るために分かりやすい一品を提供してきたのか。
トールとディックにも同じ料理を出したので、俺はすっかり固定観念に囚われていた。このリヴォーテ=リアンともあろうものが、何と間抜けな判断を!
「あの、リヴォーテ様?」
やや心配そうに見つめるオゼット嬢に、俺はどうにか笑顔をつくる。
「いや、失礼。ローメート様の貴女への評価が正しかったことを、噛み締めていただけです」
「そんな、恐れ多い。他の方より少し食い意地が張っているだけなのです」
「謙遜は不要。それよりも、カロを良くするための突破口が開けた心持ちです。例えば、貴女であればどのような食材が合うと思いますか?」
「……難しい質問ですね。と言っても、合う食材が見つからないという意味ではなく、ある意味どんな食材も、カロに取り込んでしまいそうな雰囲気があるからです。あ、でも」
そこで一旦言葉を止めたオゼット嬢に、俺だけではなく皆の視線が集まる。その視線にやや恥ずかしそうに髪の毛先に触れてから、
「トゥトゥなんて、いかがでしょう」
という。
「あ、それいいかもしれません。少し辛味が緩和されるかも」
なおも目元に涙の跡が残るシャーリーと、アウリルが賛意を示せば、
「確かに。トゥトゥは特に王都なら受け入れやすいですね」
とはスール。
トゥトゥはかつての大凶作の際に、ロアが救荒食として準備していた代物だ。
結局大凶作ではルデク全土に行き渡らせるほどの量は取れず、王都とゲードランドのみで流通した。
それ故か、ツァナデフォルでトゥトゥの生産が本格化し、安定的に輸入している現在においても、王都では『王都の名物の一つ』という認識が根強い。
そんなトゥトゥは食べ応えもありながら、そのものの味わいは淡白だ。カロのような主張の強い味には、確かにちょうどいいかもしれぬ。
ならば試してみるのみだ。
「スール、すまんがトゥトゥを買ってきてもらっても良いか? 俺が行ってもいいのだが、王都の店のことならお前の方が詳しいだろう」
「構いませんよ。じゃあ、シャーリーと一緒にすぐに買い求めてきます。他にもいくつか食材を集めてきますね」
さすが気働きのできる娘だ。俺が多めに金を預けると、二人ですぐに走ってゆく。
結果的に、トゥトゥを具材として参加させるのは大成功であった。しかし、俺の前に再び、別の問題点が浮かび上がってきたのである。




