【やり直し軍師SS-559】リヴォーテの日記(20)
スールが気を利かせて配膳してくれ、それぞれ席につくと試食の準備が整った。
並べられた皿には少量のカロ。それと3種類のロエナのヨーグルトあえ。
「さ、食べ合わせて忌憚のない意見を頂こう」
俺が皆に勧めるも、食べ始める前にオゼット嬢がおずおずと口をひらく。
「あの……この場に及んで、このようなことを申し上げるのはどうかと思うのですが……私、どうしてお誘いいただいたのでしょうか?」
うむ。良い質問だ。
「先だってのシュークリームの試食会。ローメート様から貴女への評価は、“柔軟な発想が素晴らしい”というものであった。ゆえにこうして、味見を願ったというわけだ」
そう。状況の打破には新しい視点が必要である。オゼット嬢から新しい発想が得られれば良し。そうでなくとも、個人的な感想は多くて困ることはない。
「私、そんなに大層なことは申し上げられない気が致します……」
「何、あまり気にせず楽しんでいただきたい。それよりも、冷めぬうちに」
俺が再び勧めると、各々スプーンを手に取り、どこかおそるおそる口に運ぶ。
「辛い!」
最初に大きな声をあげ、それからやや恥ずかしそうにしたのは花屋の娘、シャリー。他の面々はかなり真剣にカロを味わっている。
「汗が滲んできますが、これは驚くべき味わいですね。いくつかの香辛料は、お菓子の風味付けに流用しても面白いかもしれません」
アウリルが菓子職人らしい意見を口にする。
「……でもやっぱり、この辛さは少々抵抗を示す人も多そうですね。そうなると、やっぱり口直しの重要さが際立つのかも」
スールは宿屋の客を想定しているのだろう。もともとスールは何度か試作品を口にしているので、注目はロエナの付け合わせの方か。
口の中が辛味と香辛料で満たされたのち、俺は3つ用意したヨーグルトの、プレーンなものを手に取った。うむ。悪くない。辛味がかなり軽減されたような気がする。
それからもう一度カロを食べ、今度は砂糖を混ぜたものを。うむ。まあ、これはこれで。最後は同じように蜂蜜をかけたヨーグルト。
「……なるほどな」
俺が頷く横でスールが、
「これは、シンプルなものが一番良い気がします」
と断ずるように言う。俺も同意見ではあるが、
「どうしてそのように思うのだ?」と問えば、
「単純な話です。甘みのあるヨーグルトを食べた後、もう一度カロを食べると、あんなふうに……」
スールが指差したのはシャリーの様子である。そのシャリーは目に涙を浮かべていた。
「一瞬は甘くていいのですが、カロがより辛く感じます……」
「ああ。俺もそのように感じた。口直しにはそのままのヨーグルトがいいだろう。混ぜ込んだロエナはどうだ?」
「食感も面白いですし、味わいも控えめです。こちらはまとまった量が確保できれば、カロがなくても宿で出したいですね」
話気荒いスールに、アウリルが「実は……」と説明を始める。
俺も昨日初めて聞いたのだが、ロアがロエナの栽培を本格的に検討しているらしい。いつものシュタイン領で試験的に育成を始めるそうだ。あの男の行動の早さは、俺でも時折舌を巻く。
とはいえそれは望むところだ。ルデクで一定の成功が見えるようならば、グリードルでも栽培できるように進言してみよう。加工次第で、東方諸島との取引にも利用できるのではないか?
「でも、口直しがあっても、やはりこの料理は少しとっつきにくい気が致します。何というか、少なくとも王都の民好みでないというか……何かが噛み合っていないような……」
「アウリルの言うとおりだ。そこを何とかしたくて、こうして色々試行錯誤しているのだ」
俺が感じていた疑念と同じことをアウリルも思ったのであれば、やはりカロを北の大陸で楽しむには、何らかの工夫が必要なのだと思う。
ふと、オゼット嬢が随分と静かなことに気がついた。
見れば、オゼット嬢の前にあるカロの皿は空だ。辛さで口が開けないのか、下を向いて微動だにしていない。
俺の視線に気がついたのか、オゼット嬢が顔を上げる。
「あの、リヴォーテ様、一つお伺いしたいのですが」
「何ですかな?」
「これは“主菜”ですか? それとも“汁物”ですか?」
と、予期せぬ質問を投げかけてきた。




