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【やり直し軍師SS-56】ネルフィアのお仕事②


「ネルフィア姉さんと一緒にお仕事するのは久しぶりですね〜」


 軽いノリではしゃいでいるのは、部下のシヴィ。若そうな見た目だが、第八騎士団の経歴としてはサザビーより長い。


 第七騎士団の後方支援に配属されたばかりの彼女を見出して、第八騎士団に引っ張ってきたのはネルフィア自身だ。


 シヴィの最大の武器は、そのノリのよさ。誰とでもすぐに仲良くなるため、例えば貴族の使用人として潜り込み、同僚の噂話を集めることなどを得意とする。


 また、変装に関しても一流で、教えたネルフィアを超えるほどの腕を持つ。


 現に今、ネルフィアの前で笑っている娘、声はシヴィだが、顔はネルフィアの知らぬ人物であった。


 もしかすると、サザビーあたりはシヴィの本当の顔を知らないかもしれない。そう考えたら少し愉快な気持ちになる。


「いつもの相棒はどうしたんですか〜」


 含みを持たせた笑みを見せながら、ネルフィアを覗き込むシヴィ。


「……サザビーなら今は、ロア様に同行しています」


 先日、キンズリー=インブベイは予定通り病死した。仕掛けたのは今隣にいるシヴィだ。


 キンズリーの死によって、仮にキンズリーの仲間が王都にいたとしても、しばらくは大きく動くことはないだろう。ひとまずロアの周囲に何か仕掛ける心配は減ったと言えるが、皆無ではない。


 ゆえに、当面サザビーはロアのそばに置いておきたかった。


「しかし、別にサザビーが相棒という訳ではありません」


「またまた〜、ま、そういうことにしておきましょう」


 確かにロアの監視を始めてからは、サザビーと行動を共にすることが多いが、ネルフィアは比較的単独行動を好む。


 まあサザビーはともかく、言われてみればシヴィと組むのは少し久しぶりだ。優秀さについては申し分ないのだが……


「ネルフィア姉さん、ロア様とか、周りの人の話聞かせてくださいよ〜」


 楽しそうなシヴィに、ネルフィアは苦笑。シヴィはとにかく話好きだ。移動中もこうして延々と喋っている。これが潜入先では大いに役に立つし、もちろん第八騎士団として話して良い内容は弁えているが、とにかく騒がしい。


 サザビーといる時は比較的静かな時間が多いので、比較するとその差はすごい。ネルフィアとしては、どちらかといえばサザビーといる時の方が気が楽だ。


 一方的にシヴィの話に耳を傾けながら、2人が向かっているのはバーミントン領である。


 馬は途中で置いてきたので、今は黙々と歩いている。次の村まで行って馬車があればそれに相乗りする予定だったが、なかったのでひたすらに歩く。


 シヴィにはバーミントン家に召使として潜入してもらう。そのため、庶民の娘が馬で颯爽と街に到着するのは好ましくないための対処であった。


 バーミントン家へ潜り込む手筈は整えてある。シヴィは王都の有力貴族の口利きで、職を探して流れ着いた娘という設定で、紹介状も準備済だ。


 万が一断られたら、ネルフィアと共に館へ忍び込んで、情報を集めれば良い。だか、有力地方貴族とはいえ、中央貴族の紹介状を持った者を門前払いする可能性は低かった。


 先方の顔を立てるためにも、少なくとも数日程度は、使える人材なのかとどめ置いて確認するはずである。使えなければ、はした金を渡して追い出すのが貴族の慣例である。


「それにしても歩きにくい道ですねぇ」


 シヴィが地面に向かって不満を漏らした。確かに歩きづらい。といっても、今まではこんな道が当たり前だったのだ。


 ロアの提案によって実現した、広くて歩きやすい道を知ってしまうと、シヴィの気持ちも良くわかる。


 以降、まるでシヴィが発案者のように、歩きやすい街道がいかに大切かを熱弁するのを聞きながら、ようやく辿り着いたルモンの街。バーミントン家のお膝元だ。


 北部でも有力貴族の一つであるバーミントン家の所領だけあり、近隣では一際規模が大きい。街は有事の際に対応できるように、砦の如く塁壁で囲まれていた。


「……では、私はここまで。ウーノと合流します」


「はい〜、それでは」


 歩く速度を落としたシヴィを置き去りにして、ネルフィアは先へ進む。


 ルモンの街の門を通ることなく横にそれて、周辺を探る。壁はレンガ作り。それほど精巧ではない。


 人の目がないことを確認すると、適当な場所からするすると壁を登り、あっという間に乗り越えると、街中へと忍び込んだ。



 街に入ったネルフィアは、早々に宿を押さえ、いつものように気配を消して目的地へ進む。


 ネルフィアが立ち止まったのは街のパン屋だ。店内に客がいなくなったタイミングを見計らって、音もなく入ってゆく。


 店内には店番の店員がひとり。その店員も後ろを向いて何やら作業をしていた。


「ウーノ」


 声をかけられた職人風の店員が、ぴくりと肩を震わす。しかし顔を上げはしない。


「そのままで結構です。”小鳥”と仕事に来ました。夜、指定した場所へ」



 ネルフィアが押さえた宿の部屋番号を伝えて、そのまま店を出るまで、店員がネルフィアの方を振り返ることはなかった。





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― 新着の感想 ―
[一言] スパイっぽい!!!(ってスパイだけど) シヴィはやかましいから小鳥なんでしょうか。 茶髪だったら雀とかコードネームついちゃったんでしょうか。
2023/07/18 12:08 退会済み
管理
[一言] ネルフィアの仕事っぷり。 普段は実体が見えない第八騎士団のメンバーの登場、楽しいです。 コードネームとか、わくわくしちゃいます。
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