【やり直し軍師SS-557】リヴォーテの日記(18)
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この俺、リヴォーテ=リアンは困難な状況に直面していた。
場所はルデクの王都のはずれ。倉庫が立ち並ぶエリアの一角だ。倉庫の一つを借り受け、暇をみては通い詰めている。
屋内には多数の調理器具。いずれもトランザの宿の娘、スールが用意してくれたものだ。
充満する香辛料の香りに包まれながら、俺はただ腕を組んで唸っている。
南の大陸で出会った、カロ、なる料理。それを再現するために用意した場所である。
非常に香り高いので、香辛料に馴染みのない北の大陸では少々気を使う必要があった。下手をすれば騒ぎになりかねん。
俺は出来上がったカロを口にして、再び首を傾げて唸る。
何かが違う。
第七騎士団のトールが書き記してくれたレシピは、忠実に再現したはず。実際、出来は決して悪くないように思う。だが、何かが違う。
南の大陸で食した店の主人は『それぞれの家庭で味の違う料理』だと言っていた。ならば、店の味と異なるのはまあ、当然と言えるかもしれない。
だが、そういう問題ではなく、何かが根本的に足りていないのだ。もしくは足りすぎているのか。
単体での味わいもそうだが、パンにのせた時の印象もどこかしっくりこない。
その原因が何なのか、ここのところずっと考えていた。
何度も試行錯誤を繰り返し、ようやく行き着いた可能性。
「やはり、環境の違いか……」
比較的高温多湿な南の大陸と、低温乾燥の傾向が強い北の大陸。料理は同じでも、人の置かれた環境が、味わいに影響しているのではないか?
それともう一つ、「水」の違いも影響しているかもしれない。
実は前々から疑問に思っていたことがある。俺が口にしている水は、すべて同じものであるのか、と。
各地の美食をもとめ……もとい、視察に出向いた時、何度か水の味に違いを感じたことがあった。
水に関しては、大雑把に南と北の大陸の違いと言うよりも、もっと細かく分類されるような気がする。
それぞれの地域によって、水に違いがあるとすれば、カロの味わいの印象を変えている一因かもしれない。
「だが……そうなると……」
ベースはあるとはいえ、北の大陸の気候や環境に合わせるために、完全に一からの再構築となる。それはさすがに、料理人ではない俺の手に余る。
現状において完成しているカロも、決して悪くはない。悪くはないのだ。単に俺が納得いっていないだけである。俺は南の大陸で感じたあの感動を再び味わいたいのだ。
「やはり、第三者の協力を頼むか」
すぐに思い当たるのはスールと、トランザの宿の料理人であるその父だが、あやつらは忙しい。
調理道具を色々と手配してもらった上、これ以上本業の邪魔をするのはいささか申し訳なく思う。
また、トランザの宿の味に影響が出るのは望ましくはない。
かといって、他に王都でこんな珍妙な頼み事ができる料理人にも心当たりがない。
ロアかルファあたりに頼んで紹介してもらうという選択肢もあるが、それは最終手段だ。どう考えても騒がしいことになる。
「せめて、最初のとっかかりだけでも助言がもらえれば、話は違うのだがな……」
湯気を立てるカロの鍋を見つめながら、俺は再び低く唸った。
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「リヴォリヴォ、なんかお香でも焚いてる?」
鼻をスンスンさせながら、そんな風に声をかけてきたルファは、俺の返事も聞かずに再び口を開いた。
「ねえリヴォリヴォ、甘いもの食べに行かない?」
「藪から棒になんだ? 俺は暇ではないのだ」
「お義姉様がねシュークリーム食べに来ない? って! 美味しいシュークリーム、たくさん食べられるよ!」
「む」
シュークリームか。それは悪くない提案だ。ここのところカロの試食が多く、口の中が辛くなってきたところではある。
「……ルデクの妃にそこまで頼まれては断れんな」
「そうそう! じゃあ明日ね!」
「そんな急な話なのか?」
「そう! あ、これから公務だった! 急いで戻らなくちゃ! じゃあまた明日!」
妃になっても全く落ち着きのないあの娘は、一方的に言いたいことだけ言って走り去っていた。
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カロの完成がこれほどまでに困難な道のりになるとは思っていなかった。しかし、ここまできたら何とか完成まで漕ぎ着けたい。
別に俺が食いたいというだけではない。協力してもらったトールにレシピを教えるという約束もある。
グリードル帝国の人間として、約束したことを守らぬのは、陛下の顔に泥を塗るのと同義だ。
まあ、根を詰めたところで良い結果が出るというわけではなかろう。
それにしてもシュークリームのパーティーか。
ルファの義理の姉ということは、菓子に造詣の深いローメート様だな。あのお方のお誘いであれば、つまらないものは出てこないだろう。
別に楽しみではないが、良い気分転換になることを期待して、今日の日記はここまでとする。




