【やり直し軍師SS-556】アウリルの非日常な日(下)
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次回は12月13日からを予定しております!
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作業している人々を横目に見ながら、アウリルが連れてこられたのは畑の隅。
「この辺りなら拡張できると思います。っと、そういえば自己紹介がまだでしたね。第10騎士団所属のダンブルと言います。よろしく」
「え? 第10騎士団?」
失礼ながら思わず聞き返してしまった。その反応を見て、ダンブルは頭の後ろを掻きながら苦笑。
「まあ、見えないですよね」
「あ、いえ、すみません。そんなことは……」
「いやいや、実際騎士団に顔を出すのは年に数回なので。私はこれが任務なのですよ。トゥトゥ、知ってますか?」
「それはもちろん……」
知っているどころではない。あれから数年経ったとはいえ、大凶作の記憶は新しい。
未曾有の天候不順によって、麦をはじめ多くの農穀物が不作に見舞われたあの年、王都で救荒食として出回ったのがトゥトゥだ。
救荒食と言うことで、最初はかなり警戒されたが、味は普通に美味しかった。慣れれば全く問題ないほどに。
それに、すぐに王様は南の大陸から沢山の食料を買い入れてくれたから、贅沢はできずとも、飢えるような心配はなかった。
アウリルの家は菓子職人であったから、食材の仕入れが壊滅的になっているという事実は、一般の人よりもずっと実感を伴っている。ゆえにこそ、あの時のことはすぐに鮮明に思い出せる。
アウリルがこくりと頷けば、ダンブルが胸を張り、畑を背後に両手を広げた。
「あのトゥトゥの作付けを最初に始めたのが、この場所なのです」
「ええっ!」
それは流石に驚きだ。ではここは、ある意味で歴史的な場所と言えるのではないだろうか。
「みんなでトゥトゥ、掘ったよね〜」
「えっ!? お妃様もですか?」
「うん! 第10騎士団みんなで掘ったんだよ!」
状況が全く想像できないけれど、これほど気さくなお方だ。本当に畑仕事をなされたのだろう。
「で、私はロア様から命じられて、第10騎士団よりこの地に配属されているというわけなのです」
「なるほど、では、ダンブル様はロア様の腹心のようなお方なのですか?」
「いやー、たまたま新兵時代にご縁があっただけなんですよ」
「まあ、確かに最初は成り行きだけど、僕の腹心というのはあながち間違っていないと思うよ。ねえ、ウィックハルト?」
謙遜するダンブルに口を挟んだ宰相様は、おつきの人に話しかける。ウィックハルトというお名前は聞いたことがある。もう有名人ばかりで感覚が麻痺してきた。
「そうですね。この場所を任せられるのはダンブルだけですので、ある意味で独立部隊長と呼べるかと」
「……ありがとうございます」
ダンブルが深々と頭を下げるのを穏やかに見つめながら、宰相様は話題を変える。
「さ、本題に入ろうか。ロエナをこの場所で育ててみようと思うのだけど、どうかな? いけると思う?」
「ああ、そのお話しでしたか」
やっと合点が行った。確かにトラド祭の時にそれらしい会話をした記憶がある。まさか、こんなにすぐの事だとは思ってもみなかったけど。
「うん。こういう環境って、口頭で伝えるのが難しいからね。実際に見てもらった方が早いと思ったんだ」
やはり国を動かすようなお方は“速度”が違うのだな、と妙な感心をしながら畑を見渡す。
「……私はロエナの専門家ではありません。なので見当違いかもしれませんが、王都からさほど離れておりませんし、気温さえ下がりすぎなければ問題ないのではないかと」
「うんうん。アウリルが専門ではないのはわかっているから安心して、何か根本的な問題がなければひとまずいいんだ。あとはダンブルの方で色々試してみてよ」
「承りました」
「それじゃ、これでひとまず完了。ダンブル、みんなにもお土産を持ってきたから、作業の手を止めて休憩にしよう」
そんな宰相様の一声で、揃ってお屋敷に移動することになったのである。
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まるで訳のわからなかった一日だったけれど、その日の夕方には帰宅することができた。
宰相様や王太子御一家はお屋敷に宿泊されるとのことで、帰りの馬車は一人。随分と気楽だった。
「それで、お屋敷の中ではラピリア様の自家製ジャムと紅茶をご馳走になって……」
アウリルとしては、今日あった信じられぬ出来事を誰かに吐き出したく、夕食の場で両親にひたすら話し続ける。
いくら話しても尽きぬ話題に、アウリルの父が呆れたように笑う。
「それにしても珍しいな」
「どれが? 珍しいことしかなかったけれど……」
「いいや、話の内容はもちろんだが、お前がそんなに感情豊かに話すことが、だよ」
「そう?」
「ああ。それだけで今日一日大変なことがあったと実感できるほどだね」
そんなふうに指摘されては、アウリルも苦笑するしかない。
そうしてまるで一夜の夢であったかのような一日が終わり、翌日からいつもの日常が始まる。
と、アウリルは信じていた。
翌日、片眼鏡の人物が訪ねてくるまでは。
というわけで、次回、リヴォーテの日記!




