【やり直し軍師SS-547】甘き集い、再び(2)
シュークリームの食べ比べは、ローメート様のお屋敷で開催された。王宮でないのが少し意外だったけれど、
「王宮だと話が大ごとになってしまうから……」
というローメート様の言葉で納得。今回の件は、本当に友人同士の内輪のイベントであるのだろう。
この小規模な催しに参加するのは、僕、ラピリア、ルファ。ローメート様とそのご友人、スレイア様、エルアイズ様、オゼット様。
それと、飛び込みのゲストがもう一人。
「……どうしてリヴォーテが?」
「……ルファに誘われたのだ。問題あるか?」
「いや、ないけど」
「ならばいい」
すまし顔のリヴォーテであったけれど、当人もやや戸惑っている様子。
これはあれかな、ルファに『甘いもの食べに行こうよ!』みたいな誘われ方をして、詳しく聞かずにのこのこついてきたって感じだな。
同じく一緒についてきそうな双子は、現在所用で第四騎士団に出向いている。
具体的にはウラル殿下やジュノスの様子見に。まああの二人のことだから、しばらくは殿下たちにひっついて回るかもしれない。遠征で少し物足りなさそうだったから。
それならそれでいい。護衛としてはこれ以上ない人選だ。
適当なところで飽きたら帰ってくるだろう。
というわけで華やかな席に、男性は僕とリヴォーテだけ。若干の居心地の悪さを感じなくもない。
そんな僕を尻目に、ラピリアやルファは他のご婦人と笑顔で交流を続けている。特にルファとオゼット様はきゃっきゃと賑やかしい。この二人、見た感じ歳が近そうだし。
「宰相様とお話しするのは初めてですね」
僕に声をかけてきたのはエルアイズ様だ。この中では一番の年長さんで、落ち着いた所作が場の空気を和らげる。
「そうですね。本日は皆様の楽しい席にお邪魔してすみません」
「とんでもごさいませんわ。私たちがローメート様にお願いしたのです。お忙しいというのに、このような集まりにお越しいただきありがとうございます」
「そう言っていただけるだけで嬉しいです。……でも、あまり甘いものに詳しいわけではないので、がっかりするかもしれませんよ?」
「ご謙遜を。本日は宰相様の忌憚ないご意見を伺えることを楽しみにしております」
なんだか責任重大だなぁ。そんなことを考えている僕の横では、ルファがリヴォーテに絡んでいる。
「ねえリヴォリヴォ、こちらオゼットちゃん!」
「紹介するならちゃんとしろ。全く、お前はいつまでも……。初めましてオゼット嬢。私はグリードル帝国のリヴォーテ=リアンと申します。お会いできて光栄です」
なんかちゃんとしているリヴォーテがスマートに挨拶すると、オゼット様は慌てて頭を下げた。
「光栄だなんてそんな! 私のような小娘にありがたく存じます。パルヴィクス家の三女、オゼットです。リヴォーテ様のご高名はルファ妃様よりかねがね」
オゼット様の言葉を受け、ルファに視線を移すリヴォーテ。
「……何かおかしなことを言っていないだろうな?」
「えー? 言ってないよ〜」
「本当か?」
「ほんとほんと!」
横で聞いていても、絶対余計なこと言ってそうな気がするけれど。まあいいや。それよりも、オゼット様の名乗りからして、この中では唯一の未婚のお嬢さんになるのかな?
それからしばらくたわいのない歓談を続けていると、ローメート様の従者が部屋に入ってきて「料理人の皆様の準備が整いました」と伝える。
「あら。もうそんな時間? 楽しい時間はあっという間ね。それでは私は急いで着替えなくてはいけません。皆様は、どうしますか?」
「どうしますか、とは?」
質問の意図が読めなかった僕が聞き返せば、
「私は調理場でお菓子を作ります、調理場で観覧するもよし。この場でお茶を飲みながら歓談されるもよし、です」
「えっ!? ローメート様自らお菓子作りを!?」
「はい。恥ずかしながら……。あ、ご安心ください。一応ちゃんとしたものを作りますので」
「いえ、そこは心配していないのですが……」
お菓子好きだとは思っていたけれど、まさか自分で作るほどだとは。
「ちゃんとしたなんてとんでもない。ローメート様の腕はお店を出せるほどですのよ」
スレイア様がそんな言葉を添えれば、
「ええ、先日頂戴したお菓子も、それはそれは素晴らしいものでしたわ」
「私も、先日のお菓子を思い出して、帰ってから家人に作ってもらいました!」
と、口々に賞賛を口にする。
「それは楽しみですね。せっかくだし、調理を拝見させていただきます」
一応僕も、少し準備があるし。
結局その場に残る人は一人もおらず、僕らは揃って調理場に移動することになったのである。




