【やり直し軍師SS-546】甘き集い、再び(1)
更新再開致します!
しばらくかっちりとしたお話が続いてましたので、今回は山なし落ちなしゆるゆる回〜
ごゆるりとお楽しみ頂けたらと思います!
書籍版第四巻、コミック第一巻、おかげさまで好評発売中です!
こちらもお手にとっていただけると嬉しいです!
どうぞ宜しくお願い致します!
「宰相様。甘いもの、食べたくないですか?」
「今は特に食べたくはないです」
と、答えるわけにはいかない相手からの質問である。
僕に問いかけたのはローメート様。中央の有力貴族、ディアック卿の奥方で、ルデク国王ゼウラシア王の実妹でもあるローメート様は、お菓子大好きなご婦人だ。
以前開催したお菓子の祭典は、すでに第二回の開催にこぎつけており、無事に幕を下ろしたらしい。
らしい、というのは僕が参加していないから。ちょうどその時期何かと忙しく、そもそも王都にいなかったのである。
とはいえあのイベントは完全に僕の手を離れたので、僕が不在でも問題はない。
元々僕は甘いものに詳しいわけではないから、これ以上レシピを求められたところで何も出ないのだ。
ただでさえ、帝国やゴルベル、ツァナデフォルにもレシピを提供している。未来の知識でもこれ以上は、といったところ。
が、相手は王の妹君なので無碍にもできなかった。
「急にどうされたのですが? ローメート様」
「ご存じの通り、最近、創作シュークリームが界隈で盛り上がっておりまして」
多分それ、僕の知らない界隈だなぁ。
確かに王都ではお菓子のクオリティが著しく上がっているらしいとルファが言っていた。手土産でもらうお菓子も美味しい物が多いし、隆盛を見せているのは事実だろう。
「……それは結構なことですね」
「でしょう! ……あの……それでですね……」
もじもじするローメート様。お菓子のことには積極的だけど、基本的には大変奥ゆかしい性格のお方なのである。僕もその辺りは心得ているので、ローメート様の言葉の続きを焦らずに待つ。
「その……今度、味比べをすることになりまして。是非とも宰相様に審査していただけないかと……」
「え? もう第三回のお菓子の祭典を?」
「いえ! 違います。あくまで私的な集まりなのです!」
詳しく聞けば、ローメート様のお菓子友達の集まりなのだそう。もちろん全員貴族だ。趣味がお菓子作りの人たち。
ただし、料理するのは本人たちではなく、お抱えの職人に自分の理想とするお菓子を作ってもらって、持ち寄るような感じらしい。
「なるほど。それで、皆さんが好まれる創作シュークリームを持ち寄って、味くらべをしようという話ですか」
「ええ。ええ。そういうことなのです! ですが、せっかくなので始祖たる宰相様のご意見をいただけないかという話になり、私がこうして」
……意図は理解した。でもそれ、誰を選んでも角が立たないだろうか? そもそも僕は、淡雪の発案者ではあるけれど、シュークリームの始祖ではない。
僕が一瞬迷いを見せたのを見逃さなかったのか、ローメート様が一歩前に出てくる。
「もちろん宰相様のご迷惑になるようなことはございません。あくまで皆様で美味しいものを共有したいという集まりですから」
「そ、そうですか……」
まあ、断る理由もないかな。お抱えの職人がいる程こだわりのある人たちなら、食べられないようなシュークリームは出てこないだろうし。
「ラピリアが一緒でも問題ないですか?」
「ええ! もちろん! ルファさんも誘う予定ですし!」
まあ、そういうことなら良いか。こうして僕はローメート様の誘いに乗って、創作シュークリームの食べ比べに参加することになったのである。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「それで、ロアは何か用意するの?」
ローメート様のお誘いについてラピリアに話すと、返ってきた言葉が、これ。
「やっぱり、なんかいるよねぇ……」
ローメート様は直接言わなかったけれど、僕にも何か独創的なシュークリームを持ち寄って欲しいことはなんとなく伝わってきた。
とはいえ貴族お抱えの菓子職人ほどの代物を作るのは難しい。下手なものを持っていってローメート様の顔を潰したくもないし。
「どうしたものかな?」
「未来の知識で何かないの?」
「……あったらこんなに困ってないよ」
「……それもそっか。ね、南の大陸で何か流用できそうなものはなかった?」
「あー、なるほど。南の大陸かぁ…………」
何かないかなぁと考えながら、夜はとっぷりと更けて行くのであった。




