【やり直し軍師SS-545】騎士団修行(10)
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異変に気付き、それがなんなのか確認したボルドラスは、即座に状況を理解した。
先頭を駆けるのはユイメイ。背後に付き従う1000以上の兵士、1500はいるか。もちろん第四騎士団の団員だ。ただし、今回の演習に参加していない者達。
北ルデクの併呑を経て、ルデクの軍部には大きな変化があった。
第一騎士団と第九騎士団が消滅し、第二騎士団、第三騎士団は北ルデクへと持ち場を変更。結果的に、第10騎士団と第八騎士団を除く8つの騎士団の中で、元のルデク国内に残ったのは4つの騎士団だけ。
さらに第六騎士団は工兵に特化する道を進んでいるため、残った3騎士団に配分される兵力が激増したのだ。
具体的には、それぞれ倍以上の加増となっている。各地の拠点に配備できる兵士にも、余裕ができているのが現状である。
つまり、ユイメイはどこかの砦に待機中の兵士を引っ張ってきたのだ。この演習砦の近くで、1500もの兵士が入っているのはアンダークランの砦の兵か。
これはやられた。完全に守備勢が兵数で優位になった以上、砦内の部隊も攻め時と出てくるだろう。
ならばここまで。
ボルドラスが退却を命じると、周囲には一瞬、怪訝な雰囲気が漂う。
「……確かに妙な場所から敵兵が迫っておりますが、ほとんどを砦の外に出しているのであれば、砦内は空に近いのでは?」
部下の一人が呈した疑念。なるほど、ユイメイが率いているのは演習に割り当てられた兵士だと考えているのだな。
『演習』という言葉にとらわれて、理外の戦略に考えが至っていない。
……リフレアとの決戦からすでに7年。己も含め少々、緩みが出ているか。
ボルドラスが小さくため息を吐く間に、グランツも撤退の動きを見せる。さすがにグランツ殿は状況を理解している。
「……今日はこの後、長い反省会だぞ」
質問してきた部下にそのように伝えると、ボルドラスはこちらの負けを示すように、速やかに開始地点まで撤退させるのであった。
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ジュノスが呆気に取られている間に、勝敗は決した。結局双子は一切干戈を交えることなく、勝鬨を上げたのだ。
そして今、演習終了の反省会の最中である。
「……結局、ユイメイだけが最初から正しく戦場にいた。そういうことだ」
ボルドラスが総括すると、グランツも軽く首を振った。
「……確かに我らも少々気を抜いていたのは否めませんな。演習はすなわち、いざという時の実戦のための訓練。ならば守勢が砦を守るために援軍を頼むのは必定」
「ああ。ここのところすっかり平和であったから、我々は演習の意味を取り違えておったわ。ユイメイの二人に感謝しよう」
ボルドラスに褒められて、
「えへへ」
「もっと褒めてもいいぞ」
と嬉しそうな双子。
演習中の軍議で早々に双子が提言したのが、近くの砦から援軍を連れてくることであった。
正直、ジュノスもウラルも、演習に参加していた第四騎士団の将さえ、その提案に難色を示した。
『それは卑怯では』
『演習の趣旨と違うのでは』
『他の任務遂行中の同胞に迷惑がかかるのでは』
だが、双子はそれらを一蹴。
『『本当の戦場でも、そんなことを気にして死ぬのか? お前ら』』
と。
全くもって双子の言い分が正しかった。過日の南の大陸の戦場を思い出す。ぬるいことを考えていれば、簡単に食い取られる。己の命を。
それが戦場なのだから、勝つためにできることは全てするべきだ。
演習に参加していない兵士に、迷惑がかかるというのも見当違い。本来なら戦場に近い砦にいる兵士は、すぐにでも動ける体勢を整えなくてはならない。
……宰相が戦場で双子を重用する気持ちがわかった気がする。
あの二人の現実は、他よりも“濃い”。
「もっと褒めろ」
「褒めろ褒めろ」
せっかく芽生えた双子に対する敬意が萎えるほど調子に乗っている双子を見ながら、ジュノスは良い経験をしたと考える。
こうして第四騎士団での日々は終わり、ジュノスたちはまた新しい騎士団の元へと向かうのであった。




