【やり直し軍師SS-540】騎士団修行(5)
「ウラル殿下、お久しぶりでございます」
「ああ。本当に久しぶりだな。グランツ」
グランツ=サーヴェイ、指揮官としても優秀だが、武人としてもルデク指折りの猛将の一人。ジュノスにとっては、第四騎士団来訪の目的の一つである。
「……ところでそこのお前、随分と殺気を放ってくるな。何者だ?」
無意識に視線が鋭くなってしまっていたのか、グランツがジュノスに厳しい視線を送ってくる。
「……失礼。第三騎士団所属のジュノスという。武人として名高いグランツ将軍には、一度会ってみたいと思っていた」
「ああ。お前がジュノスか。なるほど、ザックハート様の……」
「グランツ将軍、あんたに頼みがある。俺と一戦交えてくれ」
唐突かとも思ったが、この気を逃す手はない。ジュノスは躊躇なくそう、口にする。
グランツは少しニヤリとして、視線をボルドラスへと移した。ボルドラスは苦笑しながら、
「若さとは良いものですなぁ」
などという。
そんなボルドラスの返答を受けたグランツは少し考えるような仕草を見せ、
「うむ。では一つ条件を出そう」
「条件?」
「ああ。まだ大して言葉を交わしたわけではないが、お前は礼儀がなっていないようだな」
「……」
「まあ、お前の経緯を考えれば分からぬではないが、上官には最低限の敬意を払い、敬語を使うべきであろう」
「……つまり、俺が勝ったら今のままでいい、そういうことだな?」
「うむ。面白い。勝てるものなら好きにせよ。私は今すぐにでも始めてもいいが、ボルドラス殿、いかがか?」
「そうですな。グランツ殿がよろしければ、街に造っている闘技場を使用いたしましょう。あそこならば、作業している者達も気軽に観戦できる」
「しかし勝手に使って良いものなのか?」
「いやぁ、バレたらバレたで、ロア殿に怒られるとしましょう」
当然のように言い放ってカラカラと笑うボルドラスに対して、グランツは少しだけ困った顔をした。
「……さも、たった今決まったような風を装ってはいるが、最初からこうなることを見越しておられたのだな、ボルドラス殿」
「はてさて、なんのことやら」
とぼけるボルドラスであったが、そこまで言われれば流石にジュノスも気づく。ボルドラスは街の作業員の息抜きの見せ物にするために、ジュノス達をここまで連れてきたのだ。
そもそもグランツはキツァルの砦からゼッタ平原を抜けてすぐの、ヒースの砦が拠点であるはず。思えば、こんなところまでもったいぶる必要はない。
ボルドラスのいいように転がされたのはいささか癪ではあるが、グランツと戦うという目的からすれば手間が省けたので、むしろ感謝したいくらいである。
グランツは小さくため息をはくと、ようやくジュノスを見た。
「よし、では先ほどの条件で良いな?」
「ああ」
こうしてボルドラスが先頭に立ち、街の中へと進んでゆく。そんな中でリュージュがジュノスへと小さな声で話しかけてきた。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「何がだ?」
「急にあんな喧嘩を売っておきながら、何がじゃないわよ」
「どういう形であれ、俺はグランツ将軍と戦うつもりだったからな。むしろ好都合だ」
「呆れた。闇雲に噛みついてなんになるっていうのよ?」
「狂犬呼ばわりするな。別に誰にでも噛み付くわけじゃねえよ」
「でも実際そうでしょうが。そうまでして何になるっていうのか聞いてるの」
「なる。俺は最強の将軍にならないとダメだ。強い奴と戦える機会があるなら、意地でも戦ってやる」
それが、友が指し示してくれた、父の名誉を守る術。なら迷わず信じて突き進むのみ。
「……脳筋は最強の将軍じゃないわよ?」
「当たり前だろ? お前大丈夫か?」
「こいつ後で絶対ぶん殴る……」
小さな声で言い争っていたら。ボルドラスが足を止める。
「ここが闘技場だ。さ、グランツ殿とジュノスは早速準備を」
言いながら、ボルドラスはすぐに、今日の作業は終わりにして、闘技場に集まるようにと部下に喧伝を命じるのであった。




