【やり直し軍師SS-536】騎士団修行(1)
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南の大陸への遠征から帰還したジュノスは、北ルデクには戻らず、ウラルと共にルデクトラドに出向いていた。
遠征中に話していた計画を実行するためである。
すなわち『各騎士団を巡る修行』の許可を、王から得るための来訪。
帰還中に第三騎士団副騎士団長のベイリューズからは許可を得ているので、ザックハートは問題ない。
あとはウラルの問題。王子がフラフラと修行に出て回るのだ、王の許諾は必須となる。
「で、どの騎士団から行くのかしら? あ、第七騎士団以外からね」
そんなふうに口にしたのはリュージェ。第二騎士団長の右腕であるレゾールの娘だ。
「……本当にお前もついてくるのか?」
この修行は元々、ジュノスとウラルが話していたものだ。そこへリュージェが聞きつけてきて、同行を希望したのである。
「あら、何か文句あるの?」
リュージェが口を尖らせ、ジュノスは密かにため息を吐く。
所属騎士団の団長であるトール将軍から、本人が既に許可をもらっているので、同行するのになんら問題はないのだが……。
「お前には別にないんだけどな……あとでレゾールに何言われるか……」
「そんなの無視しておけばいいのよ」
リュージェとレゾールの親子仲は良いとはいえない。騎士団とは無縁な平穏な暮らしを望む父と、騎士団での栄達を望む娘では水と油。過去にも色々あったようだし。
リュージェは放っておけというが、第三騎士団は第二騎士団と本拠を同じくしている。修行を終えて帰ったら、確実に絡まれる。
「それにしても、ウラル、遅いな」
とはいえ、現状においては絶対に平行線を辿る話を続けるのは不毛なので、ジュノスは話題を変えた。
ジュノスたちがウラルを待っているのは、王宮に隣接する庭園。
王族かそれに近しい人々のみが出入りを許される秘密の花園で、のんびりとお茶を飲みながら時間を潰しているのだ。
気配を感じて目をやると、こちらにやってくる人影が見えた。明らかにウラルではない。
幼な子を連れた女性が二人、楽しげに話しながら近づいてくる。誰だと目をこらすジュノスの横で、リュージェが即座に立ち上がった。
「ルファ妃様! ラピリア様!」
ああ。ウラルの義姉と、宰相の伴侶か。
いずれもウラルから話はよく聞くが、ジュノスにはあまり接点のない二人だ。いや、戦姫ラピリアの方は前に北ルデクで見たことはある。が、言葉を交わした記憶はない。
「あ、えーっと、確か、リュージェちゃんだ! おかえり! 遠征、大変だったでしょ!」
非常に気さくにリュージェに話しかけるルファ妃。
「私のようなものに気をかけていただき、もったいなきお言葉です」
軍人らしい礼を返すリュージェに、
「そんな畏まらなくていいよ〜」
とのんびりしたものだ。その隣にいたラピリアも、リュージェに労いの言葉をかける。
「どこも怪我はない?」
「はっ! はいっ! ありがとうございます!!」
ガチガチのリュージェを見ながら、ジュノスは苦笑。リュージェがこのようになるのも無理はない。彼女にとって、戦姫ラピリアは憧れの人である。
ジュノスは遠征中、散々ラピリアの話を聞かされてた『一度ちゃんとお話を伺ってみたい』と。まさかこんなところで突然会うとは思っていなかっただろうが。
リュージェがアワアワしながらラピリアと話をするのを眺めていたら、ルファ妃がこちらへ、てててとやってきた。
「ジュノス君だよね? ウラル君のお友達の」
「はあ。友達……まあ、そうですかね」
公衆の面前ならば不敬だろうが、なんだかゆるすぎてどうも畏まった態度が取りづらい相手だ。この雰囲気で、あのリフレアとの最終決戦にも参陣したというのが信じられない。
「ウラル、いつもジュノス君のこと褒めてるよー」
「あ、はあ。どうも」
「それで、今日はどうしたの?」
小首を傾げるルファ妃に、ジュノスはこの場所での待機の理由を告げる。下手に世間話をするよりも、こういった話の方がよほど助かる。
ジュノスが説明を終えると、少し離れた場所でリュージェの相手をしていたラピリアが会話に加わってきた。
「へえ。騎士団を回って修行……。面白いこと考えるわね。君の案?」
「はい。まあ、そうです」
「へえ……君の話はよく耳にしているわ。その、騎士団に入った経緯も」
「……」
「ああ、別にそんなに警戒しなくていいわよ。ザックハート様も、ロアも、君には期待しているから」
「そう、ですか……」
さて、なんと答えるのが良いかと迷っていたところ、二人の背後に救世主が現れる。
「ウラル! こっちだ!」
ジュノスが手を挙げてウラルを呼べば、ウラルも軽く手を上げて近づいてきた。
「義姉上、ラピリア殿も。お子をつれてお茶ですか?」
「そう。今日は天気いいからね!」
「そうですね。ゼクシア、ロピア、いい子にしているか?」
「「うん!」」
元気よく返事する子供等。
どこまでもゆるい雰囲気の中、ウラルがリュージェに視線を動かす。
「なんだリュージェ、そんなところで畏まらずに、せっかくだからラピリア様の話を聞けばいいだろ?」
「ちょ! ウラ……殿下!」
「リュージェはラピリア殿に憧れて、いずれ戦姫の名を継ぎたいと言ってましたので、よければ色々教えてやってください」
「そうなの? 期待してるわ、リュージェ」
「そそそそんな! 恐れ多い!!」
真っ赤になりながら首を振るリュージェを横目に、ジュノスはなるべく気配を消して、その場をやり過ごそうと大人しくしているのだった。




