【やり直し軍師SS-535】文官試験(下)
今回の更新はここまで!
それぞれの始まりの話を書いてみましたがいかがでしたでしょうか?
次回は10月24日より再開を予定しております!
それまでは絶賛発売中の書籍版四巻および、コミック第一巻をお楽しみいただければと思います!
どうぞよろしくお願い申し上げます!
結果発表までの間、僕が合格を祈るように生活していたかというと、そうでもない。
あんなにたくさんの参加者は想定外の上、別の受験者が言っていた、『去年の合格者は18人』との言葉に、正直諦めの気持ちだったのである。
そこで叔父さんの店を手伝いつつ、改めて新しい仕事先を探していた。
一番の希望は書店や古書店だ。僕の唯一の趣味、軍記物を好きなだけ読み漁れる仕事のため天職と言える。
ただ書物はちょっとした高級品。残念ながらいかに王都といえど、書物を扱うお店は多くない。それこそ、文官よりも狭き門だ。
まして今の王都は各地から人が流入しており、住まいも仕事も極めて不足している。
王都への過剰な流入は理由は戦争のせいだ。僕らの国は今、東と西の両方の国と激戦を繰り広げていた。
結果、東西の国境近くに住んでいる人達が少なからず不安を抱き、何となく安全な気がする王都へと流れ込んできていたのである。
そのような状況であるので、王都の市民は過剰ぎみ。最悪文官試験がダメだったら、王都を離れてどこか別の街に居を構えた方がいいかもしれない。
そもそも僕は王都に根を張ったと言えるほど、この街で生活をしたわけじゃない。移り住むのも気軽なものである。
転居にあたり大きな荷物と呼べるのは、箱いっぱいに入っている書物くらいなもの。それだって、内容を覚えたらほとんどは古書店に持ち込んでいるので、ある程度厳選できる。
思えば従兄が帰ってきたのがこの時期でよかった。下手に叔父さんの店を引き継いでいたら、それこそ面倒なことになっていた。
そんな風に僕がいよいよ王都から離れる可能性も視野に入れ始めた頃、僕のもとへ一枚の手紙が届く。
そこには非常に簡素な文面で、文官の合格を知らせ、指定日に王宮へ出向くようにと書かれていたのである。
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呼び出し当日。
僕は叔父さんがこの日のために買ってくれた、小綺麗な服を着て城へと向かった。この服は叔父さんなりのお詫びの印なのだろう。
城門で来訪の用件を伝えると、手慣れた衛兵にとある建物に向かうように指示される。
僕が言われた通りの道順を進んでいたら、手前から煌びやかな鎧を纏った一団がやってくるのが見えた。騎士だ。
僕の手前を歩いていた平服の2人組が、慌てて通路から中庭に出て、道をゆずる。それを見た僕も同じように中庭へ。
僕らなどまるで視界に入っていないような騎士たちは、何やら楽しそうに話しながら通り過ぎてゆく。
「はー、おっかねえ。あれは第一騎士団か? それとも第10騎士団か?」
「さあ? 第10騎士団じゃない?」
そんな会話が聞こえ、僕がそちらを振り向けば、見覚えのある顔の2人組が言葉を交わしていた。そうだ、この間の試験で合格者の話をしていた2人だ。
と言うことは、僕と同じ採用者と考えて良さそうだな。
僕の視線に気づいたのか、2人がこちらに視線をよこす。
僕は軽く手をあげて挨拶すると、
「僕はロア、文官の合格の知らせを受けてここに来たのだけど、君たちもこの間の試験会場にいたよね?」
僕の言葉に、細身の方が気軽に返事を返してくる。
「お、じゃあ俺たちと同僚になるってことだな。俺はデリク。こいつはヨルドだ。よろしくな」
「よろしく。ところで、さっきのあれは第一騎士団の騎士様だと思うよ」
「へえ。どうして分かるんだ?」
「纏っているマントが第一騎士団のデザインだったからね。第10騎士団なら、騎士団長が王様だから四つ目獅子だ。因みに、四つ目獅子は気軽に使えないから、第10騎士団のマントは部隊の紋章を使う機会が多いんだよ」
「ほー、お前、ロアだっけ? おもろいこと知ってんな。……親族が騎士団にでもいるのか?」
「ああいや、知り合いはいない。ただちょっと、そういうの調べるのが趣味なだけ」
「ふーん。変わってんな」
デリクの不躾な言葉を受けて、ヨルドが苦言を呈する。
「ちょっとデリク、初対面の人に失礼だって。ごめんね、ロア。悪気はないんだ」
「全然気にしてないから大丈夫だよ」
「そう、ならよかった。これから同じ職場で働くんだから、仲良くしたいよね」
「そうだね。……ちなみに2人は知り合いなのかい?」
「まあそんなところ。住んでるところが近かったんだよ。腐れ縁ってやつ」
「それはいいね」
「そうでもないよ。ロアは王都の人?」
「元々は違う。僕の出身は南のほうの……」
こうして3人で話しながら、指定された場所に向かった。
その後様々な手続きを得て、寮についての説明を受ける。
3人とも入寮希望だったため、僕らは同じ部屋があてがわられた。僕らはそこから、長い付き合いをすることになったのである。