【やり直し軍師SS-531】大鷲の孫
ついについに!
書籍版第四巻&コミカライズ第一巻、発売いたしました!!
四巻まで出せたのは皆様の温かいご支援のおかげに他なりません!!
完結まで刊行できるように頑張ってまいりますので、四巻もどうぞよろしくお願い申し上げます!
待望のコミック第一巻も素晴らしい完成度ですので、是非是非お楽しみいただければ嬉しいです!!
「ラピリア! 父は許しません!」
ゾディアック家にベルトンの叱責が響く。だがラピリアも負けていない。
「お父様が許さなくても、私は私が選んだ騎士団に入ります!」
「ぐぬぬ! しかし、騎士団は他にもたくさんあるだろう。わざわざ一番危険な場所に……」
父との話合いは朝から平行線だ。論点は私がどの騎士団に所属するのかということ。
「わざわざ死地に赴くような騎士団は認められん! 第九騎士団で良いではないか! あの騎士団にはゾディアック家と懇意にしている関係者も多い。不自由なく過ごせる。第一騎士団だって、我が家なら容易くならねじ込めるのだぞ?」
「その両騎士団だけは絶対に嫌です」
第九騎士団など論外だ。創設間もないというのに、貴族の間では『金で買える騎士』として有名である。
そして第一騎士団もあまり良い印象はない。幼い頃から、第一騎士団は王都の祝宴の席で何度か見ている。あれは、騎士というよりも貴族の匂いが鼻につく。
「ならば第二騎士団や、第三騎士団、第七騎士団でもよかろう」
父があげたのはいずれも前線に持ち場のない騎士団たち。ただ、父が分かっていないだけで、いずれの騎士団も安全圏にいるわけではないけれど。
正直に言えば、第九と第一騎士団以外なら拒否するほどの理由はない。
でも私は、第10騎士団が良かった。
理由は私の祖父がビルザドル=ゾディアックであることだろう。
ルデクの大鷲と称されたお爺様。その名は伊達ではない。
帝国の台頭以前、かつてルデクの東に6つの国が割拠していた時代、お爺様は山を越えて東へ何度か攻め込んだことがある。その功績を讃え、人々は尊敬を込めて祖父を『大鷲』と呼んだのだ。
その当時、山向こうの国々は、お爺様がやってくるのを殊更恐れたと聞いている。
国内でも別格の大将軍に列せられたお爺様は、いずれの騎士団にも所属せず、独自の軍を所有することを許されていた。
そして有事の際は、己の軍を駆って自由自在に戦場を暴れ回ったのである。
幼い頃の私が戦巫女として軍事に参加できたのも、お爺様の部隊が、文字通り“お爺様だけの部隊”であったが故だ。
当時はよくわかっていなかったけれど、戦巫女という風習はすでに廃れていたから、通常ならば絶対に許されないらしい。
戦巫女の件はともかく、お爺様の部隊と第10騎士団は、そのありようがとてもよく似ている。
有事にあって、最前線で祖国の平和を守る遊軍。
ビルザドル=ゾディアックの孫として、これほど適した騎士団は他にない。
「……私は絶対に第10騎士団がいい」
譲れない。これだけは絶対に。
「だから第10騎士団は危険で……」
「危険だから何なの? 騎士はルデクの平和を守るための存在じゃないの? 安全な場所で安穏としている騎士団なんて……」
父に詰め寄る私に、
「おおっと。そこまでだ、ラピリアよ」
と待ったをかけたのはお爺様だ。先程まで同じ部屋で静かに私たちの話し合い(?)を聞いていた。
「でも! お爺様!」
「言いたいことはわかる。騎士の心構えはラピリアが言った通りだ。だが、今騎士団に所属しているものは、どの騎士団であろうと、多かれ少なかれ、その崇高な思いを胸に入団しておるのだ」
「……言い過ぎました。ごめんなさい」
「良い。それよりもベルトン」
「何ですか? いかに父上の言葉といえど……」
「……お前、このままだとラピリアから絶縁されるぞ?」
「なあっ!? 私はただ、ラピリアの身の安全を願って!」
「そうだな息子よ。お前の気持ちは、人の親としては痛いほどにわかる。が、このまま話し合いが平行線を辿れば、ラピリアは勝手に出て行くだろう。まだ年若いが、強い心を持った孫だ」
お爺様はそんなふうに言いながら、一瞬だけ私に目だけで微笑んで見せた。
それで意図を理解する。
「……そうね。今日の夜には出て行きます。もうこの家に帰ってくることはないでしょう。お世話になりました、お父様」
「ちょ!? そんな他人行儀な!」
「妹や弟と会えなくなるのは残念だけど、家族のことは胸に抱いて頑張ってきます」
「いやいやいやいや! 待て待て待て待て!」
さすがお爺様だ。あっという間に戦況が一変した。心の中で密かに驚く私をよそに、お爺様は畳み掛ける。
「ベルトンよ、そもそも第10騎士団は縁故採用をしておらん。そしてお主が言った通り、厳しい騎士団であるが故に、実力主義に特化している。この騎士団に入るのは容易いことではないぞ? 我が孫に実力がないとは思ってはおらんが、入団が許されるかはワシにも分からぬ。まず、娘に挑戦させてみるのも親の務めではないか?」
「むむむ……」
悩み始める父。お爺様はもう一度目を細めて私を見た。
その視線は、『お前なら絶対に入団できる』と信頼がこもったものだ。
私はお爺様の助力に感謝を込めて微笑み返す。
そうしてその数日後、私は住み慣れた実家から旅立ったのである。