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【やり直し軍師SS-527】南征(36)

35話超えの南征編もあと2話!

どうぞお楽しみくださいませ!



 スランのブラノアを呼べ。


 僕の放ったこの一言は、完全に室内を凍り付かせる。


 これ以上の説明は不要だろう。


 彼らは気づいたはずだ。『全て、知られていた』のだと。自分たちが獲物を狩る側の猛獣ではなく、檻に閉じ込められた小動物であることに。


 僕はそれ以上の説明はしないし、彼らからも質問はない。


 沈黙に飽きた陛下が、わざとらしく彼らに問いかける。


「なんだ? スランのブラノアという将に何かあるのか?」


 ニヤニヤする陛下に、床に汗で水たまりを作りながら、首を振るロメロの使者。


「何もございませんとも……。貴殿らがスランの将官にまでお詳しいのに、少々驚いた迄にございます」


「そうか? ブラノアは有名だからな。なあ、宰相殿」


 出立前までその名を一切知らなかったとは思えない、堂々としたものだ。


「ええ。色々と。そんなわけで、我々としても、知名度のある将軍が立ち会ってくれるのが望ましいので。スランには是非、そのように」


 正直、今回の呼び出しでブラノアがやってきてもいいし、来なくてもいい。どちらに転んでもブラノアに得はない。


 まず呼び出しに応じて出張ってきた場合。裏で何かと動くのが好きなブラノアからすれば、僕らとの直接的なやり取りは嫌なはずだ。直接会話をして、その言動や傾向を探られる機会になるのだから。


 それに一度対面して仕舞えば、何かあった時に呼び出すハードルが下がる。今後、ブラノアは僕らに対して、裏でコソコソと謀略をかけにくくなるのだ。


 では理由をつけてこなかった場合はどうか。


 この場合、ブラノアは多くの人から信用を失うことになる。


 今回の一件、ブラノアに乗せられた3国は全てろくな目に遭わなかった。彼らからすれば『ブラノアのせいで』という思いがあるだろう。


 そんな中で、当事者が呼び付けられて断れば、ふざけるなとなる。


 モリネラ・ロメロ・ヴィアレだけではない。この顛末は各国に広く知れ渡る。スランが沈黙したところで、他の3国が黙っている義理はないのだから。


 そうなれば、ブラノアが新たに何か策を弄しようとも、『こいつを信用して大丈夫か?』と思われてしまう。今後は何をするにも一苦労だろう。


 ブラノアにとって、どちらの方がより被害が少ないかといえば。呼び出しに応じる方だ。北の大陸への手出しは難しくなっても、南の大陸での信用失墜は最低限に抑えることができる。


 でもおそらく、ブラノアは呼び出しには応じない。


 僕の中では、確信に近い気持ちでいる。


 ブラノアが己の功績を誇らず、裏方に徹する理由は、控え目な性格からではない。単純に自分に対するリスクを極力減らしたいのだと思う。


 悪く言えば、臆病。自分の穴蔵で色々やる分にはいいけれど、穴から引き摺り出されるのは嫌がる。


 そんな人物が今回の提案で考えることと言えば……。


 まあいいや。どのみち結果は数日で分かる。


「これ以上は何もないな? ではすぐに動け」


 陛下の宣言というか、命令によって、彼らは追い立てられるように揃ってスラン王国へと出向いていった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「そうか」


 報告を受けたブラノアは、一言つぶやくと天井を仰ぐ。


 過日、サーバルスが口にしていたことを思い出していた。


『ドラク=デラッサ、ロア=シュタイン、ともに異質』


 まとめて相手にするのはやりすぎたか。我が存在を知り、逆に策を利用されるとはな……。


 ブラノアはおもむろに立ち上がると、壁に貼った地図の前に。この呼び出しは両名からの強烈なメッセージだ。『2度と手を出すな』という。


 呼び出しに応じても、断っても、ブラノアには失うものしかない。まさに、詰みの状況に追い込まれた。


 もはやこれ以上北の両国に介入するつもりはない。


 ……少なくとも当面の間は。


 ならば素直に呼び出しに応じた方が良いのだが……。


 暗殺。


 その2文字が頭をよぎる。


 両国からすれば、ここで釘を刺して終わらせるより、ブラノア自身を葬った方が後顧の憂いがなくなるのだ。すぐに実行せずとも、会談後に暗殺者をつけておいて、機を見て殺せば良い。


 ブラノアが逆の立場ならば、当然選択肢に入れるべき方針である。怪物どもに顔を晒す危険性は、どれほどのものか……。


「あの……ブラノア様、どういたしましょうか?」


 ブラノアはゆっくりと配下を睨んだ。


「発言の前には許可を取れ。先日そう伝えたはずだが?」


「申し訳ございません!」


「……あとで呼ぶ。直ちに退出せよ」


「はっ! 失礼致します!」


 配下にあたったところで気分は晴れない。


 苛立ちの理由は分かっている。分かっているのだ。


 どちらが企んだのか。踊らされた。このブラノアが会ったこともない相手に!  このような屈辱は記憶にない!


「北の怪物めが……一体どのようにして私の存在を知ったというのだ……」


 確認するのは難しいだろう。また、確認しようとも思わない。得体の知れぬ相手に対し、生まれて初めて恐怖が先にたつ。


 それでもぶつけようのない怒りが、繰り返し湧いてくる。


 ブラノアは腰の剣を抜くと、


「ぬおおおおおおお!!」


 北の大陸の地図に向かって、力一杯斬り付けたのだった。


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― 新着の感想 ―
ブラノアがどれほど優秀な策略家であっても ルデクの宰相が人生2周目で 過去世の知識で自分の存在を知られている なんて想像の埒外でしょうね ただしブラノアの存在を知ってただけで 限定的な情報からブラノア…
少なくとも当面の間、ってあきらめ悪い。
最強の帝国帝王と最凶の王国軍師(宰相)に手を出して、二人同時に手を出すべきではなかった、ってそうじゃない そもそもどちらにも手を出すべきではなかった いつかまたちょっかい出して叩きつぶされる未来が見え…
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