【やり直し軍師SS-525】南征(34)
僕の発言に対して、彼らが反応するまでにはかなりの時間がかかった。あまりの反応の鈍さに、書記官がオロオロし始めるほどに。
そうして最初に口を開いたのは、ヴィアレの使者。
「……今のロア様のお言葉、まさかとは思いますが、ルデクがこの地域を支配されるのですか? それは……」
以前モリネラ王には似たような話をしたはずだけど? そのあたりの連携は取れていないのかな? それともモリネラ王が本気にせずに放置したか。
あの段階ではディアガロス山周辺を僕らが預かり、フェザリスに代行統治させるという案であったけれど、状況が変わった。各国にはもう一歩踏み込んだ罰を受けてもらう。
「いいえ。僕らが支配するのではなく、これら領地はモリネラの所領とします」
「なっ!?」
一番驚いたのがモリネラ王と大臣のダラーロさんなのは少し面白い。逆に、ややほっとした空気を滲ませたのはロメロ、ヴィアレ両国の使者。
多分彼らはこう考えているのだろう。僕らが立ち去った後に、適当な理由をつけてモリネラから返還して貰えば済む、と。甘いよ、それ。
「モリネラ王は話し合いで解決しようとしたのに、両国は軍を動かした。さらに言えば、先日のディアガロス山で連絡不足による奇襲という失態。これからを考えれば、落とし所としては無難だと思いますが? いかがですか?」
「いや、しかし……」
ロメロの使者は難色を示しているふうだけど、やはり先ほどよりもずっと余裕がある。
それはそうだろう。元々三国はブラノアの指示のもと、結託して僕らに謀を仕掛けたのだから。最終的に全てを元に戻すのに、なんの支障もない。
僕は続ける。
「両国が条件を飲まないのであれば、正式にルデク、グリードルの両国に宣戦を布告したものと断じます。ここから先は、妥協なしの戦い。その覚悟でお返事を」
彼らが決断するのにさしたる時間はかからなかった。
さてこれで1つ解決。では次。
「ロメロ、ヴィアレの両国の使者殿が賢明で助かりました。お互いに無駄な血を流さなくて済みます。これであと残る問題は1つだけですね」
話し合いは終わったと思っていた人々は、一様に怪訝な表情を見せる。その面々の名から、僕が視線を定めたのはモリネラ王。
「では、モリネラ王。ここからは我々への褒賞についてです」
「今ですかな? それは後でも……」
「いえ。このまま話したほうが都合がいいでしょう。その方がロメロ、ヴィアレにとっても納得しやすいはずですから」
「は? それはどういう?」
「端的に申し上げますね。今回の遠征でかかった戦費の半分を貴国に請求します」
3万の兵に150艘以上の軍船。半分の費用でも小国の年間予算が軽く吹っ飛びかねない経費である。
「なっ!? しかしこの大軍は、貴殿らが勝手に連れてきたとおっしゃっておられたのでは!?」
「はい。なので、半分は持ちますよ? ですが今回の遠征、結果だけ見れば、我々はそちらの両国と戦闘するまでに至りました。慣れぬ土地で、両国の兵数と互角以上に戦うことを考えれば、3万は多くとも、半分の1万5千は必要です。いかがですか?」
「そ、それは……」
「なので実費だけ請求しようというわけです。本来は全軍の費用を支払ってもらいたいところですが、ここは“親”フェザリスを主張される貴国なので、フェザリスに顔を立てて、今回は特別に、ということで」
「そのような金額、到底払えるようなものではございませんぞ!」
モリネラ王に代わり大声を上げたのはダラーロさんだ。うん。だろうね。
「安心してくださいダラーロ殿、何も我々も一括で払えとは申しません。分割で構いませんよ」
「しかし、そのような財源が……」
「あるじゃないですか? というか、たった今できましたよ?」
僕がにっこり笑うと、少しして南の大陸の人々の表情が再び真っ青になる。流石に気づいたかな?
「先ほど得た領地、ここから得られる利益を全て我々への返済にあててもらいます。一回あたりの支払い金額は、後で領地から得られる利益を計算して決めましょう。安心してください。しっかりと過不足なく算出しますから。また、元々これらの領地はモリネラのものではありませんので、モリネラの財政には何ら痛手はない。そしてそちらの両国も、納得の上で手放した土地。我々は遠征費用の半分を回収できる目処が立つ。ほら、誰からも不満のでない方法ではありませんか?」
再び訪れた沈黙。
でもまだまだ。僕の話はまだ終わっていないのである。




