【やり直し軍師SS-518】南征(27)
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時は少し遡る。
帝国陣営に現れた奇襲騒ぎの隙をついて、ルベットは再びディアガロス山砦のそばまでやってきていた。
引き連れてきたのは30名。ルベットのようにこのままでは終われぬ気持ちで且つ、相応の実力を伴ったものを選別したのである。
砦の攻略人数としてはいささか心許ないが、ウラルも動くなら最低でも50名程度にはなるだろう。
それなら十分に陥落できる。
いや、ウラル隊がいなくとも、砦攻略の腹案はルベットの中にあった。
指定された場所に急ぎ到着してみれば、待っていたのは先日ルベットに接触してきた男がひとり。
「お待ちしておりました。ルベット様」
「貴殿だけですか? 殿下は?」
「すでに出立しております。いくら獣道を使うとはいえ、まとまって動けば目立ちますから。殿下より『砦にて落ちあおう』との言付けを預かっております。道案内は私にお任せください」
「分かりました。では早速進みましょう」
早々に動き出したルベットたちはしかし、気づいていなかった。
自分たちが立っていた周辺にばら撒かれた、湿った夜行貝の粉末に。
ルベットたちは夜行貝の粉末をたっぷりつけたまま、獣道へと足を踏み入れるのだった。
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ディアガロス山の砦を守る指揮官はエボルという。
所属はロメロ王国ではあるが、本来はスラン王国の指揮官で、ブラノアの提案による人材交流の一環としてロメロ軍部にいた。
砦に籠る兵士は300名程度と少ないが、エボルは悠々と、眼下に群がる北の大陸の軍勢を眺めている。
『北の者たちは砦を得るよりも、維持する困難さを厭うだろう。余程の理由がない限り、こちらから動かなければ放置されるはずだ』
ブラノアからは事前に説明を受けており、実際、その言葉の通りになっている。全くもって凄まじい深慮遠謀といえよう。
このまま出番なく終わるのかと思っていたが、ようやく、新しい指示が届く。
砦の中で一番見渡しの良い場所から、エボルは闇を纏った山裾を睨む。予定通りであればそろそろのはずだ。
見つめることしばし。その時は訪れた。獣道が本来の山道に近づくあたり。すなわち、篝火が炊かれたすぐそばの闇夜の中、うすぼんやりと、幾つかの光の反射が確認できた。
篝火に反応した夜行貝に間違いない。
「来たな」
これもまた、ブラノアの言う通りになった。
エボルは部下呼ぶと、「予定通りに準備せよ」と命じたのである。
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山を登る一団を確認したジュノス達に、緊張が走る。
「しかし本当にあれはルベットたちなのか?」
確かに誰かが山中を潜みながら進んでいるが、あれがルベット達である証拠など何もない。
だがジュノスは自分でそう口にしながら、どこかに根拠のない確信もあった。
言葉を交わした時間はわずかだが、ルベットの功名心の強さは十分に感じていた。宰相に手を出すようなやつなら、やりかねないと。
とはいえ流石に意味なく軽はずみな行動を起こす男ではないようにも思える。とすれば、ブラノアはルデクではなく帝国に謀略をしかけたか? それが一番あり得る話だ。
ならば俺たちはどうする? 待機命令は出ている。このまま指を咥えて見てるか?
ジュノスが一瞬迷った間に、ウラルが肩を叩いてきた。
「ジュノス、悪いがいっとき、隊を任せていいか?」
「何? お前まさか……」
「ああ。そのまさかだ。ルベットを放置できん。救出に行く」
「待て待て待て! それは駄目だろ。流石に俺でも分かるぞ。今、この場所において何かあった時一番問題になるのはお前だ。ルデクの第二王子がこんなところで殺されてみろ。それこそ即時撤退。ブラノアの狙い通りだ。ルベットが釣られたのでさえ、お前を狙う餌かもしれない」
「ああ。だが、このまま指を咥えて見ているわけにもいかなくなった。先ほどの手紙、あれはおそらく、ルベットを動かすのに私の名を騙ったのだ。ジュノス、宰相殿は言っていただろう? ルデクと帝国が仲違いするのもブラノアの目的の一つだと」
「だがウラルは勝手に名前を使われただけで、ルベットが安易にそれに乗っただけ。ウラルの責はないはずだ」
「それは我々の理屈だ。このままルベットが死ねば、ブラノアは間違いなく利用する。有る事無い事流言を流す。宰相殿が警戒するほどの相手だ、その程度は容易くやる」
確かにウラルの言い分もわかる。が、やはりそれは容認できない。
「……なら俺が行く。ウラルはこのまま待ってろ」
「いや、それもできんのだ」
「何でだ? 俺が信用できないか?」
「そうではない。むしろお前を買っているからこそ、できない」
「どう言う意味だ?」
「お前たちだけで出向いて、それが後で露見すれば、理由はどうあれ重大な軍令違反だ。あれほどまでに宰相殿が念を押したのだからな。場合によっては重い罰を受ける」
「仕方ねえだろ?」
「いや、それはだめだ。お前たちの経歴に傷がつく。最悪軍部から追放さえあり得るのだぞ。私はお前やリュージェ、ここにいる者たちは、次の世代の騎士団に欠かせぬものたちだと考えている。そいつらだけを向かわせるわけにはいかん。そして、私が参加していれば話は変わる」
ジュノスは大きく息を吐く。確かに、独断専行の中にウラルがいるのといないのでは、あとの立場が雲泥の差だ。
「……ブラノアがそこまで読んで動いたのかは分からん。が、どうあれ、ここにいる誰が同行しようと私は行く。これはルデク第二王子ウラル=トラドとしての命令だ」
「……こう言う時だけ権力を振りかざすんじゃねえよ」
「権力とはこう言う時にこそ、振りかざすものだ」
しばしの問答の後、ジュノスが折れた。
そしてジュノスとウラルはその場にいた27名を引き連れ、ルベット救出へと動き出したのである。




