【やり直し軍師SS-512】南征(21)
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ヴィアレ軍との睨み合いは3日目に突入した。僕はヴィアレ軍を睨みながら、考えをまとめてゆく。
ここまでの戦いで見えてきたもの。断言はできないけれど、ヴィアレ軍は地の利を活用して時間を稼いでいる。
客観的に見て、部隊としての強さはこちらが上だ。強引に攻め立てる選択肢もなくはない。多分、それでも勝てる。
けれど、自軍の被害を考えると、得るものに対して釣り合わないのが現状である。
かといってここで撤退もあまり好ましくない。先を考えれば、ヴィアレ軍にはもう少々被害を被ってもらいたいところだ。安易に再出兵しづらくなる程度には。
それにこのタイミングで背を向ければ、ヴィアレ軍が勢いづく恐れもある。少し時間がかかっても、もうひと当てして蹴散らしたい。
ひとまずの基本路線を定めたところで、ディアガロス山の麓まで戻っていたサザビーが帰還したのだけど、その表情は微妙なもの。
「……何かあった?」
「そうですね。まずは、この御仁からお話を」
そのように紹介されたのはモリネラ王国の臣下だ。軍議の場でも見かけたことがある。
「宰相様におかれましては、ご機嫌麗しく。戦況も優勢なご様子、さすがでございます」
「光栄ですが、ここは戦場。前置きは結構ですので本題を」
「……これは失礼いたしました。では、早速ではございますが、モリネラ王のお言葉をお伝えいたします。宰相様、および、ルデクの主だった幹部の皆様には、一度モリネラへお戻りいただけますようにとの仰せでございます」
……急に妙な事を言い始めたな。
「今の状況を理解した上での、お言葉ですか?」
「は。宰相殿のお言葉は尤もにございます。王も部隊を戻せとは申してはおりません。あくまで、主要な御仁に至急お集まりいただきたいと。……実はヴィアレ、ロフロの両国から使者がやってきたのです。『休戦および友好な交渉を望みたい』と」
「なるほど」
それは僕らを呼び戻す理由としては、十分ではある。
モリネラ王が僕らを無視して勝手に融和を図れば、ルデクと帝国の面目を潰したと思われても否定はできない。なので普通に考えれば、モリネラ王の申し出はこちらの立場も考えた提案である。
けれどこれは、間違いなくブラノアの策だな。なるほど、こういう方法で来たか。
つまり、ブラノアは僕らの兵を分断したいのだ。
まずは前線に残る部隊。これは敵国と睨み合っている以上必須となる。
全軍で撤退という選択肢もあるけれど、停戦交渉前に退いては、相手から弱腰と捉えかねないので、あまりやりたくはない。
それに撤退させたところで、ヴィアレとロフロが攻め込んでこない保証もないのだ。
とはいえどうあれ僕や陛下は、モリネラ王都へ戻らなくてはならない。そうなると、本隊が同行するのも決定事項となる。
なにせ要人だけで戻る選択肢は取りにくい。なぜなら、モリネラの軍部は手付かずで王都にあるのだから。
モリネラとの共闘を嫌がったのは僕らなので、当然の状況ではあるのだけど、こちらとしても最低限の抑止力は必要である。
さて、兵士の分割がこれだけなら良いのだけど、実はもう1つ、分けなければならない部隊があった。ウラル殿下率いる新兵達だ。
前線待機はありえない。双子やトール将軍の負担が増えるだけ。相手もウラル隊が弱点だと気づいていいる以上、ただ狙われるだけの存在となる。
では僕らと一緒に王都に戻るかといえば、これもあまり好ましくない。
もしもモリネラが裏切って、王都で僕や陛下が窮地に陥るのであれば、やはりこちらでも新兵隊は邪魔になる。
ましてルデクの場合はウラル殿下もいる。いざというとき、殿下は自分の部隊を気にするだろう。
殿下だけならともかく、新兵全体を守りつつ脱出しなければならないという状況は好ましいものではなかった。
では、浮いた新兵部隊はどうするか?
選択肢は1つしかないな。
ディアガロス山の麓に設置した拠点での待機。
ディアガロス山には敵が占拠した砦があるのだけど、実はここ、それほどの脅威はない。
僕や陛下が事前に下見した感じ、大した規模でもなければ、そもそも防衛拠点としては非常に頼りない施設なのだ。
ゴリ押しして陥としたとしても、守るに難い存在なので、むしろ手間ばかりかかる。現状においては攻め取る価値すらない。
おそらくだけど、本来あの砦は防衛拠点ではなく、街道の監視砦であったのだろうと思う。これは僕と陛下だけでなく、下見に同行した全員の総意。
なので砦の兵には注意だけしておけば、放置しても問題ない程度の存在だった。
位置関係で考えれば、新兵をここに置いておくのが最も無難。多分、帝国側も同じような考えに至ると思う。
けど、だ。
ブラノアがこういう策を使ってきたなら、多分、新兵隊の存在を見越し、その上でこの場所に誘い込んだと考えたほうが良い。
こちらの部隊をそこまで把握しているのか。良い諜報を麾下に抱えているなぁ。
……などと感心している場合ではない。ブラノアの狙いはこの新兵達だ。ここがやられると、被害はもちろん、戦力が前線と王都に分断される。
そうなれば撤退の一手。南の大陸においてルデク、帝国の威光は大いに削がれることだろう。
非常に良くできた計略だと思う。
が、残念ながらブラノアには大きな誤算が1つあった。
それも致命的な。
彼は一方的に僕と陛下を知っているつもりだけど、僕らもまた、ブラノアに視点を定めているのだ。
さて、こちらとしてはどう動くべきか。
僕の思案を、モリネラの使者が緊張の面持ちで見つめていた。




