【やり直し軍師SS-509】南征(18)
更新再開いたします!
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詳しくは活動報告をご覧くださいませ。
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ついに始まるのか。
ジュノスは静かに戦場を見渡す。
こうして本当の戦場に立ってみれば、なるほどこれは、演習とは根本的に違う。はっきりと感じられる、“人を殺す”という緊張感。
いや、違うな。むしろこれは“殺されるかもしれない”という本能的な恐怖だ。殺されたくないから、相手を殺す。勝敗などは、生き残った延長線上にあるに過ぎない。
己もそうだが、新兵が浮き足立つのは無理からぬことだ。敵は目の前にもいるが、自分の中にもいる。
比較的肝が据わっているつもりのジュノスであっても、心のどこかにある逃げ出したい気持ちを否定できないのだ。
この場にいる新兵たちのどれほどが、十全の力で戦うことができるだろう。
「……流石に、緊張するな」
沈黙に耐えかねたかのように、ウラルが呟くと、
「殿下、思っていても口にも態度にも出してはいけません。配下に伝播します」
と、すぐにベイリューズより苦言が飛び、ウラルは表情を改める。
ベイリューズの言う通りだ。新兵だけの部隊など、誰かがパニックを起こしただけでも収拾がつかなくなる恐れがある。
それらのリスクを承知で、新兵だけの部隊が出来上がったのは、宰相ロアやザックハートらの提案によるものだった。
本来であれば、新兵など各部隊に散らして配属させるのが常道。だが今回は、土地勘のない異国の地。何が起こるか読めない遠征であり、通常なら新兵など連れてゆく余地はない。
そのため、悪く言えば新兵を切り捨てた。仮に全滅しても被害が最小限に納まるように。
新兵達には事前に、『異国で死ぬ覚悟があるなら参加を認める』との、厳しい前提条件を提示した上での参戦許可である。
それでも希望者はこれだけいたのだが、実際に戦場に立って、後悔している者も少なくないだろう。
俺たちウラル隊は、今回の戦いの最前線に出て、中央の戦場を担当する。いわゆる一番槍の配置となった。
もちろん考えなしにそのまま戦いが始まれば、俺たちは一方的に蹂躙されるだけだろう。
流石に宰相もそこまで無茶ではない。左翼にトール将軍の第七騎士団、右翼に第10騎士団の双子部隊があり、俺達が危機に陥ればすぐに動ける体制が整っていた。
ようは、『まずは好きに戦ってみろ。あとはなんとかしてやる』と言う諸先輩の配慮である。
あまりに情けない戦いぶりを見せれば、早々に後ろに下げられて、ロア隊本体が中央を担う。
そのような状況において、ザックハートの右腕として経験豊富なベイリューズとその部下は、この部隊で最も頼れる存在であった。
ただし彼らはあくまで補佐。もっと言えば、最悪のケースが発生した際に、ウラルを無事に逃すためにここにいる。
そのためベイリューズからも、極力は口出ししないと事前にウラルに伝えられていた。
ベテランがそばにいるのに、素人の好きにさせる。どうにも相反する差配だが、これはつまり、実戦を肌で感じさせるための荒療治なのだ。
実際俺が知る限りでも、『実際の戦場なら……』という前置きから、どこか夢見がちな言葉を吐くやつは少なからずいた。宰相はこのあたりを危惧したか。
うがった見方をすれば、危険な考えの新兵を集めて、適度に間引くために連れてきたようにも思えてきた。
いや、それは流石に考えすぎか。それならウラルを同行させた意味が分からない。
とにかく上層部からすれば、今回の遠征で新兵に対して『戦いに夢を見るな』と釘を刺したいのだ。その意図も理解できる。
が、同時に、そこまで過保護にされてたまるかという思いもあった。その思いはウラルも一緒だ。
俺とウラルは出立前から、どうすればこの急造部隊で戦えるのかさんざん考えて、この地にやってきた。その答えの一つが……。
本隊から進軍の銅鑼が鳴る。ウラルが剣を抜き、声を張った。
「前進する! 長柄槍の準備を!」
ロア=シュタインが考案したという、組み立て式の長柄槍。しかしこの武器は結局、実戦投入に至っていない。完成前に終戦を迎えたためだ。
それでも研究は進められ、最大の懸念点であった耐久性の問題も解決し、有事の際のために各砦に眠っている状態であったのだ。
ウラルがこれに目をつけた。そもそも長柄槍は、ロアが新兵のために考案したのだという。新兵の扱う武器としてはうってつけなのである。
基本的には上から振り下ろして使う武器だが、俺たちはそこからさらに工夫して、今回の戦いへと臨んでいる。
「一陣から三陣、槍を構えよ!」
ウラルの命令で最前線の兵士が、槍を隙間なく水平に構える。
「四陣と五陣! 槍を立てよ!」
その号令で一斉に槍の林が立ち上がった。槍衾で敵の進軍を阻み、動きの止まった敵兵を、振り下ろした槍で叩く。これが俺たちの基本戦術である。
さらに別途腕の立つ者を選抜し、50名程度を別働隊として準備した。戦線に綻びが出た箇所を、個の武力で押し返すのが役割だ。
敵もじわじわとこちらへ近づいてきている。
戦いの時は目前に迫っていた。
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「ロア殿、あれは」
ウィックハルトに指摘されるまでもなく、僕は少し懐かしい気持ちになった。長柄槍を水平にしての牽制。かつてそれを実践して、レイズ様の目に留まった新兵がいた。
長柄槍を使うのは事前に聞いていたけれど、あれほどしっかりとした陣形を組んでくるのは予想外。正直、ウラルたちを侮っていたかな。
「思ったよりもいい戦いをするかもしれないね」
「ええ」
僕らが見守る中、ウラル隊の最初の矛先が、ヴィアレ王国の兵士に届いた。




