【やり直し軍師SS-508】南征(17)リヴォーテの日記 出張編④
本日少々短めです。
今回の更新はここまで!
次回は8月23日からを予定しております!
またどうぞよろしくお願いいたします!
「ほお。それでは貴殿のお祖父様は、香辛料の商人であったのか」
「正確には、香辛料も扱っていただけで、それが専門ではないがな。あっ! ディック、どこに行く」
「あの屋台、うまそうだぁ」
賑やかしい大通りではあるが、異国の巨漢であるディックが動くと、皆避けるように道を開ける。
「おい。この国の民に迷惑をかけるな。あとでロアに怒られても知らんぞ」
「俺は別に、何もしてねえぞぉ」
「お前は目立つんだから、少し控えめくらいでちょうど良いのだ」
トールとディックのやり取りを見て、俺はしみじみ思う。普段ディックの存在がそこまで気にならないのは、ちょくちょく近くにいるあの双子が目立ちすぎるからだな。
そんなことを考えながら騒がしい2人を眺めつつ歩けば、軒先に香辛料を吊るした店が目に入った。俺の勘が、良さげな店だと告げる。
「トール殿、あの店などはどうだ?」
「ん? ああ。ちょっと待っててくれ。ディックも一緒に待っていろよ」
トールだけが先に店に入ってゆくのは、トールの提案である。
『見慣れぬ北の人間が飛び込みで来れば、店の人間は警戒するか、旅人と見て足元を見てくるかもしれん。その点俺なら、見た目だけは南の人間と変わりないからな。先に価格や品揃えを確認してこよう』
なるほど、効率の良い方法だ。
それにしてもルデクのトール将軍といえば、良くも悪くも、双子にも負けぬほど破天荒な人間だと聞き及んでいる。だが思った以上に常識人であったか。
トールが戻ってくる間、俺とディックは少々手持ち無沙汰になり、往来の人々の邪魔にならぬように隅に移動して時を待つ。
それでも目立つディックは、道行く人々からの注目を浴びていた。
「……ディックよ」
「何だぁ?」
「ロアに怒られると言っていたが、具体的にはどんなふうに怒られるのだ?」
「半月間、ちゃんと訓練に参加させられるんだぁ」
「……それは本来、普通に参加すべきことなのではないか?」
「めんどうくさいから、嫌だぁ」
「……そうか」
極めて無益な会話をディックとしているうちに、トールが戻ってくる。
「どうであった?」
「ああ。品揃えも価格帯も、悪くないように思う。この店で手に入るものは購入してしまおう」
「む。了解だ」
こうして俺たちは様々な香辛料を買い漁り、気がつけば両手いっぱいに袋を抱えることになった。
「……こんなところだな。これだけあれば当分カロの材料には困るまい」
そう笑うトールへ俺は謝意を伝える。
「今日は本当に助かった。何か礼をしたいのだが」
「いや、俺も良い気分転換になったから、礼など……。おお、そうだ。それならリヴォーテ殿、貴殿がルデクで満足のいくカロを再現したら、うちの3人の妻に作り方を教えてやってくれんか?」
「3人とは? ルデクは一夫多妻が認められていたのか?」
「いや、基本的にはダメだ。だが俺は先のリフレアとの大戦の戦功で、特別に認めてもらったのだ。俺の女神は1人も欠かすことができんからな」
なるほど、やはり双子に負けぬ破天荒さではあるなと俺が感心していると、ぬははと笑いながら、トールはディックを連れて颯爽と帰って行った。
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今日は有意義な一日であった。
しかしカロという料理、俺の想像以上に可能性を感じる代物かもしれん。
そのまま食べても、もちろんうまい。が、例えば、素揚げした肉にかけてみたらどうだろうか?
いずれにせよ、まずは基本となるカロを完成させる必要があるな。
やはりトランザの宿に協力を頼んでみるか? しかし、北の大陸では嗅ぎ慣れぬ香りなので、宿の中で調理するのは考えものかもしれん。
いっそ、専用の場所を確保するか?
まあこの辺りはロアとも相談してみよう。ルデクの利になるなら、あやつも検討するはずだ。
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「よし。こんなところだな」
俺はひとり呟きペンを置くと、しっかり封をしても漏れ出る、様々な香辛料の香りで充満する部屋の中で、ゆるりと眠りについたのだった。




