【やり直し軍師SS-503】南征(12)
実りの少ない軍議を終え、ウィックハルトやトール将軍、サザビー達と雑談をしていると、視界の端に何やら気になる光景が。
陛下と双子が顔を突き合わせてコソコソと話している。
あの3人の内緒話など、絶対に碌なものではない。嫌な予感を感じていると、陛下が誰かを呼んだ。
神速で陛下の前にやってきたのはリヴォーテ。陛下がリヴォーテに二言三言何かを伝えると、コクコクと頷いて光の速さで去ってゆくリヴォーテ。
そして陛下は次に僕を見ると、にっこりしながら手招きする。本気で近づきたくないなと思いながら、嫌々そちらへ向かってみれば、
「ロア、ちょっと散歩に行くぞ」
などと言う陛下。
「散歩ですか?」
「ああ。どうせ暇だろ? お前」
「いえ、普通に忙しいですよ?」
これでも一軍を任された総指揮官だ。いくら動きがないとはいえ、暇なわけがない。
「いっときトールに任せておけ」
「部下に任せられるのも指揮官の資質だ」
急にもっともらしいことを口にする双子。先ほど見知らぬ土地を「燃やし尽くせばいい」などと暴言を吐いたのと、同じ人物とは思えない。
多少抵抗してみたけれど、正直、この3人を揃って放置しておくのも何が起きるかわからず不安だ。僕は小さくため息を吐き、
「せめて、ウィックハルトは連れて行きますよ」
と伝え、急ぎ段取りを整えたのである。
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陛下と双子に誘われるままについてゆくと、到着したのは厩である。そこにはリヴォーテの姿が。
「陛下、準備は整っております」
そんなリヴォーテの言葉を確認するまでもなく、数頭の馬に鞍がつけられ、出発準備万端だ。
「陛下、一体どこへ行くんですか?」
流石に散歩ですむ様子ではない。僕の問いに陛下が「わからんのか?」と口にすると、
「わからんのか」
「わからんのか」
と双子が真似をする。本当に自由だなぁ。
「いや、わからないですって」
流石に僕も予想がつかない。というか、なんのヒントもないのだ。当てろというのも無理な話である。僕がそのように抗議すれば、陛下はふふんと鼻を鳴らしながら、
「敵情視察に決まっているだろうが」
と、当然のように宣う。
「……まさか、ディアガロス山に行くつもりですか? この少人数で?」
「おうよ。戦場も知らずに戦えるか。それに、少人数じゃねえと目立つだろうが」
滅茶苦茶ではあるが、正論でもある。さすが帝国の元皇帝。早さは武器だと知っている。
それに確かに、双子、リヴォーテ、ウィックハルトが揃っていて、何かあった時に逃げられない気はしない。
とはいえ、陛下に何かあれば一大事。帝国のことを考えれば、止めるのが無難だろう。けれども、だ。
正直僕もディアガロス山周辺の様子は興味がある。正当な手続きを踏んでは目立つし、モリネラ側から余計な邪魔が入る可能性も否定はできない。
「危なくなったら、すぐに退きますよ?」
多分大丈夫だろうなと思いながらも、僕は一応、そう念を押すのだった。
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ディアガロス山までの道は、全く迷うようなものではなかった。
モリネラ王都を出て、北に道なりに進むだけだ。道幅や整備状況をみても、確かにモリネラ王国の主要街道であることは間違いない。
「で、ディアガロス山まではどのくらいかかるんですか?」
陛下への質問に対して、答えたのはリヴォーテ。
「例えるとすれば、ルデクの王都からゲードランドの距離よりやや遠いくらいだ」
「リヴォーテ、わざわざ調べたの?」
「陛下が足をお運びになるのだ。当然だろう」
けれど、それだと2〜3日はゆうにかかるのではないか? 往復となればそれなりの日数となる。
冷静に考えればそれはそうだ。うっかりしていた。トール将軍にはそんなに時間がかかるとは伝えていない。
僕が口にした心配に、リヴォーテは「ふん」と鼻を鳴らしてから、
「安心しろ。ルデク陣営にも旨、伝えておいた」
と胸を張る。本当に無駄に優秀だなぁと嘆息しながら、僕らは北へと黙々と馬を進ませる。
そうして適当な街で宿泊しながら、たどり着いたディアガロス山。
モリネラ側から見れば、ディアガロス山を境にして道が二股に分かれている。山の中腹には砦の姿も確認できた。あれが、敵対している両国が占拠したという砦に間違いない。
山は奥の方まで続いており、山間に街道が続いてゆく。確かにここを押さえられると流通が滞りそうだ。
ただ、それにしては……。
「……ざっと山の周辺を探ってみるか」
陛下がいう。封鎖されてると聞いていたけれど、ぽつりぽつりと人の往来はあった。ざっとみたところ兵士の姿もないので、比較的ゆるい占拠のようだ。
こうして下見を終えた僕らは、再びモリネラ側の街道に戻ってくると、それぞれなんとなく顔を見合わせて、
「……とりあえず、帰るか」
と、なんとも微妙な雰囲気の中で、帰路に就いたのである。




