【やり直し軍師SS-502】南征(11)
双子の乱暴な発言に、モリネラサイドの皆が表情をこわばらせる中、こほんと咳払いをしてどうにか笑顔をつくるダラーロ。
「い、いえ。この街道は様々な人々が行き来する大切なもの。道沿いには少ないながらも宿場などもありますので、燃やすというのは流石に……」
「まあ気にするな」
「後で建て直してやれ」
本気ではないだろうけれど、双子の苛立ちもわかる。
モリネラは船着場の工事も意図的に遅らせている節がある。何かと理由をつけてはいるが、端々に作為的な部分を感じさせていた。
勘の鋭い双子は余計にそれを察している。そろそろダラーロの胸ぐらを掴んで、問い詰めそうではある。
とはいえ燃やし尽くすのは流石にだ。後々、南の大陸の人たちへの印象も良くない。
「ユイメイ、まあちょっと落ち着こうよ。それでダラーロさん、要はこのディアガロス山周辺を占拠されている敵を蹴散らせばいいのですか?」
「は、はい。ディアガロス山の中腹に古い砦があり、そこを中心に両国の兵士が展開しておるのです。それらを追い払っていただければ……」
「それでは足りぬな」
ダラーロの言葉を遮る陛下。
「足りぬとは?」
「もっと根本的な解決が必要だ」
「根本的な解決……まさか、両国へ攻め入るのですが? しかしそれでは結局、陛下らが帰った後、我が国は徹底的に攻め込まれるだけではありませんか」
「そうならん方法があるぞ」
ニヤリとした陛下は、不意に僕へと視線を移した。
「ロア、お前ならどうする?」
……急に振らないでほしいなぁ。けどまあ、ディアガロス山周辺を焼くことなく、僕らが帰っても、相手が手を出せない状況となると、選択肢は限られてくる。
詰まるところ、その場所になんらかの抑止があれば良いわけだ。かつ、モリネラを含めた3国が手が出せないような事情となれば……。
「……帝国が、預かる。ですかね?」
「おう。正確には、うちとお前んところで預かる。そうでないと、うちが占領しているみたいになるからな」
「ああ、まあ確かに。その方が良いでしょうね。でもそうなると誰か駐屯させる必要が出てきますが?」
「いや、別に北からわざわざ派遣する必要はねえ。ちゃんと定期報告が届けば良い。『今日も何もありませんでした』ってな」
「あ、そうか。フェザリスに任せるのですね」
「そういうことだ」
満足そうに頷く陛下であったけれど、ダラーロさんをはじめ、モリネラの面々はきょとんとしている。
「……あの、どういう……」
困惑したまま問うダラーロさんへ、陛下は少し呆れ気味に「今の話を聞いてなかったのか?」というと、僕に「あとは任せる」と丸投げ。
僕は密かにため息を吐いて、陛下の考えを説明する。
するとすぐに、モリネラの人々から不満が上がった。
「それでは結局、貴殿らが南の大陸へ侵攻したのと同じではないか!?」
「いくらなんでも勝手にすぎる!」
などなどである。この問答、到着したばかりの時もしたよなぁ。で、陛下に一喝されたのにもう忘れたのだろうか。ほら、陛下が不機嫌そうにしてる。
なんかもういっそ、この国自体帝国の傘下に置くとか言い出しそうだけど、彼らはわかっているのだろうか。陛下がやると言ったら、やるよ?
陛下に限らず、帝国の幕僚も、双子をはじめとしたルデク側の将官も、モリネラの中途半端さにうんざりし始めている。
この国を両国で占領してしまえば、スランのブラノアとて簡単には手出しがしづらくなる。
でもまあ、それは本当に最終手段だろう。
南の大陸に本格侵攻となれば、いよいよ長い戦いになるだろう。いくら僕らの国が豊かだからと言っても、長期戦は国を疲弊させる。
本国の目の届きにくい、南の大陸の中でも最南部に領地を広げたところで、手間が増えるだけ。
結局最後は情勢が不安定になって、独立戦争なんかが起きて手放す、なんて結末も十分あり得るわけだ。
僕はなるべく、モリネラ王国の重臣達を刺激しないように言葉を選んで説得を試みる。
それでもなお、納得のいかない顔をする人々は多い。そして最終的にモリネラ側の意見をまとめたのはモリネラ王本人。
ただしそれは決して前向きなものではなく。
「ともかくその辺りは、一旦ディアガロス山周辺の情勢が落ち着いてから、再度話し合いを……」
という問題を先送りにするだけの意見であった。




