【やり直し軍師SS-501】南征(10)
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一般兵と共に寝泊まりすると決めたウラルのために、急遽設られた陣幕の中。
ジュノスとウラル、そしてルベットは、3人だけで酒を酌み交わしていた。
外はだいぶ静かになっている。
振る舞い酒でしばらく盛り上がっていたものの、緊張の糸が途切れたのだろう、酔い潰れるものが散見され、ベテラン兵士から『これ以上はダメだ』と説教が入ったのだ。
全くその通りである。勝ち戦の後ではないのだ。最低限の緊張感を保てなくては、酒など口にすべきではない。
ジュノスはその兵士からさらに、
『本来なれば、副官であるお前が諌めるところだぞ。何をぼんやりしているのだ』
と注意されたが、反論の言葉もない。同時にウラルも『それは俺にも言える事だな』と反省の弁をこぼした。
やはり人をまとめると言うのは大変だ。まして自分たちと同じ、戦場を知らない兵士たちともなれば尚更。
出鼻をくじかれたジュノス達が陣幕へと戻ると、先ほど挨拶にやってきたルベットが酒を持って待ち構えていたのである。
「貴殿らも注意を受けましたか」
どこか飄々としたルベットは、酒を舐めながら苦笑を漏らした。
「と言うことは、ルベット殿も」
ウラルの言葉にこくりと頷くルベット。
「どこも似たようなものです。私もしっかりと苦言を賜り、その足でルデクの様子を見にきたと言うわけです」
「お目付役は、確かフォルク将軍であったな?」
「ウラル王子はフォルク将軍をご存知でしたか」
「当然であろう。帝国の名将の一角だ。知らぬ方がおかしい。それに当然、ネッツ将軍のことも」
そう、ルベットはあの有名なネッツ=ストレインの実子であった。挨拶の場でそう聞いた時は流石に驚いた。
本人は『不祥の息子です』などと言っていたが、ネッツ将軍といえば、皇帝の飛槍とも称される勇将である。
その息子に戦場経験がないと言うのは少々意外な感じがしたが、思えばジュノスとそう変わらぬ年。ならば当然といえば当然か。
今回の出陣は当人たっての希望で叶ったという。
「ロア様相手に無茶をした甲斐がありました」
「宰相殿に? 一体何を?」
怪訝な顔をしたウラルに、ルベットは盤上遊戯の大会にまつわる、一連の流れを話し始めた。楽しげに話すルベットであったが、それを聞いたジュノスは呆れる。
本人は危険を理解したつもりで手を出したのだろうが、火遊びをするには相手が悪すぎる。
ジュノスは第三騎士団に入団したことで、祖国滅亡までの流れや人の動きを、より詳細に知ることができるようになった。
その結果、ジュノスが導き出した結論は、リフレアを滅ぼした張本人はロア=シュタインであるという事だ。
大袈裟な話ではない。ルデク第一騎士団の裏切をきっかけに突如表舞台に現れたロア=シュタインは、帝国同盟、第一騎士団の撃破、そして最後の戦いに至るまで、そのすべての絵図を描いた可能性がある。
そのような怪物を相手にするのは、正直、不用意としか思えない。
だがわざわざそれを指摘するのもどうかと思う。ルベットの戦場に出たいという気持ち自体は理解できるのだ。
しかし……。
ジュノスはどこかもやりとした気持ちを抱えながら、ルベットの話を黙って聞いていた。
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僕らはモリネラ王に呼ばれて、軍議の場に集まる。
正確にいえば、陛下からせっつかれたモリネラ王が、渋々軍議を開催したと言う方が正しい。
王に限らず、モリネラの動きは全体的に鈍い。業を煮やしているのは陛下だけではない。僕もそろそろ作為的なものを感じ始めていたところだった。
「……では、現在の我が国の状況をご説明差し上げたい」
進行役を担うのはモリネラ王国の右大臣、ダラーロ。
テーブルに広げられた地図を僕らは覗き込む。
「この南端にあるのが我が国。我が国は周辺を3つの国と接しております。現在揉めているのはこの北と西にある2国です」
ダラーロが指さしたのはそれぞれ、地図にヴィアレとロフロの国名が書き記されている。僕らが危険視している、ブラノアがいるスラン王国の場所は、ヴィアレ王国のさらに北側。
「両国は反フェザリス派閥に属しており、わが国の動向に大きく難色を示し、行動で示してみせたのです」
「具体的には、何があったのだ?」
陛下の問いに、ダラーロは地図のとある場所を指差した。
「……ここはディアガロス山という山によって、道が三叉路になっております。流通経路として非常に重要な場所なので、今まではモリネラ・ヴィアレ・ロフロ、三国が国境を共有していたのですが……。この地に両国が兵を置き、人や物の行き来を封鎖したのでございます。
「ほお」
陛下が楽しそうに目を細める。
「なら話は簡単だ」
「その辺全部燃やせばいい」
全く出番がないので、大分鬱憤が溜まっている双子が無茶を言い出した。
そんな何の解決策にもならない双子の言葉に、モリネラの面々はなんとも言えない表情を見せるのだった。