【やり直し軍師SS-500】南征(9)
今回の更新はここまで!
次回は8月6日の再開を予定しております!
今話でまさかまさかのSS、500話到達です!
本当にここまで続けられたのは、読んでくださっている皆様のおかけです。
この先もどうぞ、本作品にお付き合いいただけると嬉しいです!
陣の設営が概ね完了し、天幕の中でジュノスがやれやれと腕を回した頃。
「おお、思ったよりも早く出来上がったのだな」
などと言いながら、のそりとやって来た人物がいた。ルデク第二王子、ウラルである。
「なんだウラル、いまさら来やがって。もうお前に用はない」
「そうすげなくするな。お前ら新兵に酒と肴を持って来たのだ。宰相殿から労いだそうだ」
「それを早くいえ。じゃあ俺の方で引き受けよう。それじゃあな」
「おい、それは冷たくはないか? 物だけ貰って追い払おうとは」
「別に追い払うつもりはないが、ウラルは王宮にいないとまずいだろ?」
ジュノスにとっては同じ新兵であり、ただの同僚であるが、立場で言えばそう言うわけにはいかない。
現にウラルだけは真っ先に王宮へ招き入れられて、相応の部屋を用意してもらっているはずである。ジュノスの言葉に、ウラルは苦笑しながら首を振る。
「いや、もう私の役割は果たしたからな。宰相殿に頼み込んで自由にしてもらったのだ。今日から私もこの陣営で寝泊まりする」
「もの好きな話だな。ここには柔らかい寝具はねえぞ」
「実戦の経験を積みに来たのに、豪奢なベッドで寝泊まりしては意味がない」
「そりゃそうか」
「それに私としては、今のうちに新兵たちとの親交を深めておきたい。形ばかりとはいえ、私が命を預かるのだからな」
今回、ルデクより派遣された兵士の中で、実戦経験のない兵士は3000名に及ぶ。ジュノス達が所属する第三騎士団からだけではない。各騎士団より参加しているのだ。
そしてロア=シュタインはそれら新兵を一つの部隊と定め、その指揮官にウラルを指名した。無論、ウラル一人では無理なので、補佐としてザックハートの右腕、ベイリューズが付く。
これは状況に応じて新兵をまとめて後方に下げるための方策であるらしい。帝国も同様の方法を採用していると聞く。
ベイリューズ曰く、
『もしも本当に厳しい戦いになった時、正直お前らは足手纏いになるからな。下手に混乱したり暴走されるよりは、まとめておいた方が安全だ』
などと言っていた。
子供扱いかとムッとしたものだが、見ず知らずの場所で、先ほど感じたピリついた雰囲気を思えば上層部の判断はあながち間違ってはいない。それこそ子供ではないが、はぐれてしまったら祖国に帰るのもままならない。
当然、周囲のベテラン将兵がしっかりフォローするだろうが、それでもウラルの責任は重大である。
「おい、ジュノス。随分他人事のような顔をしているが、お前もしっかりしてもらわないと困るのだぞ」
俺の表情から考えを読まれたのか、ウラルが苦言を呈してくる。そう、俺にも実は肩書きがある。ウラル隊の副隊長という。
これはウラルが指名したものだ。ウラルが部隊を任されるにあたり、副官は自由に選んで良いと言われたらしい。
部隊の構成としては、指揮官ウラル、補佐にベイリューズ。副官は俺。その下に小隊長がいる。小隊長は各騎士団から選出され、それぞれ小分けにした騎士団の新兵をまとめる役割を担う。
「わかってる。それを証拠に、ほれ」
ジュノスが懐から出した紙の束を、ウラルは怪訝な顔をして受け取る。そうして目を通し始めてると、わずかに驚きの表情を見せた。
ジュノスが渡したのは新兵の小隊長の名前や特徴、癖など。それと、各部隊の中でも名前が知られた人物を列挙したものだ。
「お前、こんなまめな事ができたのか?」
「失礼な。……ま、俺たちは洋上待機が長かったからな。暇だったんだ。同じ船の奴らから聞けるだけの情報は集めといた」
「これは助かるな」
「それ、やるよ」
「なに? ではお前が困るだろうが?」
「いや、俺はもう覚えた」
「なんだと? 本当か?」
「こんなところで虚勢をはってどうする」
「……お前、バカじゃなかったんだな」
「なんだ、喧嘩売ってんなら買うぞ? ちょうど身体もなまってんだ」
「許せ。少々意外だっただけだ。いや、そうか、君の父上のことを思えば……」
「……まあ、そう言うこった」
父は文武に優れた将だったのだ。俺が猪武者で父の名を貶めるわけにはいかないのだ。
しばしウラルと今後について打ち合わせをしていると、天幕の外から、
「失礼、入っても良いか?」
との声がした。
「誰だ?」
「グリードルの新兵をまとめている、ルベット=ストレインと申します。こちらにウラル王子がおられると聞き、挨拶に伺いました」
「どうぞ」
天幕を開けて入ってきた人物。
これがルベットとの、初めての対面であった。




