【やり直し軍師SS-483】挑戦(1)
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「変われば変わるものだね!」
ゾディアの隣で呆れた声を上げるのは、ル・プ・ゼアの同胞、パリャだ。
ゾディア達旅一座は今、北の大陸の西の端にあるシューレット王国を歩いていた。
「そうね」
ゾディアも少し驚くほどの変わりようだ。
一昔前なら、旅一座は入国するだけでも怪しまれたり、宿に泊まろうとしても、専用の宿にしか泊まれなかったりと、少なからず差別的な扱いを受けてきた。
それが今やどうだ。入国審査は廃止され、宿は向こうから呼び込みをする始末。パリャの言葉の通り、変われば変わるものだ。
変化の理由ははっきりしている。シューレットが戦いに破れたから。
ルデク・帝国を中心とした、連合軍に降伏してからすでに3年。今もなお、シューレットは激変の最中にいる。
特にパリャは思うところがあるのだろう。パリャは元々シューレットの出身である。幼い頃から散々嫌な思いをして、国を捨て、一座に入った。
彼女は変わりゆく祖国を見てどう思っているのか。
まあ、いちいち確認する必要はない。話したければ自分から口を開くはずだ。個人の気持ちを尊重するのは、旅一座の唯一絶対の決まり事なのだから。
一行はゆるゆると歩みを進める。目的はシューレットの王都である。
実は今回ル・プ・ゼアがやってきたのは、とある人物から誘いを受けた事が発端だ。
と言っても、打診を受けたのはすでに1年近く前の話。ついでに言えば、招待はルデク宰相のロアを経由して受け取った。
『まあ、本人も一応は悪いとは思っているらしいよ』
そんな前置きとともに手渡された手紙には、シューレットの新宰相、フィリングの署名がほどこされていた。
ただし本当の依頼者はフィリングではない。ゾディア達を招かんとしているのは、数年前、ル・プ・ゼアを罠にはめ、いっときとはいえ投獄した人物、ザードだった。
ザードがそのような暴挙に出たのは、ひとえにロア=シュタインの懐に入り込むため。
それも個人の利益のためではなく、当時から燻っていたシューレット国内の権力争いに端を発する行動である。
ゾディア達としては、同胞が怪我をしたわけでもないので、面白い体験をした程度の認識であり、特にザードに対して含むところはない。
どころか、ザードの行動がなければシューレットはどうなるかわからなかった。一つの国が乱れれば、周辺国にも小さくない影響が出る。
国から国へと渡り歩く旅一座にとって、それは死活問題にもなりかねない。
ゆえにむしろ、ザードにはよくやったなという印象の方が強かった。
が、ザードの方はそうは思っていないらしい。尤も、ザードからすれば単純な罪滅ぼしというよりも、ロアに対するアピールの意味があるのかもしれないとゾディアは思っている。
一般認識では、ゾディア達はロア=シュタインに近しい存在である。
ロアに近づくために利用したという事実は、ザードとしては解消しておきたい蟠りと捉えていてもおかしくはない。
シューレット国内を現王派が完全に掌握した今、そういった懸念材料の対処に動いたと。
だからこそ、手紙をロアに託したのだろう。掴みどころのない人物であるけれど、抜け目なさは際立っている。
それはそれとして、誘われたからと言って、すぐにル・プ・ゼアが応じるかは別問題である。
結果的に手紙は預かったまま放置されていた。何か他に理由があれば行こうか、なんて話をして。
今回シューレットに向かう気持ちになったのは、旅一座の同胞より聞いた、とある話に占めるところが大きい。
『ヴァ・ヴァンビルがシューレットの王都に向かっている』
ヴァ・ヴァンビルは、ゾディアが最近目をかけている旅一座である。一座としての歴史は比較的浅い。が、この一座は少々特別な存在であった。
ロアがかつて、別の未来で共に旅した旅一座。
ロアが一度別の未来を歩んだことは、ゾディアを含めてごく一部の人間しか知らない。
ヴァ・ヴァンビルの話は、ルデクで行われた旅一座の祭典の際、ロアの妻ラピリアから聞いたのである。
単なる世間話ではなく、『ロアも気にしているから、可能な限りで構わないのでフォローしてほしい』という頼み。
ゾディアとしても、同胞の手助けをするのはやぶさかではないし、ロアとの関係を知った以上は放置するつもりもなかった。何かあったらロアが悲しむだろう。
ロアは全ての旅一座にとって大恩ある相手でもある。ゾディアはラピリアの密かな願いを受け、こうしてたまに情報を集めていた。
それに。
ゾディアには少し興味のある存在が、ヴァ・ヴァンビルにはいる。
レヴという娘だ。
旅一座の祭典の際、世間話のつもりでレヴと歌の話をした。レヴはその時、自分で物語を紡ぎたいと色々と苦闘している最中だった。
そうして話の流れの中で見せてもらった書きかけの物語から、ゾディアは才能の一端を感じとったのである。
正直内容はまだまだ拙い。けれど、言葉の端々に感じる瑞々しい感性は目を引いた。ゾディアはその場ですぐに気に入ってしまい、即興で歌詞に仕上げて、祭典で歌い上げるに至ったのだ。
変革の最中にあるとはいえ、シューレットは芸事にうるさい国だ。シューレットという国が存在する限り、この本質が変わることはないだろう。
そのため、ヴァ・ヴァンビルに限らず、旅一座がシューレットの王都を目指すのは、一座の芸事に対する挑戦という側面がある。
つまりヴァ・ヴァンビルは、シューレットでも通用するだけの芸を磨いてきたと判じ、実際に評価を受けるべく挑むのだろう。
その中でレヴがどのような役割を担うのか。それを楽しみにやってきたのだ。
ゾディアはほんの少し心を浮き立たせながら、王都の方角の空を眺めるのだった。




