【やり直し軍師SS-482】幻のフルレ(7)
本日よりマンガUPにてコミカライズスタート!!
ロアが、ラピリアが躍動致します!
是非是非ご覧くださいませ!
今回の更新はここまで。
いかがでしたでしょうか?
次回は6/18日からを予定しております。
またお楽しみいただければ嬉しいです!
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「あの夜。こちらの狙い通り、フルレ目当ての盗賊達はトラド学院に侵入してきました。そうして、学園内で我々との戦いが始まったのです」
普段のやや大袈裟な話し方とは一転、サザビーの抑揚のない口調が、より真実味を増す。
「最終的に侵入してきた賊は15名。こちらの想定よりも多かったのですが、我々も相応の準備をしていました。その一つが、第10騎士団からの援軍」
「援軍? 騎士団も動いたのか?」
「いいえ、殿下。正確にはとある人材を借り受けました。夜目が利き、身軽で、際立った戦闘能力を有する2人を」
そこまで説明されれば、もはや確認するまでもない。
「ユイメイの2人だな」
サザビーは頷いてから続ける。
「2人は『上から監視してる奴がいる』『そいつを放っておくと厄介だ』と言って、屋根の上へ」
「ちょっと待て、では……」
5回生、エリスンがあの夜見たという怪物は……。
「おそらく。双子と賊の戦いを見たんだと思います。ま、あの二人は“怪物”と言って差し支えないので、あながちその目撃者の言葉も間違ってはいないです」
「しかし、そんな大人数同士の戦いなら、流石に騒ぎになりそうなものだが」
「ま、その辺は裏の人間と裏の人間の戦いですからね。双子もああいう戦いは得意ですし。むしろこちらとしては、目撃されていたという方が少々驚きでした」
裏の世界の人間同士の戦い。ゼクシアには想像ができない。槍を振るうでもなく、武名を誇るでもない戦いが、5年前のあの場所で確かにあったのだ。
「相手は強かったのですか?」
ロピアの言葉に、サザビーはまた頷く。
「ええ。予想通りかなりの手だれでした。罠にかけたにも関わらず、こちらにも少なからず被害が出ましたから」
普段は軽薄そうだが、サザビーの実力は双子ですら認めるところだ。そのサザビーが手強いというならば、余程であったのだろう。
「で、問題のフルレが鳴った件ですが、これは残っていた敵を集めるために鳴らされました。一箇所に集めたほうが効率がいいですからね」
「なるほど。それで、治安部は無事に任務を終了した、ということか?」
「もちろん。……といいたいところですが、実は3名取り逃がしました。まあ流石に逃げた者達は王都を離れたみたいですが」
「そうなのか……」
「我々も逃がしたままで終わりではありません。現在も後を追っています。それでも、5年もの間足取りがつかめていないので、他国へ逃げおおせたのでは、と。殿下やロピアちゃんが警戒する必要はないとは思いますが、万が一学校で不審な人物を見かけたら、知らせてもらえると助かりますね」
最後はやや不穏な言葉で締めたサザビーだったが、本人の言う通り、5年も見つからないのならば、もはや王都での活動は諦めたのだろう。
全て話し終えたとばかりにお茶を口にするサザビーへ、ロピアが問う。
「じゃあ、フルレは結局、普通のフルレだったんですか……」
その言葉にポンと手を叩くサザビー。
「あ、そういえば、そのフルレ。多分まだ、学院にあるはずですよ。本校舎の屋根の上に」
「なぜそのようなところに?」
「いやー、最後にユイメイが屋根の上でフルレを吹いてみたいと言って持って行ったんですよ。で、飽きたらそのまま置いてきた」
なんという自由な……。だが、あの2人らしい。
ともかくロピアの聞いた幻のフルレは、人知れず起きた、暗部同士の戦いであったという真相とともに、幕を下ろしたのである。
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サザビーの話を聞き終えたゼクシアとロピアは、いつもの城壁の上にいた。
ひどく残念そうなロピアは、先ほどから黙って空を仰いでいる。そんなに幻のフルレの結末が気に入らなかったのだろうか?
と、ゼクシアは不意に先日のロピアとの会話を思い出す。
『お前も知っているだろう? 俺は楽器には疎い』
『知ってる。でも、もしかしたら、手にした途端にフルレの達人になれちゃうような、夢みたいな楽器かもしれないわ』
「まさか、お前本当に……」
思わず口をついて出た言葉を、ゼクシアは慌てて飲み込んだ。
「何よ?」
若干不機嫌そうなロピア。
「いや、なんでもない」
大軍師ロアから受け継いだ知謀、戦姫ラピリアから受け継いだ運動神経を持つロピアにも、大きな弱点があった。
―――芸事のセンスが、致命的にない―――
絵を描かせれば、その絵を見た幼子が泣き出し、フルレを吹かせれば、どうやって出したのかわからない珍妙な音を響かせる。
それがロピア=シュタインという娘である。
ルファンレード学園入学を希望した際に、ロピアの母、ラピリアが入学に難色を示したのも、ひとえにこの問題に起因している。
娘のやりたいことに水を差したくはないが、のちのちロピア自身が傷つくのではという思いからだ。
ただ、ロピアは幼い頃から王妃に非常に懐いており、いずれは王妃の文化事業を手伝う仕事がしたいと夢見ていた。そうなると、ある程度文化や芸術に触れておく必要があった。
まさにいばらの道である。
他の道を選べば、なんの苦もなく望みを叶えられるだろうに。
ままならぬものだな。
同じく空を見上げて、そんな風に考えていたゼクシアは、突然脛を蹴られて悶絶する。
「いきなり何をする!」
「今絶対、何か腹立たしいことを考えてたでしょ!」
理不尽に腹を立てながら、こちらを睨むロピア。
……仮にこの私、ゼクシア=トラドに、ロピア=シュタインへの顔つなぎを頼まれれば、私の答えは決まっている。
悪いことは言わない。やめておけ、だ。