【やり直し軍師SS-480】幻のフルレ(5)
エリスン情報が幻のフルレに関係しているとすれば、噂の発端は5年前ということになる。
ならば、学院内では当時を知るものはあまりいない。そこで情報収集の役割を分けた。
地方出身であるコナーとセルジュは、引き続き学院内での調査。
中央貴族の娘であるオーリン及び、ゼクシア、レゼット、ラゼットは5年前に在学していた貴族に話を聞くことにしたのだ。
すると、ぽつり、ぽつりとではあるが、フルレの話に聞き覚えがあるという人物が現れる。
と言っても、エリスンのような具体的な目撃証言などではなく、『トラド学院に高価なフルレが秘蔵されているらしい』とか、『開校当時、学院の守りとして、王妃が金のフルレをどこかに奉じた』などである。
年数が経過している上、元々ちょっとした噂程度の話であるため、覚えていた者達の証言も非常に曖昧である。
が、少なくとも母上が金のフルレを云々というのはガセだろう。少なくともゼクシアは聞いた覚えがない。
それでも念の為母上や父上にも話を聞いてみようとも思ったが、途中で考え直す。
入学式の一件も記憶に新しい今、このタイミングでロピアが絡んだ話となれば、要らぬ心配をかける。
それにしても、だ。
ここまでの情報でゼクシアには、腑に落ちない部分があった。
ゼクシアに限らず、仲間達の集めてきた情報も含め、幻のフルレの存在を知っていたのは、全てが貴族であったのだ。
トラド学園には、比較的貴族の子女の割合が高いとはいえ。これはどうにも気になる。やはりロピアが言っていたように、また貴族が絡んでいるのか?
「……分からんな」
ゼクシアは1人呟くと、これ以上考えるのを諦めた。
一応情報は集めたのだ。ここからは“あいつ”の出番だろう。
「ラゼット」
「なんでしょうか、ゼクシア様」
「すまないが、いつものようにルファンレード学園に行ってくれ」
「かしこまりました。それで、いつがご希望ですか?」
「早い方がいいだろう。あいつの時間が取れるなら、今日か明日の夜。それ以外なら向こうの都合を聞いてほしい」
「確かに承りました。では」
すっと消えるラゼットを見送ると、ゼクシアは、城壁に持ち込む菓子は何にしようかと考え始めるのだった。
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いつもの城壁の上、先に着いたのはゼクシアの方だった。ゼクシアが待っている時のやることは決まっている。読み差しの本を取り出し、ゆっくりとページを開く。
ゼクシアは比較的どんな物語も嗜むが、最も好んでいるのは恋愛ものである。今読んでいるのは、グリードル帝国の隆盛に翻弄されながらも、力強く幸福を掴んでいく亡国の姫の話。
恋愛ものを楽しむのは、自室とこの場所だけと決めていた。他の場所だと色々差し障りがあるのだ。
ゼクシアとしては迷惑な話なのだが、人目のある場で恋愛ものを読んでいると、好機とばかりに言い寄ってくる者達がおり、大変煩わしい。読書くらいはゆっくり楽しませてもらいたい。
ランプの光を頼りに、オリヴィア姫の生き様を楽しんでいると、
「ごめん! 遅くなった!」
と言いながらロピアがやってきた。
「珍しいな? 何かあったのか?」
「帰りがけに同級生の相談事に付き合っちゃって……」
「アヴリとしての生活も大変だな」
「まあね。でも、これはこれで新鮮かも」
「そうか」
話しながらお茶の用意を始めるロピア。それを受けてゼクシアも本を閉じ、菓子を用意する。
そうして一息つくと、ロピアがあらためて口を開いた。
「で、呼び出したってことは、例のフルレの件よね? 何か分かったの?」
「分かったといえば分かった。が、よくわからぬ事も多い」
言いながらゼクシアがここまでの情報を伝え始めると、ロピアの瞳は星のように輝き始める。
「……と、私が集めたのはこんなところだ。おそらく5年前の話が大元だとは思うが、ロピアの考えを聞きたい」
ゼクシアが説明し終えても、ロピアは難しい顔をしたまま、身じろぎ一つしない。長いまつ毛がランプの灯りに照らされて、頬に影をおとす。
ロピアがこうなったら、声をかけても無駄であることは良く知っていた。
ゼクシアは再び本を開き、ロピアの思考が終わるのを待つ。
20頁ほど読み進めただろうか。
「うーん。これ、もしかして……。でも……。うーん……」
何度も頭をひねるロピア。それから小さくため息を吐くと、
「仕方ない。これ以上は直接、話を聞くしかないか…………」
「何を思いついたのだ?」
「ねえ、ゼクシア。もう一つ頼みがあるのだけど」
そう前置きをして頼まれたのは、ゼクシアにとっては少し意外な依頼であった。




