【やり直し軍師SS-48】第三皇子は翻弄される⑥
「ロア殿、お久しぶりでございます。遅ればせながらリフレアとの戦いにおける勝利。おめでとう存じます」
「サリーシャ様。有難うございます。貴国の助けもあり、無事に裏切り者たちを討伐することが叶いました」
一番最後にやってきたサリーシャ様と、ロアの挨拶。
私がそのやりとりをぼんやり眺めていると、サリーシャ様が最後に「ところで」と小首を傾げる。
「何故ロア殿がこちらへ? 王都でお待ちの予定では?」
ロアはその質問に逆に首を傾げる。
「え? 陛下から聞いておられませんか? 元々ビーランドで落ち合って、区割り図を受け取ったら僕らは遺跡へ、陛下は王都へ向かう手筈だったのですが……」
その話を聞いた私はピンときた。父上の意趣返しだなと。言い負けて悔しかったのだろう。だから敢えて教えなかった。
……懲りないお方だ。このような事は初めてではない。結局あとでサリーシャ様にめちゃくちゃ怒られた上、3倍くらいやり返されるのに……
サリーシャ様もすぐに思い至ったようだ。怖い笑顔を浮かべていた。私は背筋の凍る思いをする。
「えっと……」
困惑気味のロアに、サリーシャ様はその笑顔のまま続ける。
「……当国の方に少々伝達ミスがあったようです。大変失礼いたしました。では、予定通り図面の引き渡しを。それからドラクより、図面に関していくつか言付けも預かっておりますので」
「そうですか。しかし、我々も少し早く到着しすぎたようです。まずは朝食と致しませんか?」
「あら、それは宜しいですね。ロア殿や皆様もご一緒して頂けるのかしら?」
「はい。同席をお許しいただければと」
「もちろんです。本来であれば王都でゆっくりとお話をお伺いしたかったのですが、こちらの落ち度。せめて、ゆっくりと朝食を楽しみましょう」
サリーシャ様の言葉を受けて、砦の守備兵がすぐに案内の準備を始める。すでにロアの手によって朝食の手筈は進められていたようだ。
「ラピリア、久しぶりね!」
「ルルリア! 貴方に教えてもらったジャムの作り方、凄くよかったわ。今日もいくつか持ってきているから味見してもらえる?」
「ええ。もちろん!」
ロアとサリーシャ様の挨拶が終わるのを待っていたルルリアが、ロアの側近と楽しげに会話を交わし始めた。
手紙のやり取りをしているというだけあり、会話から信頼が窺え、義妹の顔の広さに少々舌を巻く。
こうして開催された、ロアとその側近との朝食会。
それは私にとって、予想外の展開に向かってゆくのであった。
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「重ね重ね惜しいですね……」
朝食の最中、サリーシャ様のそんな言葉から話は始まった。
なんのことかと言えば、ロアたちが遺跡に向かう話である。グリードルの使節団はこのまま王都へ向かい、ルデク王と会談の後、ゲードランドを経由して帰国する予定だ。
ルデク王との謁見は動かせないし、私を含めて忙しい身だ。数日ならともかく、長期の予定変更は難しい。
つまり、サリーシャ様は「私も遺跡を見てみたかった」と言っている。そしてそれはルルリアも同じ。
しかしながら、かたや帝国を支える重要な柱の一つであり、もう一人は現在帝国にとって最重要拠点であるドラーゲンの管理責任者だ。
流石に2人とも”自重”という言葉を知っていたようで、悔しそうに我慢してるのが分かる。
「……まあ、仕方ありませんね。街ができた時には是非ともお招きいただきたいものです」
「ええ、それはもちろん」
「えー私も!」
「ルルリアは完成前に何度かきそうな気がするけど……当然招待するつもりだよ。ツェツィーも一緒にね」
「……なら良いわ。今回は王都で待ってるルファとの再会を優先する!」
私はパンを齧りながら、ぼんやりとそんな会話を聞いていた。
その矢先のことだ。
「でも……そうすると、街が完成したらドラクはまたロカビルに仕事を押し付けそうね……ロカビルが可哀想だわ」
サリーシャ様が何やら不穏ことを言い始めた。私は特にその遺跡の街には興味がない。招待もされないであろうし、行くつもりもない。
そのように口にしようとするより先に、義妹がサリーシャ様に同意をする。
「確かにそうですね……それではロカビル義兄様だけ、遺跡を見れないかも」
「あ、いや」
私の言葉は2人の耳には届かない。
「そうね。ルルリアの言う通りだわ。ドラクに仕返しもしないといけないし……ロカビルの休暇を伸ばして、あの人の仕事増やしてあげましょうか」
「や、だから……」
「義父様のお仕事はともかく、義兄様のお休みが増えるのは良いことです!」
「ロア殿、遺跡にロカビルも連れて行ってもらうことは可能かしら?」
サリーシャ様の提案に待ったをかけたのはロアではなく、リヴォーテ。
「サリーシャ様、それは些か……警護の面から賛同できません」
しかし、リヴォーテの反論はあっという間に論破される。
「あら、リヴォーテ、貴方が同行すれば問題ないでしょ? 私たちにはリュゼル殿を始め、頼りになる護衛がおりますもの」
ぐぬぬと言う顔をするリヴォーテ。ところで私の言葉はいつになったら聞いてもらえるのだろうか?
「ロア殿、如何かしら?」
改めて口にしたサリーシャ様の問いに、ロアは苦笑しながら答える。
「ロカビル様が希望されるなら、こちらは問題ありませんよ」と。
私が希望するなら、ロアは確かにそう言ったはずなのに、結局私はロアたちと共に遺跡へと足を運ぶことになったのである。